DMOと観光行政のための マーケティングとマネジメント
内容紹介
DMOと観光行政のそれぞれの役割、仕事を解説
観光客の「訪れて良し」と住民の「住んで良し」を両立し、地域が「稼いで良し」となるにはどうすれば良いか?行政が担う規制や基盤整備等のマネジメントと、地域の良さをPRし誘客するDMOのマーケティング、それぞれの役割と機能、手法を解説。デジタルプロモーションやオーバーツーリズム対策など焦眉の課題も取りあげた
はじめに
序章 観光地経営のフレームワーク--「住んで良し、訪れて良し、稼いで良し」の観光振興へ
1 地域におけるDMOの位置づけと事業目的
2 DMOが行う3つのマネジメント機能
3 地域関係者間の機能と役割分担のイメージ
4 観光振興は誰のために行うのか─「住んで良し、訪れて良し、稼いで良し」のバランスの取れた政策推進
第1部 観光地(デスティネーション)のマーケティング
第1章 デスティネーション・マーケティングの要点
1 デスティネーション・マーケティングの導入
2 デスティネーション・マーケティングをマネジメントする
3 デスティネーション・マーケティングを支える体制づくり
第2章 観光資源の特徴と地域の個性づくり--コンテンツとマーケティングの関係
1 観光資源とその特徴
2 あらゆる資源を活用する観光まちづくりの必要性
3 観光行政の役割と姿勢
第3章 マーケティングから見た地域の個性--集客における文化資源の活用の難しさについて
1 旅行のモチベーション
2 文化と観光の関係
3 マーケティングの視座から見た文化資源
4 観光と芸術・文化の関係
第4章 観光市場に向けた戦略づくり--顧客に向き合うためのターゲティングとそれを支えるデータ
1 顧客に向き合う─セグメントの事例から考える
2 データを活用したターゲティング
3 観光地は顧客と向き合わねばならない
第5章 デスティネーション・ブランドの構築--観光地のブランド構築は誰が行うのか
1 ブランドの役割
2 デスティネーション・ブランドの構築
3 デスティネーション・ブランドの特徴
4 旅行者との絶えざるコミュニケーションに向けて
第6章 多層化・立体化による効果的なプロモーション
1 観光地域での業態別プロモーション・ミックス
2 パブリシティ
3 デジタルによる情報流通の変化
第7章 デジタルによるプロモーション・ミックス
1 観光地プロモーションのパーチェス・ファネル
2 カスタマー・ジャーニーとコンタクトポイント
3 旅ナカ・旅アトのコンテンツ・マーケティング─SNSの活用について
4 プロモーションからコミュニケーションへ
第8章 観光DXで何が変わるのか
1 DXとは何か
2 観光DXによるマーケティングサポート
3 DXに取り組む覚悟
第2部 観光地(デスティネーション)のマネジメント
第9章 旅行者の視座と規制緩和--自治体の観光政策に求められること(1)
1 集客力と満足度を高める方法─デスティネーション・マネジメントの必要性
2 規制改革は住んでよし、訪れてよし、稼いでよしのまちを創る
3 観光行政の役割はデスティネーション・マネジメントにある
第10章 住民の視座とオーバーツーリズム--自治体の観光政策に求められること(2)
1 SNSがもたらす新たなオーバーツーリズム─住宅地や市民利用の場が観光地と化す住民のいらだち
2 インフラの許容量のオーバーによるオーバーツーリズム─住民向けのインフラに旅行者の来訪が加わり容量がオーバー
3 オーバーツーリズムとその類型
4 オーバーツーリズムへの対応
第11章 地域内経済循環を高めるツーリズムクラスターの形成施策
1 ツーリズムクラスターの分類
2 地域創発型集積〈タイプ1〉
3 外来企業中心型集積〈タイプ3〉
4 インフラ中心型集積〈タイプ4〉
第12章 新たなタイプのツーリズムクラスターの形成施策
1 規制緩和型集積〈タイプ5〉─アルベルゴ・ディフーゾと日本の事例
2 観光ファンド型集積〈タイプ6〉
3 ツーリズムクラスターにおけるDMO・観光行政の役割
第13章 地域エコシステムとしての役割
1 地域が人を呼ぶ時代、地域を商品化することの両面性
2 地域内部の関係者と行政・DMOの関係
3 三セク経営の課題からの脱却
4 観光地域をオーケストレイトするために
注
参考文献
索引
あとがき
この本はタイトルのとおり、DMOで汗を流している人たちと行政において観光の政策を担っている人たちに向けて書いたものです。そこで働く人たちは、観光で地域振興を実現しようと献身する情熱を持った人たちがほとんどなのですが、いまDMOに求められているデスティネーション(観光地)マーケティングの知見が不足していて、これまでの経験だけでは地元の関係者の期待に応えられないとか、観光行政への着任は初めてでイベントやプロモーション(情報発信)以外にやるべきことが分からずDMOと同じことしか考えられないなど、葛藤を抱えている人が多いのも事実です。
この原因は、行政の人事制度と三セク経営にあると私は考えています。DMOは本来、組織の利益追求を目的とするのではなく、自治体の観光政策の実現のために公共性の高い業務をこなしていくプロ集団でなければいけませんが、一方で日本の多くのDMOは観光行政を頂きとする階層組織でもあります。行政はDMOの実力を信頼するとともに、DMOと議論するだけの知識とマインドを持たなければなりません。また、旅行者の満足度を高めたり観光企業を誘致したりするにはインフラ整備や規制緩和が必要で、役所内の各部局との調整機能が求められます。しかし、2、3年で異動することが常である行政マンにこれらのことを求めるのは難しいことが分かってきています。DMOにおいても、出向者の帰属意識、構成メンバーの専門性、人事評価制度の運用、観光行政との役割分担、財源などの課題が明らかになってきており、観光地域づくりの司令塔となりきれないジレンマが横たわっています。
これらの課題を議論することは必要ですが、本書では深く触れません。本書では、ジレンマを抱えながらも地域観光に献身する人たちに、デスティネーションのマーケティングとマネジメントの「勘どころ」をお伝えすることを目的として執筆しました。
国の文書にDMOが登場するのは、2014年の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」です。その後、観光まちづくりの舵取り役として位置づけられ、デスティネーション・マーケティングを担う役割が与えられました。観光庁は登録DMOを拠点として地域観光の政策を実施できるようにしたのですが、その政策は高度化し、商学や経営学の視座から観光地のマーケティングやマネジメントの実行を求めています。これまでの経験とそれを基盤にした知識だけではなく、理論やデータを取り込んだ施策展開への切り替えを求めたのです。しかし、いきなりそう言われても、何をどうしてよいか分かりません。そもそもマーケティングとは調査をすることだと理解していた人たちも多く、何をしなければならないか混乱をした地域は多いようです。そのため、業務委託をするのですが、表層的な取り組みとなりがちでした。
本書は、DMOや観光行政の職員の方々が勘どころを知ることで、事業を内製化できなくとも、しっかりと事業者にディレクションできることを目指した手引書です。各章とも多くの事例をもとに、理解を助けるための図表、写真を用意しています。また、観光実務に関わる理論も多く紹介しています。理論は現場の悩みにストレートに答えを出してはくれませんが、解決に向けての手がかりを与えてくれます。ぜひ実践の中で、理論を乗り越えていってください。
DMOが地域の「顧客の創造」をマーケティングを通して、観光行政が「地域社会のニーズの充足」を観光地のマネジメントを通して果たすことで、創造的で未来志向の観光地域づくりが実現します。この本が、その一助になれば幸いです。
2024年10月23日
高橋一夫
この本の企画は2019年5月に学芸出版社の前田裕資さんに持ち込んだことから始まりました。出版の意図は「はじめに」に記したとおりなのですが、翌年からのパンデミックで人の流れが止まり、執筆を中断することにしました。コロナ禍が明け、人の動きが見えてきた2022年から再度書き出したのですが、当初から数えると足掛け5年となり、前田さんには辛抱強く待っていただきました。深く感謝申し上げます。
観光産業は、災害も含め外からの影響を受けやすい産業だと思います。しかし、Go Toトラベルなど旅行をしてもいいというシグナルが出され、右肩上がりに宿泊者数が増えていく様をみると、旅行に対する欲求の強さに改めて驚きもしました。2023年以降のインバウンドの急激な回復も、「移動すること」「未知の文化や景観に対する好奇心」という人間の根源的な欲求の強さを示すものだと思います。
こうした人々の「満たされざる欲求」を地域に還元することが、観光による地域活性化ですから、その役割を担うDMOと観光行政は高い志をもって「観光の真の産業化」にあたらなければなりません。
本書の再校をしていた9月末に観光庁がDMOの登録要件を見直し、「観光地経営戦略」の策定を必須として戦略の中で求めるKPIも変更することが会議で出されました。その内容は、マーケティング力であり、組織経営力であり、利害関係者をマネジメントする力を求めるものと言えます。私は、本書がこうした観光地経営を担う皆さん方の肥やしになることを願っています。
出版にあたっては、九州産業大学の室岡裕司さん、大正大学の柏木千春さんに原稿を読んでいただき様々な指摘を頂きました。瀬戸内ブランドコーポレーションの井坂晋さんには金融分野における私の知識不足を補って頂きました。紙幅の都合でお一人おひとりのお名前は書けませんが、多くの方にご指導・ご協力を頂きましたこと、この場を借りて感謝申し上げます。
2024年10月24日 高橋一夫
開催が決まり次第、お知らせします。