そこが知りたい!人体デッサン

渡邊一雅 著

内容紹介

我流の「イラスト」から、本格的な「デッサン」に進みたい人のために、「教えるプロ」が贈る手引き。初心者のコアな疑問を集め、〈木炭〉〈鉛筆〉による著者自身の豊富な作例をもとに、形・質感・色と陰影を表現する手順とポイントを丁寧に図解。あらゆる絵画の分野に進むうえで役立つ人体デッサンの基礎と応用が学べる一冊。

体 裁 B5・156頁・定価 本体2400円+税
ISBN 978-4-7615-2664-1
発行日 2017/12/25
装 丁 KOTO DESIGN Inc. 山本剛史


目次著者紹介まえがきあとがき紙面見本

Part1基礎篇

1 誰でも描けそうで描けないのはなぜ?
2 デッサンの三要素
3 人体は丸い形の連続
4 デッサンの色
5 人体デッサンの心がけと準備

Part2 実践篇

1 まずはプロポーションを捉える
2 やぐらを立てよう
3 形は「角度が変わる地点」
4 デッサンは面で捉える
5 木炭デッサン技法 完成までのアプローチ
6 面の角度と明中暗
7 細部のデッサン―顔
8 視覚的描写と触覚的描写
9 人体デッサンと石膏像
10 クロッキーによるラインコントロール
11 デッサン基礎の活用と応用表現

渡邊一雅

デッサンインストラクター。
1965年から3年間古野由男画伯に師事。1969年京都インターナショナルデザイン研究所所属。1976年大阪芸術大学芸術学部デザイン科インテリアデザイン専攻卒業。1978年渡邊デザインスタジオ設立。16年間グラフィック・建築・プロダクト・ランドスケープデザイン等、幅広く制作を手掛ける。1994年京都市内で基礎デッサン研究所「アトリエ路樹絵」を設立。現在に至るまで、指導者として数多くの芸術家の育成に努めてきた。2011年より成安造形大学及び大阪アニメーション専門学校等でデッサン講師を務める。

発刊に寄せて

世の中にデッサンの教本はたくさんあります。毎年新しい本が出され、いまの時代の要請に沿って「人を描く」ということに焦点を当てたものも少なくありません。

単に人を描くための教本は世の中にあるものの、ヌードという人体の描き方に焦点を当て、教えることのプロであるインストラクターが、その技術のエッセンスを惜しげもなく披露する、そういった三つの要素を網羅した教本は実はほとんどありません。

ヌードデッサンはモチーフが裸体ですから、教えてもらえる機会や、描く機会そのものがそもそも多くはないものかもしれません。他方、人類は紀元前から人体をモチーフとして芸術作品を産んでおり、今の時代までそれは連綿と引き継がれているのです。そして今後も引き継がれてゆくことでしょう。そういう人体をアートの題材とするアカデミズムを後世に伝える役割はそれぞれの時代で誰かが担ってきたのですが、現代の日本においてアトリエROJUE が果たした役割は小さくありません。アトリエROJUE はインストラクター・渡邊一雅が率いる人体デッサンを専門とする京都のスクールで、丸味や起伏のある人体を紙という2 次元媒体の上に3D表現する技法を一貫して教習してきたスクールですが、その歴史の中でファンアートのみならずデジタル時代が要請するゲームやイラスト、キャラクター造形といった分野に巣立つ生徒を数多く輩出することで、アカデミズムと現代をつなぐ役割を果たしてきました。

東京都がクールジャパンを世界に発信すべく編纂した『アニメの教科書』にも紹介された渡邊一雅の人体描画技法は、アトリエROJUE における教練のエッセンスでもありますが、そのエッセンスがデッサン教本となって著されることになりました。いままでは渡邊一雅の口伝であった人体デッサンのノウハウがここに記されています。世の中の教本にはひと通りのことは書いてはありますが、一歩進んだその向こう側が知りたいと思っていた読者にはまさに“ そこが知りたかった” という内容が散りばめられた教本になっています。また、教えるプロであるインストラクターが著した本ですから、難解なこともありません。

この本は、世の中の様々な本を参照しながら独学を続ける人たちへの強力な福音となるのです。

アトリエROJUE 総合プロデューサー
にしはらひろゆき

はじめに

現在ではインターネット等の発展に伴い、デッサンに関しても様々な情報を得ることができます。書籍でも人体デッサンに関する技術指導解説書は、世界中でそして日本でも数多く出ています。それほどまでにデッサンは重要ともいえます。

本書の執筆にあたり、できるだけ他の類型的なデッサン技術指導解説書とは、少し違った角度から解説しています。

デッサンを学ぶ人には、初心者からかなりの経験者までおられますが、いずれにしても既に人体デッサンを始めている方々を本書は対象にしています。

したがって、単なる初歩的な技術指導解説に止まらず、より深くより強くデッサン表現の向上を提供できるものと思います。

私は長年にわたり、デッサンインストラクターとして従事してきました。

私は自身で経営する京都のデッサンアトリエで様々なジャンルを志す多くの若者を指導してきましたが、それと並行して東京、名古屋、大阪、九州などで公開デッサン指導会を定期的に行い、また美術大学や専門学校での指導も行ってきました。様々な立場や世代の方々との交流を通し、「何が足りないのか」「何を知るべきか」を考え続けてきました。

デッサンを学ぶ方の声に直に接してきた経験をふまえ、美大でも書籍でも、ネットでも、画塾に類する指導所でも得ることが難しい、「そこが知りたい」ポイントをお伝えすることを本書のコンセプトにしています。

デッサンは自主練習です。本書は、いかにして自主練習をしていくのかを解説する、自主練習の指南本ともいえます。

この本でデッサンの基礎を理解し、本書の意識をもって誠実に実践的訓練を積むと、2 倍も3 倍も早く、確実な成長を遂げられることでしょう。美術の世界を志す全ての人にとって、自らを築く後押しになれば幸いです。

京都ライフドローイングスクール アトリエ路樹絵
渡邊一雅

本書の狙い

デッサンは「ものを観る訓練」

デッサンは「観る」力を養う訓練です。「観る」とは(念入り)に観わたすことです。ただ「見る」こととは大きな違いがあります。

そして表現力を同時に養うものです。デッサンには写実的なイメージがありますが、これは実は抽象化の仕事の集積です。無限の視覚情報を取捨選択して描いたものに他なりません。自分の眼で本質を取捨選択することが真の観察力を養います。これは造形以外にも言えることです。真に事象を理解するためにはレポートを書いたり、人に伝えたりして、アウトプットをし、形にすることでしか「解った」という実感は得られません。

デッサンは対象を観察し、描くことを通して、造形としてアウトプットできる形にするための計画力、構想力を得る手立てとなります。それは表現力につながります。デッサンは眼の前の視覚世界に対して、絵として表現するにあたり、何が必要で何が必要でないか、高度な知性によって判断する作業です。高度な抽象化の作業によって対象の色や形を自分のものにし、決して惰性的にならず現実を表現することで、対峙するモチーフ(人体)の理解を実感するものでもあるのです。このことを通してデッサンは造形に関する知性を育み、対象の深い観察と理解を促進させることができます。ここで培う知性は美術家の基礎能力となるのです。だからこそ現在もデッサンは造形分野に携わる人の基礎訓練として広く取り入れられています。

様々な対象をデッサンすることで、様々なものの形や色や感じを掴むことができますし、本質を捉えて的確に表現することができるようになります。デッサンで養う画面構成の力は、必ずしも四角のデッサン用紙だけでなく、どのようなものにも応用できるバランス感覚となって、あなたをフォローしてくれるものなのです。その上、現実世界を良く理解した集積の結果、ある一瞬に(表象)知覚していないと思える造形のイメージが浮かび抽象表現の世界にもつながるのです。つまり写実表現と抽象表現とはつながっているのです。

本書の特徴

ヌードをテーマに描く人体デッサンは西欧の美術の文化です。西欧人の骨格的な立体感、彫の深さ、起伏の豊富さから観られる陰影の美しさで捉える表現は日本古来には見られないもので、西洋的な「陰影法」が主体となって表現される西洋絵画の下地となるものが人体デッサンであるといえます。しかしながら日本では西欧人を描く機会にはそう多くは出会わないものです。よって現状としては、西欧のデッサン技法が手本ではあるものの、日本人は独自のデッサンで表現していくことになり、少しずつ成熟し、独自の発展を遂げつつあるように感じられます。

本書は日本で長年デザインの仕事に携わり、自らの画塾で多くの生徒にデッサンの指導を行ってきた著者自身の経験の中から、本格的なデッサンに進むための技法を惜しみなく披露したものです。

現に出版されている多くのデッサン技法書は比較的、類型化した人体表現を解説しており、イラスト的見本のニュアンスに近いものを多く目にします。特に西洋から輸入された書籍は起伏や凹凸が激しく、体格が立派で描きやすい西欧人モデルや、理想的プロポーションのモデルを主体にしたものが多いといえます。どれもアーティストの血となり骨となってきた素晴らしい書籍であることは確かですが、本書は今までのデッサン技法書にはない要素をいくつも含んでいます。

▽日本でもっともポピュラーな「鉛筆」「木炭」による人体デッサン

一般的に日本でのデッサン指導の主体である、身近な木炭や鉛筆のみで表現されるグレースケールによる再現指導書としています。

姿形、及び質感、立体感、はもちろん天然色、固有色が織りなす色彩の世界をグレーの幅だけで正確に再現できることで、実際に着彩表現する際に豊かな色彩のバルールを適材適所に配する、色彩感覚を豊かにするとされています。

特に女性の肉体の肌色が最も難しいとされ、人物画の歴史は女性の肌色の研究の歴史といっても過言ではないで
しょう。

▽観ごたえあるデッサン見本を多数使用

本書のデッサンは参考作となるようなもので構成されています。簡単なイラストにより人体の特徴を図式化して人体そのものを解説することは他の書籍にお任せしています。本書はデッサンを(メソッドmethod)や体系的形式(型)に収めるのではなく、人体をモチーフとして、ものを観てそして表現するための方法と、考え方に重点をお
いています。

▽画塾経営から解る生の疑問、それに対する解りやすい紙面展開

基本的なデッサンの完成までの経過手順にそって解りやすく展開し解説しながらも、絵画の世界のみならず、デッサン理論を基に、本格的で実用的な領域へ導こうとする手引き書としています。本書は人体デッサンを通して人体を上手く描くための本ではなく、デッサン力の向上を果たすための書籍です。

様々な立場の生徒や一般の方々を指導した経験をふまえ、中核的な疑問や犯しやすい間違い等をなくし、本格的なデッサンの段階に進みたいと切望される方々のために、「そこが知りたい」ポイントをまとめたものです。