電柱のないまちづくり


NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク 編著

内容紹介

実現プロセスと効果および最新技術とコスト

日本のまちの無電柱化が進まない。かつてはコストや技術に課題もあったが、実際以上に困難視されている。そこで、電線地中化の専門家集団である編著者が、いかにコストを削減したか、いかに合意形成を図ったかを商店街、郊外住宅地、伝建地区等の最新事例を通してやさしく解説。地元団体、自治体、設計・施工関係者必携の書。

体 裁 A5・192.0頁・定価 本体2200円+税
ISBN 978-4-7615-2487-6
発行日 2010-06-30
装 丁 KOTO DESIGN Inc.


目次著者紹介はじめにおわりに関連情報

出版に寄せて

通勤通学路、商店街の無電柱化を

松原隆一郎

住宅地の無電柱化は業界の責務

樋口武男

はじめに

井上利一

序 章電柱・電線のある街、ない街

長谷川弘直

0.1クモの巣状の電線におおわれた街
0.2電柱・電線のない都市風景
0.3歴史的、伝統的まちなみをおおう電線
0.4地域風景をおおう電線
0.5電柱のない住まいと家並み
0.6電柱のない安全なまちへ

第1章 世界と日本──電線類地中化事業の違い

高田 昇

1.1電線類地中化の歴史  26
1.2日本における電線類地中化の経過  29
1.3欧米先進国に日本は近づけるのか  34
colum①~④ 日本の電柱はなぜなくならないか?

井上利一

第2章 無電柱化まちづくりの実際──主体・プロセス・仕組み

01コモンシティ星田(大阪府交野市・ニュータウン)

自治体とディベロッパーの熱意が電力会社を動かし実現

鈴木映男

1.1開発事業者等の関西電力㈱ に対する交渉過程
1.2電線類地中化の決定と工事の実際
1.3電線類地中化の課題と住民の評価等

02六麓荘(兵庫県芦屋市・住宅地)

80年間、住民が守り育てた日本初の無電柱化のまち

山本 勇

2.1六麓荘の概要
2.2景観形成と電線類地中化の取り組み
2.3電線類地中化の成果
2.4六麓荘から学ぶこと

03今井町(奈良県橿原市・歴史的市街地)

住民との協働で歴史を活かした住環境整備のなかでの無電柱化

NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク

3.1今井町重要伝統的建造物群保存地区の概要
3.2各種国費事業の取り組み
3.3電線類地中化の経緯
3.4主に自治体管路方式を採用
3.5電線類地中化の問題点および今後の取り組み

04あまがさき緑遊新都心(兵庫県尼崎市・駅前再開発)

都市の再開発における土地区画整理事業・市街地再開発事業による電線類地中化

長谷川弘直・竹本俊平

4.1あまがさき緑遊新都心と市街地再開発・アミング潮江
4.2無電柱化推進に向けたまちづくり
4.3市街地再開発事業・アミング潮江

05トアロード(兵庫県神戸市・ハイカラ商店街)

地元主導の復興のなかで通常の街路事業で実現、景観まちづくりへ

進藤千尋

5.1神戸・トアロード地区の概要
5.2まちづくりへの取り組み
5.3電線類地中化の動機と経過
5.4景観形成の取り組み
5.5電線類地中化とまちづくりの相乗効果

06花見小路(京都府京都市・歴史的界隈)

地元と行政の取り組みに専門家NPOが橋渡し役を務めて実現

隠塚 功

6.1祇園町南側地区について
6.2まちなみ景観の保全・整備への取り組み
6.3花見小路を中心とした道路の石畳と無電柱化
6.4町式目の制定

07枚方宿(大阪府枚方市・昔からの商店街)

住民によるにぎわいづくりのなかで裏配線への試行錯誤が続く

加藤寛之

7.1枚方宿地区の概要
7.2地域におけるまちなみづくりへの取り組み
7.3無電柱化への動き

08川越一番街(埼玉県川越市・歴史的商店街)

住民の熱意と行動が市を動かして、美しい無電柱の蔵造りの家並みが復活した

NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク

8.1川越一番街の概要
8.2景観形成とまちづくりの取り組み
8.3電線類地中化の実際

09内宮おはらい町(三重県伊勢市・門前町)

住民・企業・行政によるまちなみ保全事業のなか、市主導で実現

木村宗光・森建一

9.1内宮おはらい町の概要
9.2保全地区の指定と魅力アップの取り組み
9.3電線類地中化の成果と課題

第3章無電柱化の方法

1 技術面から見た無電柱化

村上尚徳

1.1地上機器と電線類地中化を組合せた方式
1.2柱状型機器付き景観調和型街路灯と電線類地中化を組合せた方式
1.3軒下配線と裏配線
1.4施工技術

2 新規戸建て住宅地での無電柱化

井上利一

2.1事業者負担による無電柱化・電線類地中化の問題点
2.2ケーブル負担金
2.3電線類地中化の設計
2.4地上用変圧器(地上機器)の設置場所
2.5宅地分割への懸念

3 無電柱化に弾みをつけるために

井上利一

3.1コストの飛躍的改善
3.2事前協議による合意形成

第4章 実現に向けたアクションプラン

NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク

1 意識づくりの方法論編

1.1顕彰制度をつくる─「電線のない美しいまちなみコンテスト」
1.2電線類地中化シミュレーション(画像処理)
1.3コスト情報開示─誤ったコスト情報にふりまわされるな
1.4景観のマニフェスト・アドバイス制度─首長との連携

2 税制・法制度への提言編

2.1電線類地中化に対する補助制度の充実
2.2補助制度の一元化
2.3管理行政への支援制度
2.4横のつながりが意識づくりの一歩
2.5電線類地中化基本法の策定

3 技術を高める編

3.1技術開発の推進
3.2技術者の養成
3.3材料開発

資料

・電線類地中化に関する法律・制度
・参考資料:国土交通省道路局「無電柱化推進計画」(2004年)

索引

おわりに

高田 昇

〈編著者〉

NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク

2007年4月発足。理事長高田昇。日本の街を電柱や電線のない、安全安心で、美しい景観の街にするために、まちづくりを行うすべての機関を支援していく専門家集団。
活動内容は、電線類地中化を検討するディベロッパーや行政などへのコンサルティングやコスト削減提案、地中化された街の見学会、「実践!美しい街づくりセミナー」やシンポジウムなどを各地で開催。これらの活動を通して市民への啓発活動を行っている。

〈執筆者〉

井上利一 (いのうえ・としかず、㈱ジオリゾーム代表取締役)
高田 昇 (たかだ・すすむ、立命館大学政策科学部教授、COM計画研究所代表)
長谷川弘直(はせがわ・ひろなお、㈱都市環境ランドスケープ代表取締役)
鈴木映男 (すずき・てるお、元大阪府職員)
山本 勇 (やまもと・いさむ、㈱アースクリエイト理事)
竹本俊平 (たけもと・しゅんぺい、再開発プランナー)
進藤千尋 (しんどう・ちひろ、㈱COM計画研究所主任研究員)
隠塚 功 (おんづか・いさお、京都市会議員、NPO法人アートテックまちなみ協議会特別顧問)
加藤寛之 (かとう・ひろゆき、㈱サルトコラボレイティヴ代表)
木村宗光 (きむら・むねみつ、NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク副理事長)
森 建一 (もり・けんいち、大和ハウス工業㈱技術本部設備部次長)
村上尚徳  (むらかみ・しょうとく、㈱ジオリゾームチーフ)

NPO法人電線のない街づくり支援ネットワークが立ち上がって3年になる。その間、日本の電線類地中化を推進させるためにセミナーや勉強会の開催など、様々な活動を行ってきた。しかし、日本の電線電柱は減るどころか、増えているようである。これは、国民が電線電柱が増えていることに気づいていないからなのかもしれない。一部の先進的な人たちは、まちのデザインや企画の段階で、電線類地中化を試みるが、そのハードルは高い。そのための、指南書も存在しない。

ときおり、私たちのNPOに行政担当者や設計事務所、コンサルタントの方から、電線類地中化についての問い合わせがある。この方たちは、一様に「何をどうしたらいいのかわからない」状態である。これでは、日本の電線類地中化が進むべくもない。そこで、電線類地中化に関する専門家集団を自任する私たちが、こういった方々に、電線類地中化は実現可能であることを、具体的な事例と最低限の技術的な知識を交えてわかりやすく解説しようと、思い立ったのが本書の始まりである。

本書は、行政のまちづくり担当者や観光に関わる方、建設コンサルタント、街路デザイン関係者、設計者、まちづくり団体のコアメンバー、学識者、研究者、建設会社、不動産会社、施工会社、などの方々に是非読んでいただきたいと思う。

電線類地中化は様々なステークホルダーが存在することで、その実現を難しくしている。しかし、その利害関係以上に効果は絶大なものがあり、電線類地中化されたまちの当事者の満足度は非常に高い。

例えば、苦労して電線類地中化を実現させることで、商店や住民の景観に対する意識が向上し、まちなみや景観が乱れるのを防ぐために重要伝統的建造物群保存地区に申請し、指定されたり、独自の「町づくり規範」をつくって、まちなみ保存をしている川越市一番街商店街はその好例だ。その様子は、他の事例とあわせて、2章で詳しく紹介する。

また、電線類地中化のメリットとして、経済効果があげられる。大型公共投資が少なくなった昨今では、電線類地中化は街も人も元気になる、有効な公共事業といえよう。また、コストも思われているほど高くはない。ちまたに流布している数字は高規格の、それも10年前のもので、方法によっては、随分安くなっている。民間の住宅地開発ではここ数年で、確実に電線類地中化するまちが増えてきている。分譲戸建住宅の着工件数は2004年をピークに減少を続け、2008年にはピーク時より約20%減となった。その一方で、電線類地中化が行われた分譲住宅の着工件数は増加しており、2008年には着工件数が2004年の約3.5倍になっている(船井総合研究所調べ)。

安全性の面では、電線類地中化は復旧に時間がかかるといったデメリットばかりが喧伝されているきらいがあるが、人命という観点では、地中埋設の方が断然安全だ。1995年1月に発生した阪神淡路大震災では、倒壊した電柱が道路をふさぎ、垂れ下がった電線が火災を発生させ、被害を拡大させた。地中埋設管は架空電線の1/80 の被災率というデータもある(NTT資料)。地震や台風などの自然災害に圧倒的に強く、街に本当の安心をもたらすのだ。

このように、まずは、電線類地中化の素晴らしさを知っていただきたい。できれば、本書に掲げたまちを訪れてほしい。そして、読者の感性で感じたことを、一人でも多くの人に伝えてほしい。

これを読まれた読者は、電線類地中化のフロンティアとして、ぜひ、日本の街から電線電柱をなくす意思表示をしてほしい。そして、その渦を日本中に広げてほしい。未来の子供たちに電線電柱のない安全・安心で美しいまちを残すために。

2010年5月

NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク理事兼事務局長 井上利一

電柱や電線のある風景に慣れてしまうと、それほど気にならなかったり、むしろ親しみを感じるという人も居る。でもよくよく観察し、考察もしていただきたい。西岸良平の漫画『三丁目の夕日』の時代の、木柱に2、3本の電線が架かっている頃の姿と今日のそれとでは全く容相を異にするものである。歩道にはみ出したコンクリートむき出しの大きな柱に、10数本の各種架線と設備機器類が露出し、そこからまたクモの巣のように四方八方に這っていく有様は、明らかに醜悪な境地である。これらを未来に引き継ぐ都市基盤と捉えて、安全で、耐久力と秩序あるものに改善していくことは、公共の責務であろう。放置することは、工場排水や生活排水を公共下水ではなく、そのまま川に流し続けることに等しい。

下水道整備技術においては、遅ればせながらもこの半世紀を経て日本は先端的な域に達し、今では途上国に多くの技術協力を提供するまでになっている。電線類地中化は、これまでの初歩的で実験的な域を脱し、本腰を入れる段階を迎えている。そのためには、下水道の歴史に見られるように、層の厚い技術、技術者、研究者の存在が不可欠であり、法制度の完備、そして住民の理解と協力が必要とされる。しかし、これからの日本の都市環境下で、電線類地中化に成果を挙げることができるなら、事情の似たアジアをはじめ世界の5分の4を占める国・地域のモデルとなり、技術発展・経済面のメリットもはかり知れないだろう。

幸い、最近になって京都市、奈良市、そして大阪府などの公共団体と、当NPO法人との交流が進み出した。そして行政の中にも、地中化への強い意欲と合わせて、深い悩みがあることも解ってきた。特に大阪府は、府下のまちなみ・まちづくりに熱心な自治体を応援する独自の画期的な支援制度を創設している。これは従来の国の補助制度の大半が、地元自治体の負担が1/2以上求められるために、実際には厳しい財政状況の中で、動きが取れないことを察して、その分を府が支出しようとするものである。
当然多くの地域が名乗りを挙げたものの、いざ実行となるところで、電力会社とも、地元住民ともコミュニケーションの方法が見つかりにくく、困った状況になり、私たちとの交流が始まったのである。そこで完全な答えが出た訳ではないが、無電柱化に弾みをつける有効な方法、そしてアクションプランにつながる多くのヒントを得ることができた。そして改めてこの事業に関して情報が余りにも未整理であることが判明した。

電線類地中化は、大きく取り残された課題である。しかし解決するのに、それほど困難や複雑な要素は見当たらない。明らかに、これまでのまちづくりの盲点であり空白部であった。そのことに気づくだけでも、大きく事態を変える力にはなるだろう。本書が、まずはそのような動機づけとなることを願うところである。

本書は、そのような状況認識と実行への試み、そして交流の中から生み出されたものである。先進的な意欲と取り組みを通じて、多くの情報を提供された地域、行政、企業の方との合作である。また全国的にも例のない出版企画を後押し、本書を世に送り出せたのは学芸出版社の前田裕資氏、越智和子さんのお力であることを記し、深くお礼を申し上げたい。

2010年5月

NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク理事長 高田 昇

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