直感で理解する!構造力学の基本
内容紹介
楽しい手描きイラストとわかりやすい文章が好評の「直感」シリーズ第2弾。著者の建築実務家・教員としての豊富な経験をもとに、建築を学び実務に当たる上で知っておくべき構造力学の基本をやさしく解説。「構造力学」の先にある「構造設計」の魅力が見えてくる一冊。一級建築士試験にも役立つ「力学問題アラカルト」付き。
体 裁 A5・216頁・定価 本体2400円+税
ISBN 978-4-7615-2671-9
発行日 2018/03/01
装 丁 森口耕次
まえがき
第1章 構造力学を学ぶ前に
第1節│構造力学の立ち位置
1 東京タワーを見て
2 まっすぐな棒は一本もない
3 「地域限定」と「適用範囲」
4 「まぁ、ええんじゃない」の世界
第2節│構造設計と構造計算
1 無限にある「本日のメニュー」
2 間違えるとこわい支点3兄弟
3 本人そっくりに描くことが良いとは限らない
4 構造力学は「正解」を教えてくれない
5 レシピに頼らない料理
コラム 風景の着せ替え
第2章 構造力学の基礎
第1節│力のはなし
1 力はいつも3点セット
2 力のつりあいは鏡と同じ
3 車の速さと速度は違う
4 墓石で地震力の大きさがわかる?
5 綱引き必勝法もつりあい式で解ける
6 力の解体新書
第2節│力と安定のはなし
1 力にもいろいろあるヒレ、サーロイン
2 断面力はみんなの力の結集
3 小さいことはいいことだ
4 これ、コケる? コケない?
5 「不」のつく方がより安全という不思議
第3節│断面性能のはなし
1 二つのばね定数
2 断面を語る諸量
3 硬い壁、柔らかいブレース
4 ねじれに強い材、弱い材
第4節│応力と変形のはなし
1 大切な応力3姉妹
2 基礎が転倒する条件を求めてみよう
3 変形を頭に思い描く
4 応力は部材を切り取って求める
5 いくらたわむ?
6 飛込のはなし
コラム 1/20の世界
第3章 静定構造
第1節│軸力を受ける部材
1 三角形と四角形、どちらが強い?
2 経験だけでとらえる力の流れ
3 計算せずに応力を求めてみよう
4 特定の部材軸力を求めるには鋸で切断
第2節│曲げを受ける部材
1 姫を乗せた駕籠、どこを担ぐ?
2 モーメント荷重のもつ意味
3 スリーヒンジ構造はこわくない
4 重ねばりは団体競技
5 せり出しばりは親を助けない
第3節│いろいろな方法で片持ちばりを解こう
1 高校物理の知識(微分方程式)を使って直接解く方法
2 カタチを合わせて解く方法(Mohrの定理)
3 蓄えられたひずみエネルギーから解く方法(Castiglianoの定理)
4 仮想の外力をかけて解く方法(仮想仕事法)
コラム ジャムセッションから学ぶこと
第4章 不静定構造
第1節│1次不静定構造
1 不静定構造なんかこわくない
2 既知の不静定を使って解く
第2節│高次不静定構造
1 活用度の高いたわみ角法で解く(1)
2 活用度の高いたわみ角法で解く(2)
3 反復計算により解く方法(固定モーメント法)
4 実務に使える固定モーメント法で解く
コラム 「なる夫」か「する夫」か
付録 一級建築士受験対策にも役に立つ構造問題アラカルト
あとがき
参考文献
みなさんは自分の直感を信じているでしょうか。人間の直感は正しい ― 私はそう思っています。日常生活では、ものごとを即座に判断し、答えを出す必要に迫られることが多く、そのたびにみなさんは直感力で対処しているように思います。たとえば、洋服を店で選ぶ時とか、あるいは進学先や就職先、人生の伴侶など一生を左右するような重大な選択をする場面でも、まず何かひらめくものがあるはずで、後付けで理屈を並べて自分自身を納得させているだけのような気がします。
構造力学の世界においても、自分の直感が正しいということがあり、それが構造力学を理解する助けになります。長年の生活体験で無意識のうちに培われたものを利用しない手はありません。もちろん、その精度は経験によるところが大きいと思いますが、これから経験値を増やしていけば良いだけの話です。本書でも、みなさんに容易に理解してもらえるよう、例えを交えながら直感に訴える表現を心がけました。力学的に表現が正確さを欠くこともありますが、いきなり難しいことを正確に覚えようとするより、まず感覚として理解することのほうが大切だと考えるからです。
拙著『直感で理解する! 構造設計の基本』では、難しい数式を使わず、文章とイラストだけで構造力学と構造設計の橋渡しになるような本が一冊ぐらいあってもよいのではないか、という想いから執筆しました。今回もそのコンセプトを踏襲し、構造力学を解説しています。本書では、構造力学の入門書として部材の弾性範囲を取り上げ、微小変形範囲に限定しました。したがって、塑性域の挙動や座屈現象、振動現象などは本書の範囲外としています。また、数式や公式、解き方の手順を丸暗記するだけでは、構造力学を理解したことになりません。「知っている」ことと「使える」ことは違うからです。そのため、重要な式の展開を目で追えるように工夫し、イラストや写真、図表を用いながら平易な文章で解説しました。さらに、付録として一級建築士受験にも役に立つ構造力学問題を厳選し、解くポイントをおさえられるように配慮しています。
これから建築構造を学ぼうとする学生や若手の建築技術者(設計者・施工監理者)など建築構造を学ぶ必要のある実務者を読者の対象にしていますが、この本を手にとって読んでくださった方が、構造力学っておもしろそうだ、実際に建物の構造設計をやってみたい、と感じてもらえたなら、とてもうれしく思います。何しろ、構造力学を使って「0」から「9」までの10個の数字だけで建物を建てることができるのです。あの超高層ビルも、このスタジアムも。そして、建物のフォルムも性能もすべて10個の数字が支配するのです。その数字に命を吹き込む、それが構造設計という世界です。どうです、おもしろい世界だと思いませんか。
2018年2月吉日
山浦晋弘