田舎の宝を掘り起こせ

曽根原久司・えがおつなげて 編/杉本 淳・矢崎栄司 著

内容紹介

農山村には多様な資源がある。地域の宝を掘り起こして商品化するにはビジネスの発想が必要だ。NPO法人えがおつなげてでは、45人の農村起業家を輩出。その育成ノウハウをもとに、成功の秘訣、失敗の理由などを実践例を踏まえて解説する。6次産業化、ツーリズム、森林資源活用、自然エネルギーなど起業のためのヒント満載。

体 裁 四六・256頁・定価 本体2200円+税
ISBN 978-4-7615-2541-5
発行日 2012/11/01
装 丁 コシダアート


目次著者紹介まえがきあとがきイベント

第1章 私はこうして起業した! 16の起業プロセス

(1)六次産業化

①農業を基盤に加工、販売に向けて事業拡大
1 街中直売所で村のお年寄りの味を伝える:㈱GIMY 山口英則さん
2 自然栽培農園の加工・販売所で美味しい食と出会う:㈱BIO-hof SAKURAI櫻井正喜さん
<成功の秘訣・失敗のワケ

②地域産品の販売拡大に道を開く新しい直売システム

3 誰でもできる庭先直売所を地域コミュニティの拠点にする:庭先DE直売所合同会社 津末啓二さん
4 地域と大学を食で結び地域を活性化する:NPO法人キャンパスマルシェネットワーク 田垣実郷さん
<成功の秘訣・失敗のワケ

③付加価値産品の加工・販売で地域を支える

5 地域素材を活かしたカフェ事業が移住先で花開く:(一社)たべるとくらしの研究所 安斎伸也さん
6 古代米のブランド化で日本のお米のルーツを守る:㈱清左衛門 秋葉秀央さん
7 主婦起業家が地域食資源を「宝」に変える:恋する魔女工房 近田清美さん
<成功の秘訣・失敗のワケ

(2)ツーリズム(都市農村交流)

8 過疎化が進む集落に都会の若者を呼ぶ:(一社)風土人 豊田有希さん
9 地域交流拠点の里山カフェがコミュニティの輪を広げる:とかいなかフェ 上田武さん
10 農家主婦の副業モデル「学べて遊べる手づくり農家民宿」:O2Farm Inn 大津愛梨さん
<成功の秘訣・失敗のワケ

(3)森林資源活用

11 森を荒廃から守る、未利用森林資源による家造り:(一社)森林資源活用推進協会 森田千史さん
12 厄介者の竹が新たな産業と障害者雇用を創出する:㈱農輪 白石賢三さん
<成功の秘訣・失敗のワケ

(4)自然エネルギー

13 林産資源活用で地域エネルギー自給システムの普及を目指す:(一社)日本ガシファイアー協会 小島忍さん
<成功の秘訣・失敗のワケ

(5)ソフト産業(IT、教育)

14 農家と消費者がSNSで直接つながる仕組みをつくる:㈱kedama(ケダマ) 武田昌大さん
15 有機研修農場で就農希望者を支援する:NPO法人あしたを拓く有機農業塾 涌井義郎さん
16 子牛放牧と体験イベントでブドウ園を再生する:えがお勝沼 三森斉さん
<成功の秘訣・失敗のワケ

第2章 農村起業家に求められる意思とスキル

1 まずは信頼を築くことから
2 起業に必要な「思い」と「覚悟」
3 農村起業家に求められるスキルとは

第3章 農村起業家になろう─起業成功の10か条

1 資金計画と知っておきたい支援金情報
2 まずは事業計画書の作成
3 意図がよく伝わるプレゼン・評価を落とすプレゼン
4 法人形態はどうしたらよいか?
5 地域とのよい関係を築く、絆・ネットワークのつくり方
6 理想と現実の落差を知ることが大切
7 マーケティングの巧拙が商品開発の成否を決める
8 協力者・支援者・コンサルタントの選び方
9 賢いメディア戦略の方法
10 農山漁村から、ニーズを見つけに都会へ行こう
農村起業/29のケーススタディ

編者

曽根原久司(そねはら ひさし)

「NPO法人えがおつなげて」代表理事。大学卒業後、ミュージシャンとして活動。その後コンサルティング会社勤務などを経て独立。経済バブルの崩壊後、銀行などの経営指導を通して日本の未来に危機を感じ、その再生モデルを模索すべく山梨県白州町(現北杜市白州町)に移住。自ら農業・林業に携わりながら2001年に「NPO法人えがおつなげて」を設立。「村・人・時代づくり」をコンセプトに都市農村交流事業をはじめとするソーシャルビジネスを展開している。内閣府の地域活性化伝道師、やまなしコミュニティビジネス推進協議会会長、山梨県立農業大学校講師などを務めている。著書に『日本の田舎は宝の山─農村起業のすすめ』(日本経済新聞出版社)がある。

NPO法人えがおつなげて

農業を中心に地域共生型のネットワーク社会を作ることを目的に2001年に設立、「村・人・時代づくリ」を行っている。「えがおの学校」「えがお大学院」などで都市農村交流マネージメントコーディネーター、農村起業家などの人材育成事業を実施。山梨県北杜市の増富地区などを拠点に、耕作放棄地を開墾して「えがおファーム」を開設。農業研修生や農業体験の受け入れ、農産物の栽培・販売など行っている。また企業と連携してCSR活動、農商工連携活動などで耕作放棄された棚田や畑を再生し、都市での農産物販売、社食利用、加工品化などを進めている。小中学生の農業や森林体験、企業研修会などの活動で年間約5000人以上が北杜市を訪れ、地域住民との交流が行われている。行政・大学・企業との連携による自然エネルギー開発や森林資源活用事業も手がけている。

著者

杉本 淳(すぎもと じゅん)

「NPO法人じゃばらむら」理事長。平成23年度まで「NPO法人えがおつなげて」理事兼事業マネージャーおよび「えがお大学院社会起業家支援コース」コンサルタント役を務める。大学卒業後、コンサルティング会社ランドブレインにて都市計画・地域再生プロジェクトに取り組み全国を奔走。現在、ソーシャルビジネス部門の起業家育成、農山漁村の活性化支援、地域産品開発・ブランド化、バイオマス等の自然エネルギーの事業化、農村漁村活性化事業のセミナー指導などさまざまな取り組みを行っている。NPO法人農商工連携サポートセンター理事、ランドブレイン株式会社経営顧問、農林水産省農林水産物・食品地域ブランド化支援アドバイザーも務めている。

矢崎栄司(やざき えいじ)

アースワークルーム代表。平成23年度まで「えがお大学院社会起業家支援コース」コンサルタント役を務める。長年有機流通・有機農業にかかわり、有機の里づくり、有機食品ビジネス、放牧農場づくり・有機畜産化などに取り組み、自然共生農業・動物福祉を推進する活動を行っている。NPO法人農商工連携サポートセンター理事、アグリネイチャースチュワード協会事務局長、農業と動物福祉の研究会世話人、カナダのNPO法人Earth Works Institute N. P. O. 発起人・理事を務める。著書に『緑の企業になる方法』『危機かチャンスか 有機農業と食ビジネス』(ほんの木)、『あなたにもできる「おいしいね!」と喜ばれる食ビジネス7つの秘訣』(誠文堂新光社)などがある。

私は、日本の田舎の資源は、宝だと思っている。この思いは、農村に暮らす人なら、誰しもに通じるものだと思う。また、都会に暮らす人だって、少なからずそう思っている人もいるのではないかと思う。また私は、この日本の田舎の宝の資源が上手に活用されたなら、10兆円ぐらいの国内産業が創出されるだろうと思っている。なぜなら、それぐらいの宝の資源の蓄積があるからだ。世界の中で第2位の森林率を誇る森林資源。40万ヘクタールにもなる耕作放棄地。地球10周分に匹敵する農業用水路。四季折々の美しい農村の自然景観。農村地域の暮らしの中で育まれた豊かな食文化等々。みな、すばらしい宝の資源だ。ただ、残念なことに、これらの資源が有効に活用されていない。もしも、これらの農村の資源に価値が与えられ、新しい商品となり有効に活用されたならば、私は、10兆円ぐらいの地域産業が創出されると思っている。私が考える農村資源を活用した10兆円産業とその内訳は、以下である。

  1. 「六次産業化」による農業(3兆円)
  2. 農村での観光交流(2兆円)
  3. 森林資源の林業、建築、不動産等への活用(2兆円)
  4. 農村にある自然エネルギー(2兆円)
  5. ソフト産業と農村資源活用の連携:情報、教育、健康、福祉、IT、メディア(1兆円)

この5分野が、日本の農村の資源特性から考えて、有望な産業分野と考えている。

私が代表を務めるNPO法人えがおつなげてでも、山梨県の限界集落地域に拠点を構え、地域にある農村資源の活用の取り組みを行ってきた。高齢化率63%、耕作放棄率63%という過疎高齢化による農地の荒廃が深刻な地域での取り組みだ。限界集落となってしまったとはいえ、地域の資源の宝はたくさんある。これを活用していこうとする取り組みだ。

我々の活動の一例を紹介する。20年以上耕作が放棄されてしまった荒れた棚田を、三菱地所グループと連携しながら開墾し、酒米の栽培を開始した。そしてその酒米で、山梨の酒蔵で、純米酒を仕込んだ。仕込んだその日本酒の名前は「純米酒丸の内」。三菱地所グループの拠点、東京丸の内で販売される日本酒として開発されたのだ。今年仕込んだ純米酒丸の内2012年版は、3800本。2012年3月に販売開始したが、約1か月でほぼ完売となった。販売された場所は、東京丸の内の酒販店、飲食店、レストランなど。この純米酒丸の内は、商標登録の取得も完了し、今後は東京丸の内の地酒として、定着していくことを目標としている。また、この取り組みによって荒れてしまった棚田が復活してきた。その昔、田毎(たごと)の月が美しかった頃の棚田風景が復活してきたのだ。これが、耕作放棄地を活用した農業の六次産業の一例である。

次に、農村起業家の先輩でもあり、本章で紹介する45人の農村起業家のコンサルタント役として支援いただいた小野隆氏の取り組みを紹介する。彼は、もともとは、桃、ぶどう、サクランボなどを栽培する山梨県の果樹農家であった。そんな彼は、常日頃から農業を行う中で、多くの規格外の果樹が流通できずに捨てられていることに心を痛めていた。また、地域に耕作放棄地が広がりつつあることにも心を痛めていた。そんな中で、自身の農業事業体の他に、NPO法人を立ち上げ、規格外の果樹を、ジャム、ジュース、ピューレなどに食品加工し、次々と商品化していった。さらに、耕作放棄地の活用として、ブルーベリーなどの観光園を運営し、地域の農村観光事業をスタートさせた。今では、地域の六次産業の柱として、地域の農業者、自治体、商工会、企業などと連携しながら、次々と事業を展開している。

田舎に宝は、まだまだたくさんある。もしも、このような田舎の宝が、新しい産業につながり、10兆円産業規模にまで発展していけば、私は、100万人ぐらいの雇用創出にもつながるだろうと思っている。貴重な資源は有効活用されるわけだし、それによって、新しい雇用が生まれるわけだし、いいことだらけではないか、と思う。

では、なぜそれが果たせなったのか。進められなかったのか。進められなかった理由は何にあるのか。進めるうえでの問題はどこにあったのか。

それは、私は人材の不足だと思っている。それを進められる担い手が不足していたからだと思っている。日本の農村は、少子高齢化で担い手不足だとよく言われる。やはり、それがまず大きな背景だろう。しかし、減少したとはいえ、地域に農業者などの担い手もいるはずである。ではなぜ彼らが、田舎の宝を掘り起こす担い手と成りえなかったのだろうか。私は、田舎の宝、すなわち農村資源を掘り起こすには、働き手としての役割だけでなく、起業家としての役割の担い手が必要だからだと思っている。農村にある資源を活かして起業をしていく“農村起業家”が不足していたからだと思う。また、農村では今まで、このような視点で起業を行う教育などもあまりなされてこなかったのだと思う。

田舎の資源の宝は豊富にあるのだから、今後は、農村における起業家としての担い手の役割が大いに期待されるところだ。農村起業家の活躍によって、農村の資源が活用され、それによって新たな雇用の機会につながるからだ。

私もこの視点で、今まで、農村起業家を育てる活動を行ってきた。私の地元の山梨のみならず、日本全国の農村地域や、東京などの都市で研修会を開催し、農村起業のやり方などを伝えてきた。地域の農村資源に価値づけを行い、商品化し、ターゲットとするマーケットに販売するビジネスモデルの作りかたなどである。おそらく今まで研修を受けられた方は、500人以上になっていると思う。また、その研修を受けられた方々が、各地で実際に起業をしている。さらに、その中には、地域でたいへんな活躍をされている方も現れている。私自身、とてもうれしい限りだ。

今回、本書で紹介する方々は、各地で実際に農村起業をスタートさせた農村起業家のみなさんだ。2011年から2012年にかけて行われた、内閣府「地域社会雇用創造事業」の中で、私を代表とするNPO法人えがおつなげてが、「えがお大学院」という起業家支援事業を立ち上げ、その中で起業を達成されたみなさんだ。本書は、その農村起業のドキュメントである。農村起業家たちが、計画段階から起業していくまでのストーリーである。また、それと同時に本書は、この2年間の起業支援の中で生まれた、農村起業のノウハウ集でもある。

農村起業に関心のある方、また実際に何かこの分野で起業をしてみたいと思っている方、また農村起業家を育成、支援したいと思っている自治体などの方々、さらに、田舎の資源の宝に心惹かれるみなさんに、ぜひ、お手に取っていただきたい。参考となる何かが見つかると思う。

2012年9月  曽根原久司

農村起業家のストーリー、いかがだっただろうか。さまざまな地域で、またさまざまな分野で、農村起業が芽生えている新たな息吹を感じてもらえただろうか。また、読者によっては、農村起業家たちの幅広い取り組みに驚かれた方もいるかもしれない。農村起業家の取り組みのイメージというと、農業などの生産をベースにした、ある意味、限定された農村での取り組みをイメージされる方が多いからだ。農村起業は、もっと幅広いものだ。耕作放棄地、森林、農産物、特産品、自然エネルギー資源、自然資源、伝統資源など、多様に広がる農村資源をベースに、事業が組み立てられるからだ。さらにそれらの農村資源に、農村起業家ひとりひとりの独創的なアイデアや知恵が加わって事業が生み出されるので、事業分野は幅広いものとなる。

私は、この幅広さにこそ、農村起業の可能性と魅力と醍醐味を感じている。本書をお読みいただい方は、この点に共感いただけるのではないかと思う。また私自身、今回の農村起業家の支援活動の中の“ある日”を通して、より一層のその可能性と魅力と醍醐味を確信したのだった。そのある日は、2012年2月18日。その日、「農村起業EXPO」というイベントが、東京で行われた。その日は、我々が起業支援した北海道から九州の農村起業家たちが、一同に集結した日だった。このイベントは、農村起業家たちが事業化した商品やプロジェクトを一般の方々に公開する、いわば、農村起業家のお披露目を兼ねた見本市のようなものだった。しかし当初、このイベントを企画した我々も、どのぐらいの方に関心をもって来場いただけるか不安であった。なにしろ、農村起業家たちのお披露目の見本市のようなイベントは、今まであまり聞いたことがない。しかし、イベント当日、ふたを開けてみれば、来場者多数、満員御礼、大盛況であった。このイベントの中で、農村起業家たちのプレゼンテーションも行なわれたが、会場では立ち見もでるほどで、会場に入りきれないほどの賑わいとなった。もちろん、会場の雰囲気は言葉では言い表せられないほどの熱気であった。

また、ある来場者が、私にこう言った。「農業に対して抱いていた、ある種の暗いイメージのようなものがここにはない。農村起業も似たようなものかなと思って来たが、まったく違う。農村起業のイメージが、がらっと変わった! 取り組んでいる内容もこんなに幅広いとは思わなかった。第一、今日会った農村起業家たちの幅広い性別、年齢、経歴、キャラクターなどのバリエーションに驚いた! 従来の農業というイメージには出てこない人たちだ。この人たちは、社会を変えるかもしれない」と興奮した様子で私に話してくれた。私にとって、この言葉は決定的だった。私の中での農村起業のイメージを固めるうえで。そしてこの瞬間、農村起業のこの幅広さこそ特徴であり、可能性と魅力と醍醐味なのだと、私自身、確信したのであった。

農業・農村に対するイメージは、近年、ずいぶんと変わり、よい印象を持つ人も現れてきてはいるものの、まだまだ暗いといったイメージが支配的だ。一方、今後日本では、農村の各地域が、自立した経済や暮らしのあり方を求められることになる。ただし、この点は農村地域に限った話ではなく、不況が長引く日本全体においても同様のことがいえるだろう。そんな状況の中で、幅広い分野で活躍する可能性と魅力と醍醐味を持った農村起業家の登場が、今後さらに期待されるというものだ。農村起業家の興した事業が、自立した地域の経済や暮らしのあり方を作り、農業・農村のイメージを変えていくのだ。本書で取り上げた農村起業家のみなさんは、まだ起業したばかりで、安定した事業とはいえないかもしれない。しかし、勇気を持って起業を果たした行動は称賛に値するものだと思う。読者のみなさんも、ぜひ応援していただければ幸いである。

本書は、以下の方々の協力なくしては完成することはできなかった。この場を借りて、深く感謝申し上げたい。今回の農村起業家の支援活動の中で、コンサルタント役として農村起業家たちを支援いただいた、東山雅広氏、村井正太郎氏、小松俊昭氏、野沢清氏、小野隆氏、藤尾正英氏。また、我々の農村起業家を支援する事業を、政策サイドからご支援いただいた内閣府地域社会雇用創造事業の関係者のみなさま。また、本書を執筆するに当たり、さまざまにご助言をいただいた学芸出版社の前田裕資氏、中木保代氏に、改めて、深くお礼を申し上げたい。

そして最後に、今回、本書で取り上げた45人の農村起業家の今後の活動に、さらなるエールを送りたい。

2012年9月  編者・著者を代表して 曽根原久司