密集市街地の防災と住環境整備
内容紹介
ひとたび火災や地震が起これば脆弱さが露呈する密集市街地。日常を快適に暮らしつつも、災害で生存を危ぶまれることのない都市の再編に向けて、UR都市機構が取り組んだ15の事業手法を総覧。道路拡幅や共同化、防災公園整備、住民の生活再建策や合意形成手法、自律更新の誘発まで。35年に及ぶ多様な課題解決へのアプローチ。
体 裁 A5・288頁・定価 本体2700円+税
ISBN 978-4-7615-2657-3
発行日 2017/11/01
装 丁 大串 幸子
はじめに
序 密集市街地整備の変遷とまちづくり
第1章 密集市街地整備の目的と意義
1.1 密集市街地の課題と魅力
1.2 密集市街地整備に係る政策の変遷とURの取り組み
第2章 密集市街地整備をいかに実践するか
2.1 密集市街地整備が目指す方向性
2.2 〈フェーズ1〉先導的事業期の進め方
2.3 〈フェーズ2〉連鎖的事業期の進め方
2.4 〈フェーズ3〉自律的まちづくりへ
第3章 密集市街地整備「事業」の実際
3.1 〈東京都北区〉神谷一丁目地区|1981~2000
URの密集市街地整備はここから始まった
3.2 〈東京都世田谷区〉上馬・野沢周辺地区|1996~2007
防災拠点の形成と防災環境軸の整備から
住民主体のまちづくりへ
3.3 〈東京都足立区〉西新井駅西口周辺地区|2004~2013
景観誘導や生活軸形成に繋がった防災拠点形成と防災環境軸の整備
3.4 〈東京都北区〉西ヶ原地区|2003~2014
防災公園と福祉・子育てのまちづくりを実現した市街地整備
3.5 〈東京都墨田区〉曳舟駅前地区|2003~2010
駅前のポテンシャルを生かした再開発により不燃領域率100%事業を先導
3.6 〈東京都江戸川区〉中葛西八丁目地区|2007~2013
総論反対からの合意形成と道路線形の工夫
3.7 〈東京都荒川区〉荒川二・四・七丁目地区|2012~
生活再建策を用意しながら多主体と協働した総合的な整備へ
3.8 〈大阪府寝屋川市〉東大利地区|1982~2000
URと権利者との共同建替えが民間建替えの連鎖を先導
3.9 〈兵庫県神戸市・西宮市〉阪神淡路大震災と共同再建事業|1995~2000
住み慣れた地域での生活再建の実現と震災の教訓
3.10 〈東京都品川区〉戸越一・二丁目地区|1998~2002
住民参加によるまちづくり計画案作成と権利者合意による道路整備の実現
3.11 〈東京都板橋区〉大谷口上町地区|1998~2009
整備計画案の見直しと新たな事業展開
3.12 〈東京都墨田区〉京島三丁目地区|2010~2013
権利者の動機を読み解き、生活再建策の多様化で対応した共同建替え
3.13 〈大阪府門真市〉門真市本町地区|2003~2013
市との緊密な連携と柔軟な事業区域設定により実現した防災街区整備事業
3.14 〈東京都台東区〉根岸三・四・五丁目地区|2007~2013
住民の意向を形にする事業手法の重ね合わせ
3.15 〈東京都世田谷区〉太子堂・三宿地区|2001~2013
防災拠点整備を契機に連鎖的なまちづくりへ
第4章 これからの密集市街地整備
座談会:これからの密集市街地整備というまちづくり
URの取り組み地区一覧
用語解説
参考文献
UR密集市街地整備検討会
日本列島は、毎年のように大地震などの自然災害に見舞われています。最前線で市街地整備に関わってきたURは、復興支援に組織を上げて取り組んでいますが、このなかで、災害がもたらす住民、社会、まちへの爪痕をつぶさに見てきました。その経験から、災害に強い安心・安全のまちづくりを進める意義を強く感じているところです。
とりわけ、戦後最大級の都市型災害をもたらした阪神・淡路大震災では、都市部に広がる密集市街地の防災面の脆弱さが浮き彫りになり、密集市街地の改善は喫緊の都市課題となっています。
遡れば、UR(日本住宅公団、住宅・都市整備公団、都市基盤整備公団を経て現在のURへ)は、高度成長に伴う都市圏への急速な人口流入に対応するため、工場跡地や公的用地などの土地利用転換による住宅供給を使命としてスタートしました。URの密集市街地整備の取り組みは、それら住宅の周辺に広がる市街地の防災性を向上させ、住環境を改善することから始まりました。そして、阪神・淡路大震災を契機として、政策的に密集市街地の防災性向上の重要性が増すなか、URも政策執行機関として密集市街地での取り組みを強化して今日に至っています。
これらの実践を通して、密集市街地を改善するには、防災性の課題 ~これは日々の暮らしの中では実感しにくいものですが~ について住民の皆さんと理解を深めていきながら、同時に、住み心地の良い市街地を追及する、というアプローチが大切であると考えています。本書を「防災」と「住環境」を冠するタイトルとした意図もここにあります。
本書の特徴は、15の地区について、URが取り組むことになったきっかけ、防災性や住環境の向上をどうやって実現してきたのかを紹介している点です(第3章)。その中では、担当者の悩みや苦労にも触れて、リアルな現場感が伝わるようにしました。この中から見出した進め方や課題の解決方法を、副題にある「15の処方箋」として読者の皆様に読み取っていただければ幸いです。
そして、実例の紹介に先立って密集市街地整備の全体像を俯瞰し、密集市街地の問題点、政策的な流れとURの取り組みの変遷を振り返り(序章・第1章)、また、これら35年の実践経験に基づき、フェーズごとの担い手と住民との関係・アプローチの方法を主な切り口としながら、事業論としての一般化を試みています(第2章)。この事業論で密集市街地整備の考え方を捉えていただくことで、第3章にある具体地区の実践も、より俯瞰的に読みとっていただけるのではないかと考えています。
密集市街地の課題は、高齢化や若手不足による地域の担い手の減少など、防災面に限られるものではありません。密集市街地の目指す姿は、市街地の安全性が確保され、日常の中で住み心地が良い暮らしが持続するまちであろうと考えています。第4章では、座談会という形で住吉洋二先生、高見沢実先生から、歴史を振り返りながら今後の展望を語っていただきました。
密集市街地整備に関わる地域のリーダーを始めとする住民の方々、防災行政を担う地方公共団体の職員、まちづくりを業とするコンサルタントや開発事業者、まちづくりを研究又は学ぶ方などにとって、密集市街地整備に取り組む際の手がかりとして本書が一助になることを願っています。
2017年9月
独立行政法人都市再生機構 副理事長 石渡 廣一