川で実践する 福祉・医療・教育
内容紹介
様々な分野が連携し川を活かして地域づくり
川との関係を取り戻し、遊び、学び、生き返ろう。あらゆる教材が揃っている川、癒しと再生の力を与えてくれる川での活動が盛り上がっている。これからは、子ども、高齢者、障害者等、すべての市民と行政・河川技術者が連携する時代だ。川での医療・福祉・教育活動の考え方と実践例、それらを総合した川づくりを全国から報告。
体 裁 A5・192頁・定価 本体2000円+税
ISBN 978-4-7615-2350-3
発行日 2004/10/10
装 丁 尾崎 閑也
はじめに 石川治江(ケア・センターやわらぎ)
Ⅰ 川と医療
1・1 川で医療を実践する 小松寛治・小松かずゆ(本荘第一病院)
1 医療の歴史
2 近代医学の流れ
3 なぜ「川」なのか
4 どのような病気を対象にするか
5 活動はどのように行なうか
6 本荘第一病院での取り組み
7 多摩川癒しの会の活動
8 展望
1・2 川での医療効果を計測する 小松寛治・小松かずゆ
1 川での癒し効果計測の試み
2 癒しの効果計測の問題点
1・3 子吉川・癒しの川づくり 川村公一(国土交通省秋田河川国道事務所)
1 子吉川での河川利用の特徴
2 癒しの川づくりに至る経緯
3 本荘第一病院での活動
4 市民と行政、福祉と医療、教育が連携した川づくりの今後の展望
コラム インド・アーユルヴェーダの視点 《マイナル・ラーメッシュ教授講演要旨》
Ⅱ 川と福祉
2・1 川で福祉を実践する 石川治江
1 川原でバーベキューがしたい
2 「経験知」を「形式知」へ
3 一人一人の体験や経験を共有すること
2・2 車椅子がゴムボートで川を下った 大信田康統(リバー&ロードアクトin北上川実行委員会)
1 ホンモノの体験から生きる喜びを発見
2 リバー&ロード・アクトin北上川の開催趣旨
3 イベントを通じ知り得た連携と交流
4 障害者自らまちづくりのリーダーに
5 北上川は岩手人の息遣いの源
6 二回目からは「リバー&ロード・アクト」へ
7 障害をさらけ出して生きる
2・3 川と福祉の活動事例と今後の展望 吉川勝秀(リバーフロント整備センター、慶応義塾大学大学院)
1 「川と福祉」が普通のこととなる日
2 各地で進む先進的な活動事例
3 川の再生から都市の再生へ
2・4 川を活かした交通バリアフリー計画 荒関岩雄・寺内康夫(北海道恵庭市市街地整備室)
1 水と緑のやすらぎプラン
2 交通バリアフリー計画
3 まちづくりとしての交通バリアフリー
4 バリアフリー化と人間の回復
Ⅲ 川と教育
3・1 川で教育を実践する 大野重男(川に学ぶ体験活動協議会)
1 イベントからミニスクール(小中学校)へ
2 すぐれた人材に、活躍の場を
3 川に毎日やってこられる仕組みを
4 川にはあらゆる教材がある
3・2 子どもを川に連れて行く──川に学ぶ体験活動協議会の活動について
吉野英夫(河川環境管理財団)
1 川に学ぶ体験活動協議会とは
2 協議会設立の背景
3 協議会の活動
4 子どもの水辺サポートセンターとの連携
3・3 まちと川と子ども 小丸和恵(子どもと川とまちのフォーラム)
1 町なかの子どもと川の現状
2 フォーラムの活動について
3 世界を見つめて、足元への関心を
4 「それぞれの私の流域」シリーズ
3・4 四万十川の明日を夢見て 西内燦夫(四万十川流域住民ネットワーク)
1 四万十川の昔
2 ある逆転
3 四万十川を子どもに、四万十川に子どもを
4 水際探偵団
5 水中探偵団
6 四万十川と子どもとまちづくり
Ⅳ 総合的な視点から 環境・福祉・医療・教育・まちづくり
4・1 小貝川における福祉、教育の融合 塚本 昇(茨城県藤代町教育委員会)
1 ふじしろ・三次元プロジェクト
2 実践プログラム
3 イベントから常設へ
4 小貝川で遊ぶ、学ぶ、感動する
5 プロジェクト推進の課題
6 新たな役割を担う三次元プロジェクト
4・2 県境を越えた山国川での地域づくり 木ノ下勝矢(豊前の国建設倶楽部)
1 豊の国づくり塾夜なべ談義
2 山国川水上大綱引き合戦
3 県境を越えていた「川で遊ぶ掟」
4 再び県境を越える
5 山国川流域の連携と参加
6 エコ・リバー・ツーリズムと新しい運動スタイル
4・3 東海地域での川とグラウンドワーク 伊貝星治(グラウンドワーク東海)
1 NPO法人グラウンドワーク東海とは
2 英国に始まった地域づくり運動
3 さまざまな河川環境改善活動
4 福祉・医療・教育との今後の関わり
コラム
川と福祉、教育について考える 《京極高宣・平山健一学長対談要旨》
川での福祉・医療・教育の融合 吉川勝秀
資 料
第三回「川での福祉と教育の全国交流会」から 飯泉光一(小貝川プロジェクト21)
第四回「川での福祉と教育の全国本荘大会」から 川村公一・小松寛治
おわりに 吉川勝秀
著者略歴
地方自治体が策定する「地域福祉計画」で、町に流れる「川」を視野に入れた計画は、全国を見渡しても皆無と言っていいだろう。だから福祉と川の結びつきは奇異に感じられるかもしれない。しかし、それぞれの地域には素晴らしい川が流れ、緑と生き物が息づき、潤いある空間になっている。さらに、調査によれば、川へ行くのは高齢者が一番多いとの結果がある。日常的に、土手や川辺は高齢者の散歩道として定着しているのだろう。
川は昔から、雨や雪の影響を多く受け、私たちの生活を脅かしてきた。一方、水を活かさなければ生活そのものが立ちいかない事実もある。そのため、国は治水や利水といった施策を推進してきた。その結果、私たちの生活空間と川は遠く離れてしまった。
しかし昨今、川を軸に、地域を見直し私たちの暮らしを見直そうとする動きが活発になってきた。その背景には、子どもたちを取り巻く状況の厳しさや、少子高齢化などの問題が、多くの人の意識を地域に向けさせてきたことが挙げられよう。
たとえば、雪の深い地域や平地のない山地など、さまざまな地域性があり、また長い間、多様な生活をしてきた高齢者の問題は、その分野だけでは現状を改善することも、問題解決もできない。近所づき合いや、子育ての悩みなど、日常的な問題が山積みしている。
このような今日的課題を解決するためには、子どもの問題だからと子どもの分野だけで解決をしようとしても限界がある。それは高齢者の分野でも同様だ。
しからば、だれがどこでどのように関わり、解決に向けていくのかが、私たちのこれからにかかっている。重い課題だが、嘆いて愚痴を言っていても前には進まない。なんとかしなければいけないのなら、楽しく参加して何かをやる。やるなかから気づき、強い心が芽を吹く。芽は生活の中から、地域の中から芽生えてくるのが一番いい。そして、多くの問題や課題は地域で解決することが望ましく、解決の早道になる。その実践の場として川が見直されているのだ。
1998年から開催している「川での福祉と教育の全国交流会」は、それぞれの分野の垣根を取っ払って、自由自在に議論してきた。これまでのことに囚われず、勇敢に果敢に取り組んでいる実践活動を紹介し、記録として残し、これから何かを始めようとする方々へ勇気を伝え、次へつなげていこうとする取り組みである。
本書はそんな活動の中から生まれた。川や教育や福祉や医療のさまざまな分野で活発に活動している方々をナビゲーターとして、読者の皆様を川辺へご案内する。ポニーの背に揺られながら、ゆうゆうと流れる川の風景を友とし、水気を含んださわやかで素晴らしい川風を体感していただきたい。
多くの皆様の関心と参加を切に願い、また、本書の発行にご協力いただきました執筆者、編集者、出版社の方々に深謝いたします。
2004年8月10日
NPO法人ケア・センターやわらぎ 石川治江
川と福祉・医療、川と教育への取り組みが市民団体を中心に進められるようになってすでに約十年が経過した。その活動の中心となってきた実践者により報告を行なったものが本書である。
川と福祉に関しては、当時の建設省河川局と厚生省のメンバーが中心となり、全国の先進的な活動をする人びとの参加を得て「川と福祉の懇談会」を開催し、検討を進めた。その後、懇談会のメンバーを中心に、現場での地道な活動を展開し、川と福祉に配慮した川に関わる各種の基準の改正も行なわれた。
そして、1999年からは市民団体による川と教育に関わる活動とも連携し、全国の関係者の交流会、全国大会を毎年開催し、情報交換等を進めてきた。最近では、懇談会のメンバーでもある本荘第一病院長の小松寛治先生の取り組みから、川と医療に関しての活動も大きく前進した。川と医療についてのまとまった報告がなされていることが、本書の大きな特徴の一つとなっている。
一方、行政においても、2002年の学校完全週休二日制への移行、総合学習の実施を前に地域のみんなで子どもを育て、親子でいろいろな体験をできることを目指し全国子どもプランが文部省(当時)により策定された。その一環としても位置づけられた建設省河川局、文部省、環境省の省庁連携による「子どもの水辺再発見プロジェクト」も1999年に始まった。
その後、この面での活動は大きく前進し、本書でも報告されているように、行政(国土交通省、文部科学省、環境省)も支援する形での子どもの水辺サポートセンターや川に学ぶ体験活動協議会の活動に発展し、全国で市民主導の活動が行なわれるようになった。
その活動のリード役は、本書の筆者であり「川と子どもの大野プロジェクト」のリーダーである大野重男さん(川に学ぶ体験活動協議会代表理事)や荒関岩雄さん等の市民団体の方々である。
川と福祉・医療、川と教育の活動は、最終的には、地域づくり、地域の社会システムづくりの一環をなすものである。川を生かした地域づくりの観点から、川と福祉、医療、教育の活動に先進的に取り組む市民団体も除々に増えてきている。小貝川、吉野川下流の新町川、北上川展勝地、グラウンドワーク東海の取り組みなどである。
本書では、これらの活動をリードしてきた実践者により、川と福祉、医療、教育が複合的に連携した取り組みを報告させていただいた。これから市民主導等で川での福祉、医療、教育に取り組む人びとに、骨太で粗削りな面もあると思われるが、実践の書として参考にしていただければと考えている。前著の『水辺の元気づくり―川で福祉・教育活動を実践する―』(理工図書)も併せて参考にしていただけると幸いである。
また、本書の執筆者の多くは現場での実践とともに、全国での講演等にも堪能な人が多く、その面でもコンタクトいただくとよい。
この出版は、毎年の全国交流会、全国大会とも連動した活動の一環として、川での福祉・医療と教育研究会が企画・執筆し、学芸出版社の理解を得て行なったものである。学芸出版社には深く感謝の意を表したい。
2004年8月10日
川での福祉・医療と教育研究会幹事 吉川勝秀