図解 建築と構造の接点
内容紹介
協業不足でトラブルになるポイントはここだ!
建築の様々なトラブルは建築デザイナーと構造エンジニアの協業不足が原因であることが多い。本書はそんなトラブルにつながりやすい「接点」を、建物のライフサイクル・構造種別に紹介し、トラブルの原因と予防のためのノウハウをイラストで具体的に解説。デザインと技術の融合で良い「ものづくり」を目指す設計者の手引き。
体 裁 A5・256頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2757-0
発行日 2020/12/01
装 丁 Iyo Yamaura
はじめに
第1部 建築と構造の接点
1 建築と構造の接点
1.建築と構造の接点とは
2.想いを共有することがものづくりのスタート
3.社会に寄与する高品質でサスティナブルな建築を目指して
4.デザインと技術の融合事例
2 建築のライフサイクルでの接点
3 企画・計画段階での接点設計基本方針の決定
接点1 建築主要望事項の確認
1.建物の用途・規模等の確認
2.維持管理や将来計画の確認
3.耐震グレードの確認
接点2 計画地盤の確認
1.現地踏査して敷地の安全性を確認する
2.敷地実測
3.地盤調査で地盤リスクを確認する
接点3 企画案の合意形成
1.建築主の想いを共有して信頼関係を築く
2.設計基本方針書の説明
4 設計段階での接点設計図書の作成
接点4 地盤に安全に支持させる
1.地盤のリスクに対応した基礎形式の検討
2.液状化対策
3.地盤沈下対策
接点5 建物の安全性の確保
1.構造形式は耐震性能を考慮する
2.耐風性能はレベル2の風について検討する
3.積雪荷重は積雪後の降雨を考慮する
4.主要構造部の防耐火性能を確保する
COLUMN 木は意外と燃えにくい
接点6 構工法の検討
1.告示で規定された工法
2.膜構造
3.CLT工法
接点7 非構造部材の安全性の確保
1.建物屋外の非構造部材の強靭化
2.建物屋内の非構造部材の強靭化
3.エレベーター(EV)・エスカレーター(ES)の地震対策
4.あと施工アンカー
COLUMN 天気予報と地震予測
接点8 設計図書の作成
1.設計与条件の確定
2.協業による設計のつくり込み
3.整合性のとれた設計図書の作成(BIMの活用)
5 施工段階での接点工事中の設計変更対応
接点9 計画変更申請の対応
1.あらかじめの検討
2.確認を要しない軽微な変更
3.確認申請書の審査期間
一口メモ 構造計算適合性判定
6 維持保全段階での接点耐震性能の維持と更新
接点10 耐震性能の維持
1.日常点検と定期調査
2.制振・免震装置の点検
3.構造ヘルスモニタリング(SHM)
COLUMN 地震の揺れに対する安心感
接点11 耐震性能の更新
1.耐震診断と耐震改修
2.耐震改修の方法
COLUMN 震度とマグニチュード
3.耐震診断から耐震改修までの流れ
7 接点での連携と協業でトラブルをなくす
1.想定外のトラブル
2.未知のトラブルと無知のトラブル
3.技術の裏付けから生まれるトラブル予知能力
4.「暗黙知(ノウハウ)」から「形式知(ナレッジ)」へ
5.トラブル予知と予防のサイクル
第2部 トラブル予防のツボ100
一般
001 耐震グレードの認識が建築主とは違った
002 S造は振動し、RC造は工期がかかる
003 構造形式でプランの自由度が制約された
004 プラン変更に対応できず、柱が邪魔になった
005 階高の割に天井が低く、不動産価値が低下した
006 積載荷重が小さく、用途変更できない
007 工事着手後の変更で工期が遅延した
地盤
008 敷地の近くに活断層が見つかった
009 地盤と共に建物が沈下してきた
010 建物の沈下対策をしたが傾いた
011 地盤が液状化して建物が傾いた
012 地震で建物が横移動した
013 建物に大きなひび割れが発生した
木造
014 枠組工法は大きな改造ができない
015 木造の腐朽・劣化は表面に現れない
COLUMN 伝統木造の屋根
016 木造住宅にシロアリ被害が発生した
017 伝統木造も腐朽・劣化する
COLUMN 建物を長持ちさせるということ
018 梁下の建具がスムーズに開閉できない
COLUMN 五重塔の心柱
019 木造住宅は2階の音がよく聞こえる
020 木造架構なのに「あらわし」にできない
021 高層木造の耐火技術はどこまで進んだか
022 耐震壁量が基準を満たさないことがわかった
023 古い木造建物なので耐震性があるか心配だ
024 基準法を満足する木造住宅が大地震で倒れた
S造
025 外壁と鉄骨の納まりがややこしい
026 高層建物が強風時に揺れる
027 外部の鉄骨に錆が発生した
028 鉄骨の「あらわし」部分が見苦しい
029 壁材が取り付く鉄骨の耐火被覆が欠損した
030 鉄骨梁貫通部分の耐火被覆厚が不足した
031 鉄骨丸柱が耐火被覆で太くなった
032 外部鉄骨なのに耐火被覆が必要なのか
033 CFT 柱は耐火被覆が必要なのか
034 鉄骨梁の貫通孔が大きくて補強ができない
035 鉄骨の外壁貫通部から漏水した
036 長スパンの連絡ブリッジが揺れて歩きにくい
037 鉄骨ブレースが熱伸びで横はらみした
038 デッキプレート床の配筋に時間がかかった
039 デッキプレートの床がひび割れた
040 スポーツジムの床振動が他階に伝わった
041 物流倉庫の床がひび割れた
042 商業施設の床版が振動した
043 鉄骨階段は騒音・振動が発生する
044 下地材の現場溶接で本体鉄骨が溶接欠損した
045 折板屋根が強風で飛散した
046 積雪で体育館の屋根が崩落した
047 庇の鉄骨が熱伸縮で破断した
048 強風で外壁パネルとサッシが撓んだ
RC造
049 外壁が鉄筋の腐食で剥落した
050 壁式構造の開口部は変更ができない
051 大地震で柱がひび割れ崩壊した
052 RC梁に大きなひび割れが入った
053 梁下に設けた建具の方立が変形した
054 RC梁の貫通部にひび割れが生じた
055 集合住宅の上階からの騒音・震動がひどい
056 集合住宅の床がたわんだ
057 跳ね出し庇が垂れ下がった
058 跳ね出しバルコニーの床がひび割れた
059 RC造の床開口部廻りがひび割れた
060 フラットスラブは柱頭部にキャピタルが出る
061 RC床の段差部がひび割れた
062 屋上防水の下地がひび割れた
063 コンクリートの打継ぎ部から漏水した
064 RC外壁がひび割れし、漏水した
065 ひび割れ誘発目地が多くて見苦しい
066 最上階外壁が八の字状にひび割れた
067 地震で壁付の柱が崩壊した
068 外壁構造スリットから漏水した
069 地震で構造スリットに接する建具が変形した
070 土間コンがひび割れ、段差も発生した
071 RC造の塀が地震で傾いた
その他構造
072 SRC造の躯体がひび割れた
073 RC造とS造の混構造の接合部がひび割れた
074 積雪で膜構造が大きく変形した
耐震・免震
075 超高層ビルが長周期地震動で被害を受けた
076 耐震改修の最適な方法が分からない
077 既存建物の免震改修はどうするか
078 地震で免震EXP.Jの床に段差が生じた
079 免震建物が隣地の塀を壊した
080 基礎免震層が冠水した
081 中間階免震層へ雨水が浸入した
082 中間階免震の耐火被覆が劣化した
083 中間階免震層を貫通するEV が損傷した
084 免震装置のメンテナンスができない
非構造
085 地下躯体のEXP.Jから漏水した
086 地震でEXP.Jが損傷した
087 パラペットの丸環が脱落した
088 屋上の目隠しALCパネルが強風で飛散した
089 地震で外壁ALCパネルが脱落した
090 ALCパネルの2段積間仕切壁が崩落した
091 割れやすいガラスを構造材として使うには
092 地震でホールの天井が崩落した
093 地震で軽鉄間仕切が損傷した
094 地震でPCa 版の取付け金物が破断した
095 地震で屋上の煙突が倒れた
096 重量設備機器で床がひび割れた
097 屋上の機械基礎部分から漏水した
098 あと施工アンカー固定の給湯器が転倒した
099 地震でエレベーターのガイドレールが変形した
100 地震でエスカレーターが脱落した
建築の歴史は人類の起源にまでさかのぼる。人類が地球上に誕生して、石器を使い狩猟生活を始めたころは、外敵や風雨から身を守るために洞穴で生活を始めた。やがて農耕生活を行うようになり、定住して住居で生活をするようになる。そして、高度な技と道具を手に入れることにより、大規模な建築構造物をつくることが出来るようになった。それまでは、建築設計や構造設計といった職能には分かれておらず、一人の棟梁の采配で建物がつくられた。
現在は新素材の開発や建築技術も多様化して、構造職能も高度化・専門化し、建築と構造の接点領域もより複雑になってきた。構造設計は建築構造物の安全に強く関わるために、基本的にトラブルはあってはならない。しかし現実には、大きな地震が来るたびに、倒壊したり、半壊したりする建物を目の当たりにする。また、致命的ではないが、床の振動やクリープ現象にまつわる小さなトラブルも多発している。わずかなひび割れでも雨漏りや躯体の劣化につながる。
建築と構造は車の両輪のようなもので、建物をつくるプロセスで協業することにより「デザインと技術の融合」を誘発させて社会ストックとしての最良の建築をつくることができる。
本書をまとめるにあたり、なぜ接点でトラブルが起きるのかを考える中で、大事なことが二つあることを改めて認識した。
一つは「接点での協業の重要性」である。建築設計者の構造に対する理解不足や、逆に構造設計者が設計者の想いを理解していなかったりした場合などの両者のコミュニケーションの不足が大きな原因と考える。
二つ目は、「デザインと技術の融合」である。建築技術が多様化し、建築と構造の職能もより高度化、専門化している。「デザインと技術の融合」を誘発させるためには、必要最小限の協業から、質の高い創造的な協業のレベルへと高めることが必要で、建築と構造の枠組を超えた取組が必要である。トラブルに視座を固定すれば、設計段階から施工、そして維持管理までの建物のライフサイクルのすべてのプロセスで建築と構造の相互理解のもとで「ものづくり」を進めることがトラブル予防につながると考える。
本書は第1部では、建築と構造の接点とは何か、接点でどんな協業をするのか。建築をつくるプロセスにおける接点での協業のあり方と協業の重要性について整理した。第2部では、建築と構造がその接点において協業できなかったり、協業が不十分であった場合に発生するトラブルについて、具体的な事例を示し、その要因と対策などを「トラブル予防のツボ」として整理した。
品質トラブルのない建築を目指して『建築品質トラブル予防のツボ』(2013年・学芸出版社)を発行し、第2篇として建築と設備との取合い部分に焦点を当てて『図解 建築と設備の接点 トラブル予防のツボ』(2018年・学芸出版社)を発行した。
本書はそれに続く「トラブル予防のツボ」シリーズの第3篇として、建築と構造の接点に焦点をあてて『図解建築と構造の接点 トラブル予防のツボ』とした。この「トラブル予防のツボ」シリーズの3篇は、単なるトラブル予防だけではなく「建築のものづくり」の心を示すもので、建築に関わる若手技術者の「ものづくり」の原点に立ち返るきっかけになれば幸いである。