実践から学ぶ まちづくり入門講座

内容紹介
著者自身が関わるまちづくりの課題に学ぶ。
現代の都市は、人口減少、差別と貧困、空き家問題など、多くの課題に直面している。本書は、それらに関する課題や社会潮流について講義し、関連する用語や制度、施策、現代的なまちづくりについて学びながら、一方で、著者自身が実際に関わったまちづくり実践例を題材とし、熱くぶつかっていった経験を交えて語るものである。
寺川 政司 著
著者紹介
体裁 | A5判・256頁 |
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定価 | 本体2800円+税 |
発行日 | 2025-04-10 |
装丁 | KOTO DESIGN Inc. 山本剛史 |
ISBN | 9784761529253 |
GCODE | 5712 |
販売状況 | 予約受付中 (店頭発売:2025年4月5日頃) |
ジャンル | 自治体・自治・都市政策 |
プロローグ(本書の読み方)前から読むか・後ろから読むか?
第Ⅰ部 移りゆく時代に挑む住まいとハウジングの物語
01 かわる家族と世帯の住まい
1-1 少子高齢・人口減少社会のいま
1-2 世帯の多様化と代表制を失った「核家族」
1-3 世帯と暮らしの多様化とハウジング
02 時代とあゆむ住宅政策と住宅地計画
2-1 住宅政策の変遷と課題
2-2 計画的住宅団地の黎明期
2-3 公営住宅団地に参画する建築家:「創造」のデザインと「協働」のデザイン
03 団地というエリアでつむぐ ひと・もの・こと
3-1 団地ストック再生とリノベーション
3-2 団地再生にむけた新たな挑戦の時代へ
3-3 時間デザインの不在:入居者と建物のエイジング、戸建住宅団地の危機
3-4 「日常生活圏」における住宅と施設機能の再構築
04 住宅セーフティネットとハウジング
4-1 住宅確保要配慮者の実態
4-2 住宅セーフティネット法の背景と制度の変遷
4-3 居住支援における横断的施策と「地域」への広がり
4-4 住宅確保要配慮者をめぐる施設と住宅
4-5 共生とケアを支える住まいの未来:矛盾をこえる社会のイメージは?
05 居住支援と不動産
5-1 居住支援協議会と居住支援法人の動向
5-2 新たな不動産事業「ソーシャル不動産」
06 住宅ストックと空き家再生
6-1 空き家の実態
6-2 空き家法の改正で何が変わるか
6-3 民泊新法と空き家
第Ⅱ部 まちづくりのこれまでとこれからにつなぐ物語
07 国土形成計画とまちづくり
7-1 国土計画の変遷と現在
7-2 “コンパクト+ネットワーク”と 都市再生・地方創生
08 エリアマネジメントとPPP/PFI
8-1 エリアマネジメント
8-2 急騰する都市再開発とまちづくり
8-3 うめきた:大阪最後の一等地開発の挑戦
8-4 えっ そんなことできるの? 「御堂筋チャレンジ」と「なんばひろば」
09 コンパクトシティと地域再生
9-1 コンパクトシティの特徴と課題
9-2 人口減少社会とスマートシュリンキング
9-3 都市のスポンジ化と空き地・空き家の活用
9-4 移住・定住とマルチハビテーション
9-5 暮らしのモビリティはどう変わるのか?
10 景観まちづくりと観光
10-1 日本は景観に無関心なのか? 景観への関心と施策
10-2 景観まちづくり施策における事例
10-3 伝統的建造物群保存地区(伝建地区)と法制度
11 密集市街地とまちづくり
11-1 喫緊の課題の一つである密集市街地
11-2 密集地再生の課題と事業手法
11-3 土地区画整理事業:海外に注目された日本型開発手法
11-4 小規模で柔らかい区画整理
12 災害復興まちづくりのリアリティ
12-1 被災者の「避難プロセス」と環境移行
12-2 復興と時間のデザイン
12-3 防災計画・事前復興と、民間による連携・協働そしてアジャイルなまちづくりへ
第Ⅲ部 時間・空間・制度・関係性にある間(あわい)の物語
13 空き家・空地とまちづくり 地域資源ストック活用の実践から
13-1 空堀地域における 空き家再生・まち再生
13-2 大阪市東三国区画整理事業と協調建替:コーポラティブ住宅「楠木の会」
13-3 築87年の長屋再生「ながせのながや」(座学と実学をつなぐサービスラーニング)174
13-4 かみこさかの家:高齢者と学生のシェアハウス実験住宅
13-5 「ないなら、つくればいい」六甲ウィメンズハウス:女性と子どものコレクティブハウジング182
13-6 寺島自治会コミュニティセンター:相続と地域貢献
14 公営改良住宅団地エリアの再生と参加のデザイン
14-1 大阪市東淀川区西淡路西部地域:エリアマネジメント前夜のまちづくり
14-2 八尾市西郡地域
15 インフォーマルを受けとめる もう一つの災害復興の形
15-1 阪神・淡路大震災のフォーマルとインフォーマル
15-2 「テント村」という避難の場:誰も触れない世界
15-3 阪神・淡路大震災と東日本大震災の“間”を埋めるデザイン
15-4 気仙沼南町商店街再生 復興計画策定支援
16 えこひいきから始まった「西成特区構想」の挑戦
16-1 このまちのこと
16-2 「えこひいき」コメントの余波
16-3 西成特区構想前夜:まちづくりに関わる組織と構想
16-4 からんだ糸を紡ぎなおすまちづくりへ
16-5 まちづくりの萌芽:いまはない制度・事例をうめる実践
16-6 特区構想の推進とまちづくりの議論
16-7 市長・知事へのメッセージ:3期にわたるまちづくりビジョン・提言
16-8 西成のあいりん総合センターの強制執行とまちづくり
寄稿
まちづくりの潮流…“うめきた”での行政の役割から
柏木勇人(元 大阪市計画調整局うめきた整備担当部長/現 竹中工務店 顧問)
公共空間からまちを変える、プランニングの民主化─水都大阪、なんば広場等の実践から
泉 秀明(有限会社ハートビートプラン代表取締役)
伝統産業と新しい仕事の創出(奈良県吉野町)
中井章太(吉野町町長)
エピローグ
プロローグ(本書の読み方)
前から読むか・後ろから読むか?
日本はいま、急速に変化する時代のなかで、ハウジングやまちづくりのあり方が根本から問われています。とくに、本書の執筆にあたり避けて通れないのが「災害」です。1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災、2024年の能登半島地震そして翌年の大水害など、大規模災害が相次いでいます。これらの出来事は、私たちの住まいとまちづくりに大きな影響を及ぼしました。
さらに、2019年に発生した新型コロナウイルスのパンデミックは、世界規模の社会変革を引き起こしました。リモートワークの普及、ライフワークバランスの変化、衛生・健康・メンタルヘルス意識の高まりなど、新たな価値観が生まれました。しかし、これらの動きの多くは、災害やパンデミックの発生以前から、政策の一環として議論されていたもので、その変革が急速に進んだともいえます。また、南海トラフ地震などの危機も迫っているなかで、今後のハウジングとまちづくりは、どう進めればよいのでしょうか。
こうした変化を踏まえ、本書では、ハウジングとまちづくりの歴史的な背景を整理しながら、新たな潮流に関する実践的な事例を紹介し、これからの住まいとまちのあり方を考えるきっかけを提供したいと考えています。ただし、対象テーマは幅広く、そのすべてを網羅できないことから、一定範囲に絞っています。
なお本書は、筆者が大学で担当している「現代ハウジング」と「現代都市計画」の講義内容をまとめたものでもあり、これから学びを深める学生はもちろん、地域のまちづくりに関わるNPOや企業、行政の方々にとっても有益な気づきやヒントとなれば幸いです。
本書は3つの物語からなる全16章で構成されています。
第Ⅰ部では、ハウジングをテーマとし、「移りゆく時代に挑む 住まいとハウジングの物語」と題し、住宅の変遷やその背景にある政策を整理しつつ、具体的な事例を紹介します。省庁による白書やデータを横断的に活用しながら、住まいに関する課題と展望を明確にすることを目指しました。
第Ⅱ部では、まちづくりをテーマに、「まちづくりのこれまでとこれからにつなぐ物語」を展開します。デジタル化の進展や多様な市民参加型の取組みが加速するなか、まちづくりに求められる新たなアプローチについて考察します。とくに、全国の先進事例を紹介し、実践に即した課題と解決策を探ります。
第Ⅲ部「時間・空間・制度・関係性にある『間(あわい)』の物語」では、第Ⅰ・Ⅱ部で提示したテーマを踏まえ、筆者自身が関与した実践事例を掘り下げます。筆者の試行錯誤とともに振り返ります。実際の現場で直面するリアルな課題を、読者の皆さんに共有できればと考えています。
また、各部の出典・参考文献頁にQRコードを掲載し、関連法規や制度、事例などの詳細情報にアクセスできるようにしました。ITが普及した現代では、必要な情報を容易に検索できますが、時に情報の波に飲まれ、自分が何を探しているのか見失うこともあります。本書では、ハウジングや都市計画に関する情報を体系的に整理し、読者が必要な情報にアクセスできる「道しるべ」を提供します。
新しい潮流を無批判に受け入れるだけでは、過去の知見や経験を軽視することにもなりかねません。情報が氾濫する時代だからこそ、歴史を学び、現状を試行しながら検証し、未来を見据えた仕組みを作ることが肝要だと考えます。
その意味でも、本書で紹介する実践事例は、決して華やかな成功事例ばかりではありません。むしろ、社会課題が集積するマイノリティエリアの挑戦を取り上げました。これらの事例は、レジリエンスとアジャイルという視点で、まちづくりやハウジングのあり方を見直す契機となってくれるものと考えています。
今後のまちづくりでは、予想できないような課題も浮上することでしょう。さらに、ビッグデータやエビデンスベースの政策立案(EBPM)が進むなか、個別性やユニークなまちづくりが排除されるリスクも意識しなければなりません。
現時点では、この急激な社会変革が、今後の災害時にどのように機能するのか、慎重に見極める必要があります。
あなたは、第Ⅰ・Ⅱ部から読む「テーマエントリー派」でしょうか? それとも、第Ⅲ部から読み始める「実践エントリー派」でしょうか? 本書が、皆さんにとって新たな発見のきっかけとなることを願っています。
2025年2月22日、私の恩人であり、まちづくりの師匠の一人だったホルヘ・アンソレーナさんが帰天された。建築家であり社会活動家でもあった彼は、アジアのスラムで住民主体のまちづくりを支え、セルフビルドハウジングを推進した。その功績は世界に認められ、1994年にはマグサイサイ賞を受賞している。筆者が彼と出会ったのは1995年、阪神・淡路大震災の直後だった。東京で開かれたACHR-Japan「ポンの会」で震災の現状を報告したときである。その時代に出会った人々から受けた影響が、私のまちづくりの原点となった。
当時、安藤元夫先生から「軍艦アパート」を、塩崎賢明先生から「災害復興」を、早川和男先生からは「居住の権利」を、そして、アンソレーナさんをはじめとするACHRの人々の背中を見ながら、アジアや人権のまちづくりについて学び続けた。とくに内田雄造先生の「関西で人権まちづくりを進めるので、手伝ってくれませんか?」という一言に背中を押され、地域に飛び込んだ。何者でもなかった私は、何者かになろうともがきながら、現場で生きる道を選んだ。
時代は変わり、AIやデジタル技術が発展し、まちづくりも新しい局面を迎えている。しかし、人と人がともに生きる営みの本質は変わらない。技術がどれだけ進化しても、目を合わせ、声を掛け合いながら築かれる「まちの温もり」は、決して失われてはならないと思っている。
今、私は教員として、学生たちに「現場のリアル」を伝えることに力を注いでいる。たとえば、西成のまちづくりの経験は、卒業後の建設現場で労働者に対する視線が変わることなどを含めて、社会の多層性を肌で感じる機会を得ることが重要である。まちづくりは、机上の理論だけでは語れない。人と交わり、現場で体験することで初めて見えてくるものがある。
都市はスマート化し、効率性が求められる時代。しかし、人と人が築く濃密な関係から生まれる知恵や情熱は、どれだけAIが発展しても代替できるものではない。まちは、単なるインフラの集合ではなく、人の営みが織りなす有機的な存在であり、その「熱」を絶やしてはならない。
本書で紹介した取組みは、決して私一人で成し遂げたものではない。そこには、地域のリーダー、住民、行政、ゼミ生、多くの人々の関わりがあった。彼らとともに悩み、歩み、築き上げた時間が、今の私を形作っている。執筆を終え、改めて思う。本書では語り切れなかった物語が、まだ数多くある。初稿は500頁を超え、それを削る作業に尽力してくれた編集者の知念さんやデザイナーの方々に感謝したい。
本書、執筆の最中に多くの大切な人が旅立った。本書は、自身を振り返る機会であったのかもしれない。本書を、アンソレーナさんをはじめ、西成のまちづくりを支えた西口宗宏さん、志半ばで旅立った元ゼミ生の藤田悠樹くん、そして人生の師であった父・修へ捧げたい。彼らの想いと経験は、まちとともに生き続ける。まちづくりは、これからも続いていくのだから。
開催が決まり次第、お知らせします。
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公開され次第、お伝えします。