緑のプレゼンテクニック

柳原寿夫・中橋文夫 著

内容紹介

住宅庭園のみならず、マンション・店舗・公園からまちづくりまで、「緑」のデザインの分野で魅力的なプレゼンをするために求められるスケッチのポイントを解説。「なぜこう表現すると魅力的なプレゼンスケッチになるのか」がわかる、造園・ランドスープ・環境デザイン・建築・土木などを学ぶ学生や若手実務者必携の手引き。

体 裁 B5・96頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2604-7
発行日 2015/09/10
装 丁 KOTO DESIGN Inc. 山本剛史

目次著者紹介はじめにおわりに

はじめに

本書の使い方

造園とランドスケープのスケッチ

1 造園・ランドスケープスケッチの基本 10

1 スケッチを描く準備
2 大地の眼差しを捉える
3 空間を見るコツ
4 ニーズの把握
5 スケッチを描く手順
6 表現のテクニック
7 線画の描き方
8 実際に描く時の注意点
9 着色方法

2 スケッチがうまくなる方法

1 観察力を養う
2 マネをする
3 五感を研ぎ澄ます
4 何でも描く
5 時間を読む
6 描くチャンスを逃さない
7 1000枚描く

3 造園材料の描き方

1 植物
2 石材
3 垣根
4 建築・土木
5 橋

4 ランドスケープスケッチの描き方

1 近景観
2 中景観
3 遠景観

5 事例に学ぶスケッチのポイント

1 住宅庭園 庭の使われ方、草花の見せ方、建物との関係を描く
2 公園 人間の躍動、緑の機能を描き、植栽で華やかさを演出する
3 美術館・博物館 建築のデザインに調和させ、明るく季節感豊かに描く
4 社寺仏閣 整然美と季節感を演出し、荘厳・尊厳を表現する
5 集合住宅 各部の植栽に求められる機能を明確に描きわける
6 ホテル・旅館 おもてなしの心を表現する
7 店舗 優雅なファサードを演出する
8 レストラン 室内と室外を効果的に描く
9 オフィスビル 庭園を通して社員・地域への貢献の場を演出する
10 病院 癒しと快適性を表現する
11 学校 花壇・並木・ビオトープ・中庭を描く
12 植物園 植物の陰影を描く
13 動物園 動物の生態展示法を表現する
14 リゾート 憩い安らぐ非日常性を表現する
15 博覧会 国際性・日本・時代を意識した緑・花を描く
16 まちづくり 緑・道・建築が融合したランドスケープ・アーバニズムを描く
17 都市計画 都市全体を俯瞰して未来都市を提案する

あとがき

柳原寿夫(やなぎはら ひさお)

1942年生まれ。荒木造園設計事務所で30年間造園設計に携わる。90年に大阪府豊中市で株式会社アーバンスペースアートを設立。商業ビル・美術館・公園・個人庭園など幅広く手掛けている。

中橋文夫(なかはし ふみお)

1952年佐賀県生まれの大阪育ち。井上芳治・片寄俊秀に師事。造園・建築・総合政策を学び、主に公共造園の設計に従事。現在、公立鳥取環境大学環境学部教授、NPO法人国際造園研究センター理事。著書に『公園緑地のマネジメント』(学芸出版社、2006年)がある。

今日、建築や造園の分野においてCADの進化は目覚ましく、大学生は3年生にもなるとソフトプログラムを使いこなしパースを描いてきます。設計演習で住宅の課題を出すと設計要旨・敷地計画図・建築平面図・断面図・立面図、そして透視図などを上手くレイアウトしてきます。見栄えはプロ並みですが、実はここに落とし穴があります。学生はCADを使いこなすことにより設計ができると思っていますが、これは、デザイントレーニングを飛ばして機械の操作方法を学んでいるに過ぎず、デザインの本質論が抜け落ちているのです。

その技を修めるには建築・造園を問わず、空間の機能と修景、時間の経過、人間の利用を読み、形にしていく訓練をどれだけ積み重ねるかが重要です。その技は、手を鉛筆の芯で真っ黒にし、何冊もスケッチブックを描き潰すことにより、少しずつ磨かれます。

また、特に造園・ランドスケープの分野においては、多くの植物や石などのディテールを自然に表現するスケッチの技術が重要で、CADでは対応できない部分が多いのです。クライアントとの打ち合わせの場で即座に描けることも手描きのメリットです。

既に建築の手描きパースは姿を消しつつありますが、造園の場合はそうはいきません。樹木、草花の透視図を描くCADの画はスタンプを押したようなものが多く、手描きの技には遠く及ばないのです。しかも植物には命があり、四季の佇まいが異なり、生長して石などと組み合わさることでエイジングが深まります。成長管理計画の視点から描くことが求められるのです。

本書は、CADであれ、手描きであれ、建築エクステリア・造園・ランドスケープ・まちづくり・グリーンビルディング・グリーンデザインの分野で、魅力的な緑のプレゼンをするために求められるスケッチの技術を解説することを目的としています。緑のプレゼンに関する書籍は、住宅の庭のデザインに主眼が置かれたものは数多く出版されていますが、本書は建築エクステリア、造園、ランドスケープ、まちづくりまで、広く緑空間のプレゼンテーションをする際のスケッチを扱います。一坪の庭づくりから建物まわり、そして都市の大改造と、幅広い空間を扱っています。

本書のスケッチを担当する柳原氏は、住宅、海外の庭園から建築緑化、国際博覧会、ランドスケープまで幅広く手がけてきたこの分野の達人です。氏のスケッチは季節感・情緒・躍動・エイジングをよく表現し、まるで風景画のような温もりを感じさせます。これは氏の才能もさることながら、豊富な経験によってスケッチの技術を修得された努力の賜物で、本書では、氏の積み重ねて来たスケッチの普遍的な技法を、誰でも学べる形でやさしく紹介することを狙いとしています。

次代を担う造園家、ランドスケープアーキテクト、建築家などを志す若い方々の実務書、学習書、並びに学生の教材に役立てていただければ幸いです。

「造園は絵空事」と言われ、いわば浮世離れした世界だと考える人もいるようです。しかし、果たしてそうでしょうか。

今日の凄まじいまでの経済優先社会は、わが国に盤石の経済基盤をもたらし、世界第三位のGDPを築きました。人々は瀟洒な邸宅・マンションに住み、海外に旅し、良い車に乗り、美味を楽しみ、愛する家族と過ごします。そのために人々は猛烈に働きました。その成果が今日の富であり、それを求める国の姿勢は今も変わりません。

しかしながら、心身に変化を来たし、鬱病などを抱える人も少なくありません。今も名市長と親しまれている第七代大阪市長・関一(1873~ 1935)は、摩天楼が並ぶニューヨークなどの先進都市を訪問した時に、ノイローゼ患者が急増していることに危機感を持ちました。関氏は、いずれ大阪もそうなるのではないかと危惧し、対策として大阪城公園を整備し、大阪城も復興しました。これこそ、大都市のど真ん中に見事な「絵空事の世界」を描いたと言えないでしょうか。

すなわち、人間が生きていくにはオープンスペースが必要で、ニューヨークのセントラルパークは「民主主義による都市の庭」、パリのブローニェの森は「華麗なる都市への変身の原点」と言われ、今も市民は誇りを持っています。花・水・緑などによる空地、すなわちオープンスペースが人々に癒し、憩い、快適性などをもたらし、これらが人々に英気を与え、活力の原動力になることを歴史が裏付けています。

私たちの住まいについても同じことが言えます。住宅と庭が一体化することにより家族の団欒は充実し、それが連担することによって快適で美しい町並みが造られていきます。それに加え、今日では博覧会、まちづくりまで造園の技が広がっています。

そのテクニックを柳原のスケッチで紹介したのが本書です。私たちが伝えたかったのは、美しい画を描く技もさることながら、緑空間をつくる意義と楽しです。

私たちは古稀、還暦を超えても、まだそれを追いかけています。ともに大阪府立園芸高校の造園科で学び、柳原は荒木芳邦先生の薫陶を受けて作品を残し、中橋はランドスケープ設計の実務と研究に取り組んできました。その情熱と造園・ランドスケープを愛する心が読者の皆様に伝われば望外の幸せであります。

終わりに本書の執筆におきまして、植物材料の情報に関して富士華園ご代表、溝口正孝様のご助言をいただきました。図版の整理に際しては、柳原氏のスケッチに憧れ、アトリエで研修を積んだ公立鳥取環境大学環境学科の甲本詩織、佐々木美祐、中山亜紀君が絶大な貢献をして
くれました。ここにお名前を記し感謝の意を表します。

学芸出版社の岩崎健一郎様におかれましては粘り強く対応していただきありがとうございました。また、前田裕資社長のご理解があっての上梓となりました。伏してお礼申し上げます。

平成27年7月10日
柳原寿夫 中橋文夫