図説 わかるメンテナンス

宮川豊章 監修/森川英典 編/鶴田浩章 他 著

内容紹介

点検・調査・診断、補修・補強の基礎知識!

土木構造物の維持管理に関する知識を、豊富な図版・イラストで分かり易く説いた。構造物の老朽化が急速に進む今、点検・調査・診断の手法、補修・補強技術に関する知識はますます必要とされる。丈夫で長持ちする土木構造物をめざすベテラン執筆陣が、基本事項・最新事項をコンパクトにまとめた、大学生のための入門テキスト。

体 裁 B5変・128頁・定価 本体2600円+税
ISBN 978-4-7615-2497-5
発行日 2010/11/30
装 丁 KOTO DESIGN Inc.

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目次著者紹介はじめに正誤情報教員の声電子版

1章 メンテナンスの現状と課題

1  構造物の一生とメンテナンス
2  構造物の現状と課題
3  技術者の確保

2章 構造物の機能・性能とメンテナンスの基本

1  構造物の機能と性能
2  メンテナンスの基本

3章 構造物の劣化──症状としくみ

1  コンクリート構造物の劣化の症状としくみ
2  鋼構造物の劣化の症状としくみ

4章 構造物の点検の方法

1  点検の種類と方法
2  コンクリート構造物の点検の方法
3  鋼構造物の点検の方法
4  構造物のモニタリング

5章 劣化予測・評価の方法

1  コンクリート構造物の劣化予測
2  鋼構造物の劣化予測
3  構造物の性能評価、判定

6章 補修・補強の方法

1  補修とは、補強とは
2  コンクリート構造物の補修・補強
3  鋼構造物の補修・補強

7章 構造物のマネジメント

1  構造物のマネジメントとは
2  マネジメントの役割
3  メンテナンス・マネジメントの実例
4  将来への課題

監修

宮川豊章(みやがわ とよあき)

京都大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻教授

編者

森川英典(もりかわ ひでのり)

神戸大学大学院工学研究科市民工学専攻教授

執筆(執筆担当)

鶴田浩章(つるた ひろあき、1・3・7章)

関西大学環境都市工学部都市システム工学科准教授

大島義信(おおしま よしのぶ、2章)

京都大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻准教授

野阪克義(のざか かつよし、2・6章)

立命館大学総合理工学院理工学部都市システム工学科准教授

山本貴士(やまもと たかし、2・6章)

京都大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻准教授

大西弘志(おおにし ひろし、3章)

大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻助教

三方康弘(みかた やすひろ、4・5章)

大阪工業大学工学部都市デザイン工学科准教授

山口隆司(やまぐち たかし、4・5章)

大阪市立大学大学院工学研究科都市系専攻教授

東山浩士(ひがしやま ひろし、6章)

近畿大学理工学部社会環境工学科准教授

編集協力

河野広隆(かわの ひろたか)

京都大学経営管理研究部教授

井上晋(いのうえ すすむ)

大阪工業大学工学部都市デザイン工学科教授

坂野昌弘(さかの まさひろ)

関西大学環境都市工学部都市システム工学科教授

熊野知司(くまの ともじ)

摂南大学理工学部都市環境工学科教授

杉浦邦征(すぎうら くにとも)

京都大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻教授

尼﨑省二(あまさき しょうじ)

立命館大学理工学部都市システム工学科教授

鎌田敏郎(かまだ としろう)

大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻教授

服部篤史(はっとり あつし)

京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻准教授

構造物のメンテナンスは、構造物を長持ちさせて使いこなすために必要不可欠な行為です。わが国においては、高度経済成長期を全盛期として集中的に社会基盤施設を整備してきました。これらの施設・構造物を良好な状態で維持するために、構造物のメンテナンスは重要な課題になっているのです。わが国のみならず諸外国においてもメンテナンス分野の基準(ルール)の整備、学術分野の形成と体系化、技術者教育制度の整備など急速な展開がなされています。まさにメンテナンス分野は世界的な成長分野であるといえます。

わが国の土木学会コンクリート工学分野においては、このようなメンテナンスに対応する日本語として「維持管理」という用語をこれまで使用してきました。しかしながら、この「維持管理」は、本来、「メンテナンス」に加えて、予算検討やメンテナンスを最適かつ効率的に実行する行為を表す「マネジメント」を含むべき用語であります。今後、「維持管理」は、そのような用語の使い方に変わっていくものと思われます。本書では、混乱を避けるために、基本的に「メンテナンス」「マネジメント」という用語を使用することとし、必要な場合にのみ「維持管理」という用語を使用します。また本書では、メンテナンスを主体的に取扱い、マネジメントについては概要のみを紹介するという内容で構成しています。

さて、メンテナンス工学は、基礎土木工学から応用土木工学分野を包含する広範囲かつ高難易度の工学領域であるといえ、これまでにまとめられた専門書の多くも難易度・専門性が高く、詳細な講義はもっぱら大学院レベルで行われることが多かったともいえます。しかしながら、社会的なニーズから広く大学などの学部学生に対しても、基礎的かつ詳細なメンテナンス工学教育を行うことが必要とされ、従来の材料学、コンクリート工学、鋼構造工学、橋梁工学などの科目のなかでメンテナンスの内容について触れられたり、最近は、メンテナンス単独の科目を設定する大学も増えてきています。このような状況のもと、メンテナンスに関する基礎教育用のテキストを必要とすることが多いにもかかわらず、基礎的なテキストがほとんど存在しない現状であります。

そこで、本書は、大学などの学部学生を主な対象とした構造物のメンテナンスに関する講義に対応したテキストとして使用できるよう、メンテナンスの基礎と応用について、図表を多用しながら、わかりやすく、体系的にまとめたものであります。また、本書では、全構造物の領域について網羅的にまとめるのではなく、比較的メンテナンス技術が進んでいる鋼およびコンクリート構造物を対象として取り上げ、メンテナンスの概念から基礎、応用に至るまで体系的な流れに沿って理解ができるようにまとめています。各章の流れは次のとおりで、各章のなかで鋼構造物とコンクリート構造物を対比しながら理解を進めていけるように配慮しています。

1章 メンテナンスの現状と課題
2章 構造物の機能・性能とメンテナンスの基本
3章 構造物の劣化──症状としくみ
4章 構造物の点検の方法
5章 劣化予測・評価の方法
6章 補修・補強の方法
7章 構造物のマネジメント

また、最新の知見についても、コラムで紹介する形で学ぶことができるようにしています。本書の内容は、15回の講義の内、12~13回でカバーできるものとしており、この他に講義ご担当の先生方独自の身近なケーススタディの事例と併せていただくとより効果的な講義が構成できると考えています。

本書で使用している用語については、いわゆるメンテナンス工学分野における専門用語(学会などで規定されている用語や慣用的に使用されている用語)を多用するのではなく、敢えて一般用語も含む形でわかりやすく表現し、メンテナンスの考え方や方法論を理解させることに主眼を置いています。したがって、詳細な専門用語の習得については、他書に譲るものとします。また、鋼とコンクリート構造物の分野でメンテナンスの手法が異なる部分も多いため、それぞれの特徴に対応したまとめ方をしています。さらに、鋼とコンクリート構造物の分野で、慣用的に用語の使い方やニュアンスが異なる場合がありますが、これらは敢えて統一せずに、それぞれの分野で異なるものとして使用しています。これらの違いについても対比しながら理解できるようにしており、これら二大領域でのメンテナンスについてまとめて理解・習得することはひじょうに重要であると考えています。

このような考え方のもと、鋼構造工学分野とコンクリート工学分野での研究の最前線におられる関西圏の大学の先生方に執筆およびサポートをお願いし、ここにまとめることができました。このことはメンテナンス教育の領域にとって大きな成果であるといえます。メンテナンス工学分野における応用領域は日々進歩しています。本書をメンテナンスの基礎テキストとして今後さらに成長させていくことも重要であると考えています。さらには本書で学んだ読者のみなさんが、将来、メンテナンス工学分野を大きく発展させていただくことを切に望んでいます。

本書のイラストを担当して頂いた野村彰氏には、読者の視点に立ったイラストを創造していただき、また学芸出版社の井口夏実氏には編集にあたり、献身的な努力のみならず、読者の視点に立った多くの指摘をいただき、学ぶ意欲に訴える柔らかいイメージを本書にもたせることができました。ここに厚くお礼申し上げます。

2010年11月

監修 宮川豊章(京都大学)

編者 森川英典(神戸大学)

本書におきまして、下記の誤りがございました。お詫びいたしますとともに、訂正させていただきます。ご迷惑をおかけしますが、ご確認くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。

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『図説 わかるメンテナンス』を実際に授業でお使いいただいている先生に、学生さんの反応、授業での活用方法、構造物の維持管理に関する授業について、伺いました。


 

東洋大学理工学部都市環境デザイン学科教授 福手勤先生のお話
(2011.11.25 東洋大学研究室にて)


Q:「構造物補修工学」という授業はまだ広まり始めたばかりのようですね。
比較的新しい分野です。私は8年前、この科目が設置される時に、こちらの大学へ着任したのですが、構造物の維持管理を教えられる先生が他に居られなかったためでした。
当初は私もいろいろと試行錯誤しましたよ。最初は「構造物耐久性診断」と「構造物補修工学」という授業をそれぞれ15コマずつもっていたのですが、3年前に二つあわせて合計15コマ、今の「構造物補修工学」に落ち着いています。

Q:受講される学生さんの反応はいかがですか?
3年生対象の選択授業ですが、学科生100人中、70人が受講していて、差はもちろんありますが、みんな結構、興味を持って聴いてくれますよ。これからは社会基盤施設をつくるばかりでなく、維持・補修していかなければならない時代がやってくる、ということを理解しているのでしょう。

Q:教科書の内容はいかがでしょう。
1年前に送っていただいたときに、イラストや写真が多くてわかりやすそうだなと思い、使ってみることにしました。学生に理解しやすく、このくらいの内容が親しみやすくてちょうど良いと思います。文章が多くて分厚い本は、充実してはいるのですが学生にはどうしても難しかったので。
ただ、授業では学生の方を向いて話をしたいので、テキストを読み上げながら説明するわけには行きません。自分でPPTを作成して学生に見せながら説明します。図版部分をPPTで参照しながら使っています。だから学生は、後で見直したり確認する時にこのテキストを使っているはずです。
それから、例題があるのが大事ですね。イラストは多くて親しみやすいのですが、もっと例題があっても良いかもしれません。

Q:構造物の種類ごと(橋梁、道路、etc)、または構造の種類ごと(S、RC)の解説にするか迷いました。結局、構造ごとの解説にしています。
スチール(S)とコンクリート(RC)に分けられていたほうが、学生には分かりやすいと思います。構造物ごとになると、例えば港湾や鉄道はそれぞれその管理者が違い、管理者ごとに維持・補修の考え方が違っていたりしますから、話が複雑で学生はついてこれないんじゃないかな。私の場合は構造の種類ごとに劣化の現象を説明しておいて、その後でさまざまな構造物の劣化事例を見せるようにしています。

Q:構造物を長持ちさせるコツは何ですか? 素人の私から見ると、ずっと昔のコンクリート構造物が今も美しく残っていて、数十年前の建物がひどく劣化しているのはなぜかな?と思ってしまうのですが…。
大量に早急に作らなければならなかった時代がありましたからね。やはり、いい素材を使って丁寧に施工することが基本です。今はかなり状況は改善され、厳しいルールにしたがってつくられています。
テキストもがんばってください。売れ行きはいかがですか?

正直、もう少し授業が広まっているかな? と期待したのですが、ちょっと先取りしすぎたでしょうか(笑)。さすがに必修の材料学(「図説 わかる材料」)ほどではありませんでしたが…もうひとふんばり、がんばります。ありがとうございました。

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