住環境マネジメント
内容紹介
人口減少時代、古びていく住宅地は捨てられかねない。良好な住環境をいかに維持・管理し向上するかが大切になる。そこで、住宅地づくりにおいて管理の種をいかに仕込むか、都市計画・まちづくりがいかに対応すべきか、販売後も手を離さず、育てるなかで改修や中古販売、建替をいかにビジネスにするか、そのモデルを提示する。
体 裁 A5・268頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2506-4
発行日 2011/03/31
装 丁 上野 かおる
はじめに
序 住環境マネジメントとは?
1 住環境マネジメントから見た都市計画・まちづくりの問題点―公法・私法・市場が連携しないまちづくりの実態―
1.1 魅力物を地域で所有・管理することが困難
1.2 地域で適正な土地利用コントロールが困難
1.3 地域に密着したサービス提供が困難
1.4 地域で地域の更新・再生が困難
1.5 住環境マネジメントのための新プラットホームの必要性と課題
2 英米の住環境マネジメント手法に学ぶ
2.1 アメリカの住環境マネジメント手法
2.1.1 HOAを前提とした開発手法と空間特性
2.1.2 HOAに関する法制度
2.1.3 HOAが機能するための支援体制
2.1.4 HOAの組合運営と役割
2.2 イギリスの住環境マネジメント手法
2.2.1 田園都市等における住環境マネジメント
2.2.2 レッチワースにおける住環境マネジメントの実践
2.2.3 住環境マネジメントが成立する支援体制
2.3 英米の共通点とわが国への教訓
3 日本の先駆的事例を検証する
3.1 HOA型 ──私法的な管理と市場メカニズムの活用
3.1.1 日本型HOA:J-HOA(住民主体マネジメント)方式のスキーム
3.1.2 先駆的事例:日本型HOA的組織の事例
3.1.3 HOA型の課題
3.2 借地型 ──私法的な管理の活用
3.2.1 定期借地権を利用したマネジメント方式のスキーム
3.2.2 先駆的事例
3.2.3 借地型の課題
3.3 地主組合型 ──農住組合制度の活用
3.3.1 農住組合制度を利用した地主組合型マネジメント方式のスキーム
3.3.2 先駆的事例
3.3.3 地主組合型の課題
3.4 プラットホーム型 ──既存組織の活用
3.4.1 既成市街地プラットホーム型マネジメントのスキーム
3.4.2 先駆的事例
3.4.3 プラットホーム型の課題
3.5 専門会社型 ──不動産供給・管理会社の活用
3.5.1 専門会社活用型マネジメントのスキーム
3.5.2 先駆的事例
3.5.3 専門会社型の課題
3.6 コミュニティビジネス型 ──NPO等の活用
3.6.1 コミュニティビジネス型マネジメントのスキーム
3.6.2 先駆的事例
3.6.3 コミュニティビジネス型の課題
3.7 新たな主体と方向の可能性
4 公法・私法・市場による新まちづくり手法としての住環境マネジメント論―住環境マネジメント10の法則―
4.1 住環境マネジメント10の法則
4.2 日本における住環境マネジメントシステムの展望
補注
参考文献
関連論文
索引
おわりに
成長社会時代につくられた住宅地は、私たちにとって負の遺産になろうとしている。それは、成長社会の大前提が崩れたからだ。すでに日本では人口が減少し、今後世帯数の減少も予想されている。人口構成は生産人口が減少し、高齢者や単身者が多く占めるようになる。こうした人口・世帯構造も含めた社会構造の大変化のもとで、戦後の成長社会のスキームとは全く異なるスキームが必要である。社会構造の変化の中で、良好な「住環境」を実現し、それを管理・更新するために、新たな価値と方法論の構築を目指すことが求められている。
すでに、従来の方法により貧しい住環境がわが国に広がっている。土地所有者が自己の利益を最大限に得ることを優先して土地を利用するために、地域の文脈や近隣への配慮を欠いた建物を建て、農地や自然を減らしていく。こうして開発されたまちは、公園や道路を地元自治体に移管したいがために、画一的な最低水準でつくられる。そこには、地域の魅力や個性、歴史の重みや優しさ、温かさが感じられない。だから、人々に愛されない。やがてこうしたまちは、人口も世帯も減少すれば見捨てられる。空き地や空き家が増加する。さらに都市の経営も破たんする。
では、これからどのように住宅地をつくれば良いのか。すでに開発した住宅地はどうすればよいのか。そのために都市計画やまちづくり、それを支える建築・不動産制度等はどのように変われば良いのか。
本書では、既存の都市計画・まちづくりの限界と、これからのまちづくりとしての住環境マネジメントの必要性を示し、具体的に日本や英米の住宅地の事例を取り上げ、住環境という地域価値を地域でつくり、育てる仕組みと、それをより円滑に効率的に行うための都市計画やまちづくりをはじめとした社会システムのあるべき方向を示している。
本書をお読みいただくと、現制度の中で多くの発見をし、住環境マネジメントの実践の意義と可能性を理解し、実務に役立てていただけるものと確信している。
2010年12月25日
齊藤広子
マンション管理研究で大阪市立大学生活科学研究科で博士(学術)を取ったばかりの私がはじめて着任いたしました大学は、マンションのない、岐阜の山奥の大学でした。そこで、桜ケ丘ハイツという住宅地に出会い、戸建て住宅地の管理研究をはじめました。
「この素晴らしい住環境を維持するのに、マンション管理のノウハウを適用できないか」と考えました。アメリカ西海岸には、マンションと同じように戸建て住宅地にも管理組織があると聞き、その管理組織としてHOAの研究をはじめました。HOA研究は、私の大阪市立大学大学院生活科学研究科の指導教官である梶浦恒男先生によりすでに行われておりましたが、それ以前にも、筑波大学の指導教官である川手昭二先生が研究されており、その命を出したのは、現在の職場である、明海大学不動産学部の初代学部長石原舜介先生であることがわかりました。まさに、この研究に自分の運命と使命を感じ、続けてくることができました。
HOA研究で終わるかもしれなかった研究が、住環境マネジメントへと発展できましたのは、2005年度のイギリスケンブリッジ大学への留学とそこでのレッチワース等の住宅地や管理組織の方々との出会い、帰国後、小林重敬先生とエリアマネジメントマニュアルを作成させていただいたことです。これにより、研究に視野の広がりと厚みをつくることができました。
約15年間の研究成果をとりまとめ、赤崎弘平先生のおられる大阪市立大学大学院工学研究科で博士(工学)を取得し、2009年には日本建築学会賞(論文)をいただくことができました。このような名誉ある賞をいただくことができましたのは、建築がストック時代に入り、不動産学としての視点が求められていたからだと思います。改めて小泉允圀副学長をはじめとする明海大学不動産学部の皆様、特に多くの助言をいただきました中城康彦先生には感謝を申し上げます。
振り返りますと、約30年前に筑波大学社会工学類で都市計画を学びはじめました。その後、不動産業界で実務につき、そして大阪市立大学の生活科学研究科で学び、現在は日本で唯一の不動産学部に在籍しております。こうした経験により、社会に役立つ、実務に役立つことを意識した、学際的で、かつ工学をベースにした、私法、公法、市場を考慮した研究へと導かれたように思います。
こうした研究成果を実践に生かしたいと、実務家の皆様と日本型HOA推進協議会を立ち上げました。ここでは、住環境マネジメントの実践のための専門家育成として、すまい・コミュニティマネージャーの育成講座や、開発事業者によるマネジメントシステムの設定の仕方のマニュアルや消費者教育用のガイドブック作成を行っております。また、実際に住宅地をつくることにも参加させていただき、研究成果を生かし、開発事業者の思い・行政との協議等を住民に伝え、住民自らが住宅地の価値をつくり、育てるための「まちかるて」制度を創設しました。いま、現場から多くを学ぶとともに、研究成果の普及・実践の必要性を実感しております。
最後に、本書を執筆するにあたり、多くの方々にご指導・ご鞭撻いただき、調査にも本当に多くの方々にご協力いただきました。ありがとうございました。また、学芸出版社の前田裕資氏には執筆構想段階から貴重なアドバイスをいただき、森國洋行氏には編集をご担当いただきました。そして、出版にあたり明海大学浦安キャンパス学術図書出版助成金をいただき、研究の成果をこのような形にまとめることができました。心より感謝申し上げます。
2010年12月25日
齊藤広子