人口減少時代の都市計画
内容紹介
成長時代の都市計画はまちづくりの阻害要因にすらなっている。逆都市化、超高齢社会、低炭素、地方分権、都市間の連携と競争……突きつけられた課題にいかに応えるか!? 歴史をふりかえり、今すでに始まっている変化、工夫を捉えなおし、市民・民間主導のまちづくりを自治体が支える都市計画のあり方を構想する待望の一冊。
体 裁 A5・272頁・定価 本体2900円+税
ISBN 978-4-7615-2503-3
発行日 2011/03/01
装 丁 前田 俊平
はじめに
1章 都市の発展と都市計画制度/大西 隆
1-1 都市計画制度の機能と意義
1 都市計画制度の構造
2 都市計画の意義と節度
1-2 都市計画制度の歴史的発展
1 東京市区改正条例
2 都市計画法(旧法)
3 旧法の時代
1-3 現代の都市計画制度
1 新法の制定
2 新法から40年間
3 関連制度の発展
1-4 都市問題の構造と都市計画制度
2章 土地利用計画とまちづくり/明石達生
2-1 計画の論理と規制の論理
1 土地利用計画の実現手段
2 計画の論理と規制の論理
3 用途地域における都市計画と建築基準法の分担関係の意味
2-2 用途地域の変更は機械的に
1 用途地域の図面はあるべき土地利用を表わすものか?
2 用途地域・容積率のあるべき見直しの仕方
2-3 地区計画の使い方
1 随時変更と地区計画
2 地区計画とは
3 地区計画の策定に向けた動機づくり
4 緩和型地区計画の活用
2-4 街を良くする動機を仕組む
1 緩和型地区計画の論理
2 容積率のインセンティブ
3 都市計画の提案制度
2-5 都市計画からPlanningへ
3章 都市施設とまちづくり/岸井隆幸
3-1 都市施設を巡る都市計画制度の変遷
1 都市計画に規定される都市施設の内容の変遷
2 都市施設の計画と実現を巡る都市計画制度の変遷
3 都市施設を巡る都市計画制度の変遷のまとめ
3-2 「都市施設を巡る都市計画制度」の今後の方向性
1 都市計画決定の対象となる都市施設の考え方
2 都市計画決定の内容
3 都市施設の計画立案主体とプロセス管理
3-3 「土地区画整理事業を巡る都市計画制度」の今後の課題
1 土地区画整理事業の都市計画上の役割
2 土地区画整理事業の今後の方向性
3 今後の「協働」へのヒント
4章 市街地再開発事業とまちづくり/遠藤 薫
4-1 都市計画と市街地開発事業
4-2 都市再開発の足跡
1 1969年の都市再開発法制定当初
2 1988年(昭和63年)まで
3 バブル経済の崩壊以降
4-3 リスクマネージメントと市街地再開発事業
1 リスクマネージメントを追求した結果、到達した事例
2 リスクマネージメントを追求することによって到達する身の丈再開発
4-4 人口減少社会における今後の展望
1 自律的な参加を促す持続性の高い市街地再開発事業
2 都市計画法制のあり方を考えるために
5章 民間都市開発とまちづくり制度/長島俊夫
5-1 民間都市開発の進展と効果
1 東京都心部に関わる政策の変遷
2 大手町・丸の内・有楽町地区における公民パートナーシップの形成と仕組み
5-2 民間都市開発を支える都市計画諸手法
1 新たな都市計画手法と大丸有地区における適用事例
2 容積率緩和型都市計画手法の課題と展開
5-3 エリアマネジメント
1 エリアマネジメント組織の成立と活動概要
2 ストック時代におけるエリアマネジメントの課題と展開
5-4 日本の成長エンジンとしての東京の役割
1 日本の現況と首都東京の役割
2 日本の成長エンジンとしての東京のあるべき姿
3 求められる施策、取り組み
6章 まちづくりと市民参加/小泉秀樹
6-1 市民参加を論じるための視点
6-2 都市計画法における市民・住民等の関与・参加
6-3 市民主体のまちづくりの仕組みづくりへの挑戦
1 都市マスタープランの策定と市民参加の充実
2 まちづくり条例の発達と市民参加
6-4 市民主体の都市計画・まちづくりから求められる制度改正とは
7章 分権最前線に見るまちづくり条例―多元的土地利用規制における法律と条例の新しい関係―/松本 昭
7-1 分権改革に見るまちづくり法制の変化
1 政策法務の技を磨こう
2 分権でできる2つのこと、それを妨げる2つの固定概念
7-2 分権から捉えたまちづくり条例の系譜
1 まちづくり条例の系譜
2 実効性・処分性から捉えたまちづくり条例の進化
7-3 土地利用法制を巡る新しい展開
1 「一元的土地利用法制」から「多元的土地利用法制」への移行
2 個別法とまちづくり条例の関係/法律と条例の新しい関係―枠組み法と実施条例
7-4 建築基準法とまちづくり条例の連携・融合
8章 まちづくりの諸事例
8-1 石川県金沢市
条例によるまちづくり―中心市街地活性化に挑む金沢市―/大西 隆
8-2 東京都府中市
大規模開発事業の土地利用調整制度―土地取引前の2段階型助言システム―/松本 昭
8-3 東京都中央区
銀座ルール―「地区計画+デザイン協議」によるマネジメント型まちづくり―/松本 昭
8-4 兵庫県芦屋市
「景観地区」がまちづくりを変えた―芦屋市不認定処分に見る「都市・建築法制」と「都市・景観法制」の関係―/松本 昭
8-5 静岡県下田市
市町村都市マスタープランの見直しを契機としたプランニング・キャピタルの形成/小泉秀樹
8-6 東京都練馬区
都市マスタープラン策定を契機とした主体づくりと仕組みづくりの相互作用的展開/小泉秀樹・杉崎和久
8-7 東京都北区
神谷・豊島地区密集市街地整備/遠藤 薫
9章 これからのまちづくりと法制度/大西 隆
9-1 迷走する都市政策
9-2 都市の置かれた状況と都市計画の課題
1 逆都市化時代に入る
2 超高齢社会を迎える
3 低炭素都市の時代
4 地方分権
5 都市計画法抜本改正の必要性
9-3 人口減少社会における都市計画法制のあり方
1 都市計画の適用範囲の拡張と目的の豊富化
2 地方主権による市民参加と条例の普及
3 一般財源に基づく都市計画事業
4 きめ細かなマスタープランの土地利用計画
5 都市施設と市街地開発の合理的な展開
6 低炭素都市と都市の景観・アメニティの向上
おわりに
索引
シリーズ刊行にあたって
人口が増え、都市が拡大する時には、都市計画の役割は、既成市街地改善と新都市建設を計画し、実行することと明確であった。しかし、都市が十分に拡大して、やがて都市の人口が減るようになれば、都市計画の役割も変わる。既成市街地の改善はなお必要とはいえ、新都市建設は不要となり、新たに、環境共生や都市景観向上等、いわば都市の質に関わるテーマが注目を集めるようになってきた。我が国の都市計画はまさにこうした転機に立っている。「低炭素」「コンパクト」等、都市の将来像を表わす新しい用語が次々と生まれているのはこうした背景による。その延長に、都市計画法や建築基準法の抜本改正を行って、市民が期待するこれからのまちづくりにふさわしい体制を整えようという議論がある。
振り返れば、我が国の都市計画制度は、東京市区改正条例(1888年)、旧都市計画法(1919年)、現都市計画法(1968年)と継がれてきたが、現在の法改正論がこれまでと大きく異なるのは、前述した都市化から逆都市化(都市人口の減少)への変化に加えて、国主導の、換言すれば都市計画法を中心とした都市計画制度から、都市計画関係条例を中心とした都市計画制度への変化が起こっていることであろう。このことは、一般の市民や都市で様々な活動を展開しようとする事業者が、都市がどうあるべきかを提案する市民・民間主導のまちづくりが発展してきたことによってもたらされた。自分たちが使うまちがどうあるべきかは、まさに他人が決めることではなく、自分達自らが決めることであろう。
ここで、まちの利用者の観点からまちのあり方を考える発想を「まちづくり」と表現した。しかし、当然ながら利用を巡っては、多様な思いがあり得るので、それらの合意を図ったり、各自のもつ基本的な権利が侵害されないようにすることも重要である。法律から条例に向かう都市計画制度は、こうした合意や権利保護が必要であることを踏まえながら、まちづくりを積極的に促すものとなるべきであると思う。本書が狙ったのは、日本の都市計画制度の淵源にも言及しつつ、こうした新たな時代における都市計画制度のあり方を論ずることである。
1章では、日本の都市計画法制の歴史を辿り、明治政府下の東京市区改正から今日までのおよそ120年間にどのような都市の変化と制度の発展があったのかを論じた。2章と3章では、都市計画制度の2つの柱ともいうべき土地利用計画と施設整備計画を取り上げて、その沿革、考え方、現状と課題を論じた。4章では、市街地整備を取り上げ、特に成熟社会のまちづくりで重要さが増すと考えられる都市再開発に焦点を当て、「身の丈再開発」という新たな考えが必要になっていることを論じている。5章では、再開発の集積型ともいえる都市再生制度を取り上げた。世界の大都市が、様々な用語と制度で、都市の機能と空間の更新に取り組んでいる。我が国のそれはどこに特徴があり、成果と課題は何かを論じた。6章と7章では、まちづくりの最新の潮流である分権と参加に焦点を当てた。6章は参加型のまちづくりについて、その理論的背景と、制度の発展を論じている。7章では、都市計画における地方分権の最前線に立つまちづくり条例に注目し、国主導から市町村主導のまちづくりへの転換が、徐々に、しかし着実に進んでいることを示した。8章はケーススタディである。条例、再開発事例、参加の試み等、まさに我が国における都市計画・まちづくりのこれからの展開をリードする最新事例を紹介している。9章では、こうした議論の展開を踏まえて、改めて都市計画制度の課題、とりわけ都市計画法のあるべき姿に論点を戻し、その抜本改正の基本的な内容を提示している。
本書の執筆者は、これまで3年以上にわたって東大まちづくり大学院の講義と演習に関わり、現場をもつ大学院生との議論を通して本書の内容を練り上げてきた。それぞれの分野の第1線で活躍する本書の執筆者の論稿が読者に大きな刺激を与えることを願っている。
2010年11月
大西 隆
現代都市計画とそれ以前の都市計画は、時期的に重なりつつも、異なる価値観をもつ多数の市民の合意形成を基礎に成り立つ計画なのか、それとも権力者や単一の事業者等が自分の意思を貫いて都市を構成しようとする計画なのか、という点で截然と区別される。単一の事業者のなかには、現代の開発資本等も含まれようから、「自分の意思を貫いて都市を構成しようとする試み」は現代でも行われていることになるが、しかし、現代社会では、そうした開発が住宅市場等を通じて需要者たる市民に選択されてはじめて都市としての内実を得ることができるという面が特に強いので、多数の市民の支持や合意が計画の基礎にあるのは現代都市計画の特徴といってよいと思う。市民合意による都市計画という現代都市計画の特性を厳密に考えれば、それが始まったのは、我が国でも市民参加によるマスタープランづくり等が本格化したごく最近のことであり、未だに揺籃期にあるいってもよい。つまり、都市計画の世界でよく使われる近代都市計画の用語は、古代や封建時代、絶対王政期の都市計画と産業革命以降の近代の都市計画を区別するために用いられることが多いが、それは現代都市計画には至っていない時期の計画制度や内容をも指していることになる。
本書の主題のひとつは、日本における都市計画法の改正に向けた議論を高めることであるが、このような意味で、その最も重要な視点は揺籃期にある現代都市計画をじっくりと育てていくことにあるのは疑い得ない。つまり、都市に生きる人々、都市を利用する人々の期待に応え、好みを満たす都市計画は、どのような制度の下で最もよく作成でき、実現できるのかという問いに答えていくことが求められている。同時に、改正の時期が大都市も例外としない都市における大幅な人口減少に直面し、また都市のエネルギー利用を大幅に減少させつつ新たなエネルギー源を導入しようという転換期に当たるから、これらの時代の要請に十分に対応しながら、現代都市計画の飛躍的な拡充を図ることが都市計画制度の改正に求められていることはいうまでもない。本書が、現代都市計画はどうあるべきかという、優れて今日的課題に取り組んでいる多くの方々の役に立てば幸いである。
2011年1月 執筆者を代表して 大西 隆
東京大学には、若い世代を中心としつつも、還暦を超えた方まで、様々な年齢層が学んでいる。しかし、社会人だけを対象として、しかも、就業と両立できるカリキュラムを提供しているのは、東大まちづくり大学院(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士課程都市持続再生学コース)だけである。
まちづくりとは、都市の利用、開発や保全に際して、法制度に基づく都市計画、市民の発意と合意に根差した活動や、社会的要請に応えビジネスチャンスを生かした企業の種々の都市への関わり等を含んだ、人と都市の多様な関係を広く包み込んだ概念である。社会人を迎えるに当たって、私たちが、あえて教育・研究の領域を広く設定したのは、現代都市の機能や環境が、単に都市計画の制度によって形成されているのではなく、市民、市民組織や企業等、都市に関わる多くの主体が、個の領域を超えて、公の領域に働きかけたり、自ら社会のための活動を担う手段や力を持つことによって形成されていると考えたからに他ならない。
東大まちづくり大学院では、まちづくりをテーマに講義や演習を行うだけではなく、社会の一線で活躍している大学院生が、そこでの課題を教室に持ち込んで、議論や研究を進めるというスタイルをとっている。これに応えるために、大学の研究者だけではなく、社会のそれぞれの分野で活躍している講師が講義や演習を行うという方法も定着させてきた。
本シリーズは、東大まちづくり大学院での研究と教育の成果を、まちづくりのテーマごとにまとめることによって、広くまちづくりの実践に関わる方、大学や大学院でまちづくりを学んでいる方の参考にしようと試みたものである。折から、日本の都市は人口減少に向かい、都市化時代に作られた諸制度は大きな転換を求められている。それは量より質を重視するまちづくりへの転換ということができようが、具体的内容は多様である。本シリーズが直面する課題に応える道しるべとなれば刊行の目的は達せられる。
2010年1月
東大まちづくり大学院コース長 大西 隆