過疎地域の戦略

谷本圭志・細井由彦 編著/鳥取大学過疎プロジェクト 著

内容紹介

鳥取大学と自治体による実践的連携から生まれた本書は、地域の現状と将来を診断し、社会実験も踏まえ社会運営の仕組みを提案、その仕組みを支える技術も一冊に取りまとめている。福祉、交通、経済、防災、観光、保健など分野に囚われない総合的なアプローチが特徴。自治体、NPO職員、地元リーダーなどに役立つ一冊。

体 裁 A5・216頁・定価 本体2300円+税
ISBN 978-4-7615-2540-8
発行日 2012/11/01
装 丁 コシダアート


目次著者紹介推薦イベント
はじめに

序 過疎地域の今後と課題解決の戦略

谷本圭志

1 三つの課題──人口減少、高齢化、過疎化
2 今後の地域像と課題解決の戦略
3 本書の構成
コラム 「30年後の日本の姿」──鳥取県日南町  谷本圭志

1章  過疎地域の現状・将来診断から見た戦略の実現可能性

1・1 集落における相互扶助の現状と今後の展開の可能性

谷本圭志

1 見直しを迫られる相互扶助
2 助力に関する需給の実態
3 助力に関する需給の将来像
4 広域的な相互扶助の実現可能性
5 広域的な相互扶助が機能するためには

1・2 森林価値の変遷と荒廃する森林のゆくえ

片野洋平

1 過疎地域における森林の現状
2 森林への関心の喪失
3 森林の実態と所有の意識──日南町におけるフィールド調査から
4 不在村地主の問題
5 なぜ関心は失われたのか
6 森林が管理されるために

1・3 公共交通の必要性とその限界

谷本圭志

1 高齢社会における公共交通づくりの視点
2 公共交通の利用を阻害する要因
3 公共交通サービスの将来像
4 公共交通サービスの限界とそれを補う連携
5 分野横断的な連携へ

1・4 高齢者の生きがいと健康に寄与する農林業

黒沢洋一・岡本幹三

1 過疎地域における高齢者と健康
2 「若くなった」高齢者
3 農業と健康増進──地域産品づくりによる副産物
4 農林業の効用
5 高齢社会における農林業の意義の再発見

1・5 高齢社会における災害に対する自助・共助の現状と今後

松見吉晴

1 高齢化と自然災害の脅威
2 高齢者の運動能力──避難の観点から
3 災害への備えの実態
4 避難行動シミュレーションを用いた自助・共助の分析
5 さらなる高齢化に備えて

1・6 人口減少が進む小規模自治体における生活排水処理事業の方向性

細井由彦

1 生活排水処理事業の人口減少社会における課題
2 生活排水処理の方法──集合処理と個別処理
3 人口減少を考慮した処理方法の選択
4 既設の生活排水処理施設の持続的維持
5 持続的な生活排水処理事業の経営に向けて

2章   フィールド実践に基づいた新たな仕組みと技術の提案

2・1 住民参加でつくる持続可能な地域福祉システム

竹川俊夫

1 今日的な課題としての過疎地域の地域福祉システム
2 地域福祉を取り巻く社会状況──鳥取県を例に
3 持続可能な福祉システム構築の試み──鳥取県八頭町の取り組みを例に
4 過疎地域における持続可能な地域福祉システムづくりに向けて

2・2 「担い手」から見る森林利活用の地域経済システム

家中 茂

1 むらの空洞化と森林荒廃
2 鳥取県智頭町「木の宿場」事業の取り組み
3 生業の復権──山の生業複合へ向けて

2・3 新しい林業への脱皮に向けた「森林認証」

永松 大

1 手入れされない人工林
2 林業再生の手立てとしての「森林認証」
3 林業経営体による森林認証取得への取り組み
4 課題の克服と森林認証の活用
5 新しい林業への脱皮に向けて

2・4 地域資源を活かした中山間地域のエコツーリズム

日置佳之

1 エコツーリズムとは
2 エコツーリズムを成立させる五つの要素
3 産業として見た場合のエコツーリズムの問題点
4 エコツーリズムの展開過程
5 中山間地域におけるエコツーリズムの展開事例
6 エコツーリズムの経済的な成立可能性
7 中山間地域における生業としてのエコツーリズム
コラム 双方向型のツーリズムの可能性  古塚秀夫

2・5 多様な主体の重層的な参加に基づく公共交通システム

谷本圭志

1 高齢化の最前線での公共交通計画
2 社会実験の経緯──鳥取県日南町
3 多様な運行主体の重層的な参加に基づいた計画
4 本格運行の経過
5 公共交通サービスのイノベーションも視野に入れて

2・6 遠隔医療による在宅医療/医療連携システム

近藤博史

1 過疎地域における医療の現状
2 今必要とされている遠隔医療システム
3 衛星通信を利用した在宅医療システムの開発と実証実験とその後
4 名寄せサーバを中心にした地域医療連携システムの構築

2・7 情報技術を用いた公共交通の利用促進システム

伊藤昌毅・川村尚生・菅原一孔

1 公共交通の持続可能性を高める情報技術
2 公共交通の利用促進システム「バスネット」とは
3 バスネットが実現する公共交通の使いこなし方
4 バスネットへのアクセスから探る公共交通への需要
5 さらなる公共交通の利用促進のために

2・8 ソーシャルメディアを活用した地域マーケティング

石井 晃

1 地域マーケティングのターゲット
2 ソーシャルメディアを用いたマーケティングの可能性
3 「ヒット現象の数理モデル」の考え方
4 地域マーケティングにおける観光客の予測
5 これからの地域マーケティング

2・9 地理情報システムを用いた中山間地域における土地管理システム

長澤良太

1 広がる所有の不明確化
2 GISを用いた土地情報管理の基本的な考え方
3 筆地マップを活用した土地情報管理システム
4 中山間地域における土地情報管理システムの活用事例

3章  持続可能な地域を支える行政システムへ―鳥取の経験から

3・1 人口減少時代における自治体経営と政策サイクルのあり方

小野達也

1 人口減少と自治体経営
2 問われる人口増加政策の有効性
3 人口減少への政策対応
4 人口減少下の自治体経営に求められる条件
5 賢く縮む、成熟した街へ

3・2 持続的な行政運営のための体制づくり

谷本圭志

1 変革が求められる行政運営体制
2 大学との連携システム
3 住民組織への分権システム
コラム 自治体による努力の限界と国への期待  岡田 純

おわりに
索引

鳥取大学過疎プロジェクト

正式な名称は「鳥取大学持続的過疎社会形成研究プロジェクト」。工学研究科の教員を中心に、全学部から教員が参加した学部横断的なプロジェクトとして2007年度に発足。文部科学省の特別経費の財政支援を得つつ、鳥取県や境港市、鳥取大学と協定を締結している日南町、琴浦町、南部町などとの密接な連携に基づき、フィールド実践的な社会づくりの学術研究と地域貢献を同時並行的に推進。初代代表は細井由彦教授、2012年度より代表は谷本圭志教授。

片山善博 慶應義塾大学教授・元総務大臣

鳥取県知事を務めていた頃、政府の政策をもらいうけるだけの消極的態度ではなく、現場の課題を解決するには自ら考え、自ら実践する「生活習慣」を身につけるよう心がけていました。その際「知的な拠り所」として頼りにしていたのが鳥取大学です。地域の課題を研究対象とすることで当面の地域政策に資するのみならず、併せて、その研究成果を普遍化することを通じて、同様の課題を抱える他の地域にも貢献するよう願っていました。

本書は私のその期待に応えてくれる好著です。過疎地域で先駆的取り組みをしている鳥取県の現場でのさまざまな実践を紹介しつつ、今後の可能性についても考究しています。ひたすら政府にすがるのではなく、地域自らが知的にいきいきと問題を解決していこうとする姿勢がそこからは読み取れるはずです。全国の自治体関係者をはじめとして、地域づくりに携わる多くのみなさんに自信を持ってお勧めする所以です。