設計者のための 建築コストプランニング術
内容紹介
ベテラン見積部長が極意をやさしく指南
設計者が建築工事段階でのトラブルを防ぎ、施主の信頼を勝ち取るためには、建築コストに関する知識が欠かせない。狙い通りの見積をとるための図面の書き方、施主の予算・要望に応えつつ良質な建築を実現するツボ、設計段階別・工事種別の見積書チェックの極意について、ベテラン見積部長がやさしく指南。
はじめに
Prologue
建築コストをめぐるよくあるトラブル
信頼を得る設計はコストから
第Ⅰ部 施主の信頼を獲得する! コスト管理の基本
1 章 建築コストとは
1 コストとプライス
2「 見積り」って何?
3 建築コストの構成
4 簡単な概算法
5 コストの目利きになる方法
6 現場に足を運ぶことの大切さ
7 チェックしておきたい指標
2章 設計者と建築コスト
1 見積りは3 社から取るべき理由
2 設計者は見積りのどこを見るべきか
3 リスクをコストに置き換える
4 そもそも見積りできる図面になっているか
5「 見積り落ち」と「設計落ち」
6 コスト管理は施主・設計者と施工者のコミュニケーション
7 予算の範囲で価値をどこまで高めるか
8 設計コンセプトの見極めがコストバランスのとれた設計の要
9 図面は手紙と一緒、読む人に伝わるように──図面で伝えたいところは、わかりやすく明示する
3章 建築設計とコストの変動要因
1 平面や立面が不整形な建物はコストがかかる
2 円型や曲線を多く使った建物はコストがかかる
3 階高の高い空間や大きな吹き抜けの空間はコストがかかる
4 敷地が狭い場合、敷地いっぱいに建つ建物はコストがかかる
5 前面道路が狭い場合はコストがかかる
6 郊外に比べて市内の立地はコストがかかる
7 断熱重視か採光重視かによってコストが変わる
8 建材は重さ、性質、工法を理解していないとコストを見誤る
9「施工面積」の捉え方でコストが変わる
4章 企画段階の建築コスト
1 施主にまず確認するポイント
2 計画コンセプトを固める
3 求められる基本スペックを整理する
4 目標とするコストを決める
5 複数の設計案を比較する
6 概算見積の依頼の仕方
7 歩掛りについて
8 発注戦略を立てる
5 章 基本設計段階の建築コスト
1 単価の考え方
2 基本設計段階のVE は大まかな規模・面積・仕様・単価の組合せ
3 建具は計画モジュールを決めて種類を多くしない
4「 らしからぬ」仕様の建物は高くつく
5「 この建物に求められる機能は何か」から考える
6章 実施設計段階の建築コスト
1 数量計算書の簡単チェック法
2 VE の肝は数量と単価のバランス
3 何が高くついているのか?
4 VE とコストダウンは紙一重
5 詰めは施主・設計者・施工者との3 者協議で
6 公共工事の予算書作成時の注意点
7章 施工中・施工後の建築コスト
1 図面の不備が追加工事を招く
2 単価の急騰は3 者協議で
3 VE の「隠し玉」を持っておけば追加対応も安心
第Ⅱ部 工事種別・見積書チェックの極意
8章 共通仮設工事
1 既存の敷地の状況でコストは大きく変わる
2 仮設工事と外構工事にかかる費用
3 地域性を考えた仮設計画がコスト削減につながる
4 仮設事務所は借地ではなく現場に建てる
5 増築工事や改修工事の仮設費用を抑える方法
6 重機を使って労務費を減らすか、機械費を減らして人力に頼るか
7 仮設電気・仮設給排水では「工事費」をチェック
8 過剰な仮設計画になっていないか
9 仮設資材・機械の使用予定日数は適正か
9章 直接仮設工事
1 余分な足場や安全設備を見込んでいないか
2 仮設資材の使用予定日数は適正か
3 必要なものが適材適所に設置されているか
10章 土工事
1 残土処分費は土工事費用の大半を占める(山留・構台除く)
2 ボーリング柱状図からコストを読みとる
3 埋戻し土は購入土より根切りの良質土を
4 砕石は再生砕石の検討を
5 山留工事・水替工事は工法の見直しでコストダウンも
11章 躯体工事
1 杭工事の工法はコスト的に適正か
2 躯体工事のコストは事前の搬入道路調査が重要
3 コンクリートの打設時期で大きくコストが変わる
4 捨てコンクリートの精度を高めるとコスト面で有利
5 型枠工事は設計図上の発想の転換で大幅コストダウンも
6 型枠工事や鉄筋工事は設計時より省力化を考慮し、現場作業を減らす工夫を
7 工業化工法を取り入れる
8 鉄骨接合部をノンブラケットとして材料費を削減
9 鉄骨工事は附属金物類を先付けし、現場作業を減らす工夫を
10 鉄骨工事専用仮設は、鉄骨建方に組み込む
12 章 仕上げ工事
1 仕上げの仕様は適材適所か
2 図面上格好良くても、離れて見れば「色」しか見えない
3 一本の線を引くだけでコストダウンができる
4 複雑な納まり、異種材を複数組み合わせた納まりから見直す
5 一流メーカーでなくても、町工場でできないか
6 特殊な材料は一般的な材料に替える
7 完成製品を使わずに部材を組み上げて造る
8 施工の工種を減らすことでコストダウンできるものがある
9 大判の材料は専門工事業者しか扱えないが、小サイズにすると専門職でなくてもできる
10 新製品は価格が高止まりすることがある──互換性のある従来の型材をスマートに使う
11 競争原理の働くものは安い
13章 設備工事
1 設備工事のコストに注目しよう
2 建築工事で施工したほうがコストダウンできる場合がある
3 器材が建築工事と重複するものがないか
14章 外構工事
1 現地の状況により設計図書通り施工できずコスト増も
2 外構路盤の強度によっては地盤改良コストも見込む
3 規模の大きな工作物は、本体建築工事の専門工事業者での施工を検討する
4 外構工事で使用する資材は本体建築工事からの支給で検討する
附録 BIM を使った積算
1 BIM とは
2 BIM の機能
3 BIM の問題点
4 BIM による積算
5 BIM の今後
おわりに──これからの建築コスト
建築工事は人生によく似て、繰り返し繰り返しさまざまな問題や困難な状況に直面します。それを乗り越えながら完成に向け前に進んでいく状況は、まさに人生そのものと言えるのではないでしょうか。プロジェクトが進んでいくにつれ、安心していると、順調に見えた流れが時として乱れ、止まり、あるいは逆流したりするものです。
その原因の中に、コストに絡んだ問題が数多くあることに皆さんはお気づきでしょうか?
プロジェクトがスタートして、さあ工事費は…?と見直してみて驚くようなことに何度も遭遇します。安いと思って仕様書に指示した製品が非常に高いものであったり、納まりを考えずに指定した製品が納まらず無駄になったり、製品や工法の決定・承認が遅れたために値上げの波に呑まれてしまったり、思いもよらない追加工事やさまざまな問題が発生するものですが、建物完成に向け問題解決を行っていかなければなりません。
新入社員や若年社員の方にとって、テキパキと業務をこなしている人を見ると、何らかの「魔法」や何らかの「術」を使っているような錯覚を受けるかも知れません。
ここに「コストプランニング術」と掲げていますが、実際の業務遂行・問題解決においては魔法でも術でもなく、豊富な経験に基づく知識によるものが大なのです。
設計者は施主の代弁者・代行者として、施主の思いを汲み取って、建物を完成に導くという役割があります。
ここにある成功例・失敗例を参考にして自分なりのコストプランニング術を身に着けていただければ幸いです。
設計者はオーケストラに例えるなら「指揮者」です。タクトをふって、素晴らしい曲の演奏で、日頃の思いを伝えましょう。
これからの建築コスト
「建物は生き物だ」と言われることがありますが、計画 → 設計 → 施工→ 竣工と進んでいく過程で、竣工の間際まで仕様が変動することがあり、
竣工してそれがようやく落ち着くことになります。
つまり、竣工する時まで仕様とコストが付きまとうことになり、揺れ動き、「生き物のようだ」と表現する人がいるのです。
常に変動する仕様、揺れ動くコスト、その都度把握できれば正しい判断ができるはずです。
今までいろいろ述べてきましたが、これからの建築には、じっくり時間をかけてコストを算出する間もなく、企画・計画に、また施工中の変更時
に、素早いコストの算出と最適な仕様を決めるための判断材料の提供が必要で、それがますます重要になってくると思われます。
ぜひとも、「コストプランニング術」を駆使し、対応に当たってもらえればと思います。
そして、我々がこのたび経験した感染症(新型コロナウイルス)により、世界経済までもが揺れ動く事態が発生し、激しい物価高に見舞われました。
また、世界の一部の地域の紛争が、世界経済に混乱を招くようになるなど、「世界が近くなってきた」感があります。
これからは、常に世界に目を向け、世界の動向を見守って行く必要があると思います。
2023 年6 月 北野正美
開催が決まり次第、お知らせします。