街づくり×商業 リアルメリットを極める方法

街づくり×商業 リアルメリットを極める方法 
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内容紹介

e-コマースに対抗する実店舗と街のつくり方

人々は今e-コマースでは得られないココロの満足や体験価値を求めている。だからこそ実店舗では「地域の人との出会いの場」という強みを活かしたい。再開発、郊外の地域共生型SC、地方都市の複合施設、そして商店街のプロジェクトに加え、注目の池袋とメルボルンの「街づくり×商業」からプロデュースの実際を説く。


松本 大地 著   
著者紹介

著者は「個々の商店の個別最適から街全体にとっての最適をめざそう」、そうすることがほんとうの魅力になるという。自身を含め、日々の商売に必死でとても無理と思わないではなかったが、出版記念パーティにはたくさんの人たちが集まり、共感されていた。そうした思いが広がり実践されていることに希望を感じる。読者に少しでも伝わればと思います。
編集担当M
編集担当M
体裁四六判・192頁(56ページ)
定価本体2200円+税
発行日2024-06-10
装丁ym design 見増勇介・関屋晶子
ISBN9784761528959
GCODE5692
販売状況 在庫◎
ジャンル 都市・中心市街地再生
目次著者紹介はじめに最後にレクチャー動画関連イベント関連ニュース

はじめに

第1章 個別最適から「街づくり×商業」への大転換

1│商業は変化対応業
2│変化対応で生まれ不対応で沈んだ量販店
3│変化対応を加速させたECの台頭
4│「物の豊かさ」から「心の豊かさ」への対応
築地本願寺の挑戦
人々の求める豊かさの変化

第2章 エリア価値を上げた商業施設の開発

1│街のエリア価値をつくったラゾーナ川崎プラザ
2│地域と共生するあべのキューズモール
3│近隣型商業施設による子育て世代の居場所形成
そよら海老江
リコパ鶴見
4│シニア就労付き近隣型商業施設 ─ ヘーゼルウッド

第3章 ギャザリングと地域満足によるSC運営

1│ギャザリングによる運営のファンベース化 ─ キューズモール
2│SCでの公民連携事業 ─ 大和リース
フレスポ稲毛とまちづくりスポット
公募提案型貸付事業によるブランチ大津京
3│東急不動産、大和リースで取り入れた「地域満足」運営
CS、ES+LSへ
三方よし経営

第4章 地方中心市街地活性化と全体最適街づくり

1│商店街最適ではなく全体最適街づくりの必要性
2│駅の機能を超えた街の居場所 ─ キーノ和歌山
3│中心市街地のハブになった盛岡バスセンター
にぎわい施設の魅力
盛岡のローカルハブに
4│商業プロデュースの実際 ─ 三之丸町地区優良建築物等整備事業
福山市ウォーカブル政策と駅前再開発
コンセプトづくり
地元企業の誘致
グローバル企業の誘致
福山スタイルを目指して

第5章 令和時代に求められる商店街づくり

1│商店街の現状
2│世界一幸せになる商店街 ─ ストロイエ
3│若者の起業の場になった沼垂テラス商店街
4│パッサージュ・デ・パノラマと友好提携した円頓寺商店街
パリのパッサージュ・デ・パノラマ
秋のパリ祭
5│食の再構築に期待大の砂町銀座商店街

第6章 女性や子どもが集まる副都心に変えた豊島区の決断

1│ダイナミックに変化を続ける豊島区の挑戦 ─ 池袋
公園から広まった公民連携の輪
街の品格とパブリックマインド
2│地元の不動産会社が街を変えた ─ 大塚

第7章 ウェルビーイングで成長を続けるメルボルン

1│世界最先端の「街づくり×商業」の街
メルボルンとの出会い
多文化と多様性
日常のマーケット
アーケードとレーンウェイ(新旧の居場所)
2│コロナ禍を乗り越え公民連携で成長が続く街
パブリックスペースとアート
南半球最大のRSCと世界で最も持続可能なSC
ウォーカブルな20分生活圏

第8章 「街づくり×商業」を動かす自走組織「街づくりデベロッパー」

最後に

松本 大地(まつもと だいぢ)

株式会社商い創造研究所代表取締役、株式会社賑わい創研 代表取締役社長。
1952年神奈川県生まれ。山一証券に入社するも日々の仕事内容に疑問を抱き退職。婦人服専門店最大手・鈴屋の中途採用コピー「あなたの上司は社長です」に惹かれて入社。新規事業開発部署に配属され、アメリカの大規模ショッピングセンターに出会う。
その後、丹青社マーケティング研究所所長としてショッピングセンターや駅ビル開発の推進、新業態開発などを多数手掛けた後、2007年株式会社商い創造研究所設立。経済産業省コト消費空間づくり研究会委員ほか、多くの行政からアドバイザー委嘱を受ける。2018年株式会社賑わい創研設立。
安泰と言われた山一証券、一世を風靡した鈴屋は経営破綻し、いまはない。小売業はもちろん、市町村や大都市であっても、変化対応をしなければ生き残っていけない時代になった。常に時代の変化を進化に変えていく心と技を磨き、伝えている。

筆者は建築でも都市計画でもランドスケープの専門家でもないが、街づくりから商業施設づくりのマーケティング、コンセプトメイク、プランニング、開発から施設運営にいたるまで、トータルでの商業プロデュースを重ねてきた。

大学卒業後、1974年に「山一證券」に就職し大企業で平穏な人生を送れると思っていたが、仕事に将来展望が描けず、当時、青山ベルコモンズを開業し、海外にも出店を拡大していた婦人服専門店「鈴屋」に転職した。1983年に米国視察の機会をもらい、初めてショッピングセンター(SC)ビジネスと出会い、日本でのSCの可能性を感じた。その後、総合ディスプレイ会社「丹青社」に転職し、そこでもSCという暮らしに夢を添える施設に魅了され、現在も毎年米国各地の定点観測や、ヨーロッパ、アジア、オセアニアと世界各地のSC研究を続けている。

1997年、タイガーウッズが初来日した際、米国ナイキ社によりお台場で大規模なイベントが開催されたが、筆者はこのイベントの全体プロデュースを担った。翌年、長野オリンピックでも米国ナイキ社からオファーをもらったことがきっかけとなり、ナイキの本社があるオレゴン州ポートランドと出会った。このとき賑わいが広がる街の中心部に、サステナブルな街づくりと豊かな暮らしが重なる光景を見たことが人生の転機となり、「ポートランドのような街をつくりたい」との思いが年々膨らんだ。

2007年に「人と街と商いの良好なリンケージ」を社是に掲げ、「商い創造研究所」を設立した。蛇行を続けてきた人生だが、根底には常に商業開発が街づくりに資する「商業街づくり」の考え方を持って、数々の商業開発プロジェクトを進めてきた。2008年に埼玉県越谷市に誕生した「レイクタウン」は、プロジェクトメンバーとポートランドを視察した。レイクタウンは、全国一の大きさを誇るだけでなく、イオングループが総力を結集したサステナブルなエコ・ショッピングセンターとして持続可能な暮らしへのメッセージ発信を続けている。東京駅八重洲と丸の内を結び、エキナカ新業態でエリア価値向上に貢献し、大ヒットした「グランスタ」などのプロジェクトにも参画した。

2011年3月11日に東日本大震災が発生し、死者と行方不明者が2万2千人を超える大災害に見舞われた際、同年11月に復興街づくりを発信するための「世界建築会議」が日本で初めての開催されることになった。その初日のオープンシンポジウムに建築家の内藤廣氏、都市計画家の西郷真理子氏とともに選出していただいた。被災地の状況から持続可能な街づくりの視点、建築だけではなく個々人が環境問題を意識して共生する暮らし、地域コミュニティの重要さ、商業施設ができるサステナビリティなどを提言した。世界建築会議以降も街づくりやエリア価値を創造するSCの推進、都市再開発、地方での活性化計画において「商業街づくり」を追求してきた。

しかし、2020年のコロナ禍以降は「商業街づくり」を、「街づくり×商業」に置き換えている。コロナ禍は生きること、暮らすこと、働くことにかかわる価値観に大きな変化を及ぼし、商業施設と地域コミュニティの街づくり思考を深く再考する機会になった。全世界で行動制限がされ、私たちは普段の生活の大切さを思い知り、公共空間や商業空間でもリビングルームのような心地よい時間を過ごせることを求めた。災害だけでなく、多くの社会課題が山積した今、商業のことを先に考えるのではなく、先に街づくりのことを考え次に商業のことを考えていくと、全然違う発想や創造力が湧いてきた。プロデュース実践活動を通じて、「街は人を変えることができる、人は街を変えることができる」と確信している。

20世紀は世の中の方向が「安い、大きい、便利」の経済優先だったのが、2008年のリーマンショック以降は「心地よい、美しい、社会に役立つ」という生活文化優先の時代へと変化した。人々の精神的消費への欲求が強まり、ライフスタイルのサポートをしてくれる商業や公共の空間を強く求めてきた。

本書の後半でオーストラリアのメルボルン市を取り上げたのは、今やメルボルンの街が最先端のライフスタイルをつくりだす生活文化都市であるからだ。なぜ、メルボルンがリバブルシティと言われるのか。その理由は「住みやすい都市」であること。住む人々が活動的に快適に過ごせる環境と、ワークライフバランスが整いやすく、住んでよし、働いてよし、学んでよし、訪れてよしの理想郷であることが本書から理解いただけるだろう。

東京のような大都市でのいくつかのプロジェクトでも、面で考えた全体最適を捉えた街づくりが先にあり、そこに商業がどうあるべきか、というアプローチで考えると、持続可能な都市未来図が見えてくる。

商業プロデュースの実践に加え、日経MJ、繊研新聞、商業施設新聞などでの連載や大学・ファッション専門校での講義、全国での講演活動など情報発信を続けてきた。その集大成として、この書籍を通じて次世代に向けた街づくりと商業が融合する「街づくり×商業」の可能性を提案していく。過去から現在までの事象から、明日の未来に向けた発想力、創造力のヒントになれるよう綴っていきたい。

2024年4月10日

松本大地

大きな視点での商業と街づくりに関する考え方から、様々なプロジェクトを体験したことで得たプロデュースの実践、街づくりデベロッパーの提案、さらに最も刺激を受けているメルボルンでの「街づくり×商業」の現況にいたるまでを綴ってきた。

公民連携による取り組みが社会的課題解決のビジネス化につながる時代となった今、大都市でも地方都市でも公園や道路といったパブリックスペースや、図書館、公民館、博物館などの有効活用により街の価値を高めるチャンスはある。また、行政にとっては「街づくり×商業」による施設や空間の魅力づくりは、住民や地域が豊かになり人や経済も元気になり循環をすることで、賑わいや税収増につながる。参画する民間にとってもビジネスチャンスが広がるはずだ。

「街づくり×商業」は新しい未来の街づくり、都市づくり、そして地方創生にいたるまで、大きく貢献できると信じている。本書では「商業は生きもの」と論じてきたが、最終章に近づくにつれて、「街も生きもの」と感じてきた。生きものはデジタルでもバーチャルでもなく、リアルそのものだ。リアルだからできることをメリットにしていくには、創造性と実行力のある「街づくり×商業」が永遠に求められていく。名古屋で最古の商店街でも、池袋のような大都市であっても、「常に時代の変化とともに生き続けるために、挑戦、創造、革新をすること」であり、それは人の生き方と同様に生きものとして、なりたい街になるために今よりも高みを目指して進むことだからだ。

筆者は吉田拓郎の名曲、「今日までそして明日から」が大好きである。1972年に公開された映画「旅の重さ」の劇中歌であり、大学時代はフォークバンドを結成して歌ったこともある。コロナ禍に四国の鉄道に乗り、車窓から映画で映されたような風景を眺めながら口ずさんでみた。サビの一節に「私には私の生き方がある。それはおそらく自分というものを知るところから始まるものでしょう」とある。あらためて、ただ高みを目指すだけでなく、潜在力は何かを気づくことの大切さがあって高みを目指せると腑に落ちた。どうやらこれからも「今日までそして明日から」の旅を続けていくのが性に合っているようだ。

これまでまでたくさんの人と街と商いとの出会い、学び、気づき、刺激をいただき、今日まで歩み続けることができたことに感謝を申し上げたい。2024年は私の干支であり、72歳の年月を重ねてきた。人生を野球のスコアボードと考えると、まだ7回表であり9回裏にはまだ20年以上ある。最近、シニアライフに必要な三つの「きん」を教えてもらった。一つは、お金の「金」、二つには、近所の「近」、三つには、筋力の「筋」である。老後資金やご近所付き合いも大切だが、三つ目の「筋」が衰えると、旅に行けない、人に自由に会えない、周りに迷惑をかけてしまう。幸いに大きなケガや病気にもかからずにきたが、この「筋」を鍛えるのがとても重要であり、健康でなければ人生の後半戦は面白くないと思う今日この頃である。

1990年代半ば以降に生まれたZ世代と2010年代以降に生まれたα世代は、2050年には総人口の半数を占める見通しであり、新しい世界のリーダー役となっていく。これからも街づくりと商いの世界に寄り添いながら、次世代に最高のバトンが渡せるよう日々精進を続けていければと切に願う。

2024年4月10日

松本大地

開催が決まり次第、お知らせします。

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