歴史に学ぶ 減災の知恵
内容紹介
歴史的な町並みには、統一感のある美しさがある。しかし一方で、これらは、自然災害から身を守り暮らすなかで、工夫し、積み重ねてきた知恵の結晶とも言えるものだ。地震、火災、水害、風害等に対してうまく防御する技術がない時代に、それらを受け流すことで生き延びてきた昔の人たち。震災後の今こそ、その知恵に学びたい。
体 裁 四六・200頁・定価 本体2000円+税
ISBN 978-4-7615-2532-3
発行日 2012/06/15
装 丁 KOTO DESIGN Inc.
プロローグ
減災という伝統文化──歴史的町並みと災害を受け流すデザイン
町並み景観と生き残るデザイン/災害のデパート/防災神話の限界/防災から減災へ/減災のデザイン
1 揺らして逃がす地震対策
震災という宿命
1 しなりで揺れを受け流す──伝統建築は柔らかい
五重塔は地震で倒れたことがない/核となる心柱/現代に活かされている柔構造
2 きしむことで揺れを止める──地震の力を摩擦に変える仕口
仕口の力/あえて破壊させる/めりこみを利用する
3 「ドミノ倒し」が止まるわけ──復元力が決め手の巨大柱構造
なぜ途中で止まるのか/巨大柱の建築列伝
4 揺れが来たら空を飛べ──石場建ての免震効果
建築が飛びはねる?/石の上に建つ
5 そもそも耐震性能は必然?偶然?──事実と解釈のはざまに
6 逃げるが勝ち──避難を考えた特殊建築
避難する知恵/VIPの避難所
2 燃えても守れる火災対策
木でできた町/昔の火の消し方/火消という人々
1 燃えるものにはふたをする──瓦と漆喰で被覆された伝統的耐火建築
屋根材の変遷/塗屋造と土蔵造/味噌で隙間を埋める
2 「うだつ」を上げろ──町並みに挿入された防火壁
3 シッポを切って生き延びる──防火帯のある建築と町並み
連なって建つ蔵/池をはさむ/火除け地をつくる/導火線を断つ知恵/燃えても折れない巨大柱
4 燃えても消せるまちづくり──自然水利を活かした伝統的防災都市
防火のための水路/バケツの下がる町並み/現代に生きる知恵/茅葺きの防火システム
3 ぬれても流れぬ水害対策
1 弱さゆえに受け流す──伝統的な洪水対策
人間の想定を超える可能性/隙間によって水勢を弱める/桂垣の隙間と弾力/もう一息の高さをかせぐ畳堤/洪水からすばやく復旧する橋/流れとともに生きる/輪中の生活
2 万一に備える生き方──身近な場所への避難計画
津波避難所になった寺/土地の歴史/稲むらの火
4 日常としての風雪対策──台風と豪雪に向き合う知恵と工夫
自然と共生してきた住環境
1 低く静かにやり過ごす──様式となった台風対策
福木と石垣/赤瓦の屋並み/台風への備え/軒を支えるサンゴの礎石/室戸の知恵
2 身を寄せ合って助け合う──雪害対策
合掌集落/新潟県の雁木
エピローグ
「減災の知恵」の復活と歴史の再生──「歴史・防災まちづくり」へ向けて
コミュニティー居久根による津波対策/伝統に学ぶ美しい減災まちづくり
補注
おわりに
大窪健之(おおくぼ・たけゆき)
本書は、著者が歴史都市の防災研究に取り組むようになって以降15年余りの間に、全国各地で触れ、多くの先生方からお話を聞き、収集してきた「伝統的な減災の知恵」を総覧的に整理したものです。この意味で、世の中にある知見を網羅的にカバーした内容ではなく、筆者の研究分野にいくぶん偏った内容になっています。
また、筆者はもともと建築設計・都市計画の分野に従事しており、歴史都市の防災研究に取り組み始めたのは、歴史ある多くの地域を失った阪神・淡路大震災以降となります。このため慣れない史実の解釈や検証に不十分な点があれば、すべては著者の不勉強によるものです。
それでも本書を書きあげようと決心したのは、震災後の急速な災害対策や復興事業の多くが、その土地の歴史や伝統ある美しい風景に配慮なく進んでいることに対して強い危機感を抱いたためです。本書を通して、防災を根拠に伝統ある町並みや建物をすべてリセットする方向ではなく、逆に歴史と経験値を積極的に活かした「美しく安全な減災のまちづくり」の可能性を広げることに役立てるのであれば、これに勝る喜びはありません。
なお編集をご担当いただいた学芸出版社の知念靖広氏、森國洋行氏には、6年も前から忍耐強くご支援をいただきました。彼らでなければ本書の充実やわかりやすさは実現できませんでした。最後になりますが、グローバルCOEプログラム「歴史都市を守る『文化遺産防災学』推進拠点」のメンバーの皆様、OBを含む研究室の学生諸氏、家族を含む身近な方々には、多大なサポートをいただきました。記して謝意を表したいと思います。
2012年5月 若葉の芽吹く衣笠山麓にて