自治体まちづくり


原 昭夫 著

内容紹介

市民・企業・行政をつなぐ自治体マンの役割

市民や企業、そして自治体の各部署をつなぎ、まちをつくる。地方分権と行財政の逼迫の中で、自治体まちづくりマンに求められるのは、知識と人脈を駆使した自治体独自のまちづくりのあり方、手法の開発だ。そのための知識・意欲・態度を経験に基づき解説。世田谷区のまちづくりを主導してきた第一人者によるユニークな入門書。

体 裁 A5変・272頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2309-1
発行日 2003-02-25
装 丁 尾崎 閑也


目次著者紹介まえがき書評

1章 まちを知ろう

1節 自治体まちづくりとは
1 はじめにちょっと自己紹介
2 自治体まちづくりとは

2節 地域を「要素」から見る
1 まちの五要素
2 要素の組み合わせから

3節 フィールドワーク・・現地主義のすすめ
1 地図を好きになる
2 自転車で巡る

2章 まちをつくる

1節 自治体まちづくりの課題

2節 まちをつくる手法
1 まちの全体計画をつくる
2 道路でまちの骨格をつくる
3 細街路を体系化する
4 面的な整備をはかる
5 拠点をつくる
6 公共施設をしっかりつくる
7 土地利用や建物の規制・誘導をする
8 他の主体に働きかける
9 都市をデザインする
10 風景をつくる、風景を生かす
11 いまあるものを取り込む・生かす
12 まちの更新の仕組みをつくる
13 他の主体・団体との連携・相互支援の仕組みをつくる
14 総合調整する

3節 自治体まちづくりの事例
1 公共施設をつくる
2 「やさしいまち」をつくる・・世田谷区梅丘での「ふれあいのあるまちづくり」
3 防災まちづくりを進める・・「修復型・積み上げ型まちづくり」
4 都市をデザインする・・小より始め、繋ぎ、拡げていく

3章 「まちをつくる力」をつくる

1節 参加・協働の時代へ

2節 市民参加・市民主導のまちづくりは可能だろうか
1 まちづくりにおける「参加」の意味
2 参加型まちづくりのいくつかの手法

3節 まちづくりの仕組みをつくる
1 まちづくり推進の組織
2 組織連携の体制

4節 まちづくり学習との連携
1 地域の小中学校との共同
2 地域の工業高校や大学との連携

5節 参加型まちづくりに向けて

4章 「まちをつくる人」になる

1節 「まちをつくる人」とは
1 「人づくり」より「人になる」
2 まちづくりを巡る様々な主体

2節 まちづくりプランナー
1 地域プランナーという仕事
2 他の専門領域とプランナー
3 地域プランナー
4 自治体プランナー
5 プランナーの資質と宿命

3節 まちづくりへのかかわり方
1 市民
2 NPO、ボランティア
3 事業者、企業、まちづくり会社

5章 まちづくりをみんなの手で!

1 持続型・循環型・総合型まちづくりへ
2 「自治体まちづくり」を進めよう
3 まちづくりをみんなの手で!

原 昭夫(はら あきお)

地域プランナー。技術士(都市および地方計画)。一級建築士。
1942年東京生まれ。東京都庁、名護市役所(沖縄県)、世田谷区役所(東京都)で都市計画、建築、都市デザイン、住宅、まちづくり等に従事。現在千葉大学(工学部・都市環境システム学科)客員教授。自治体まちづくり研究所主宰。
著書(共著)として『都市デザインと空間演出』(学陽書房)、『あなたのまちをデザインする61の方法』(日本コンサルタントグループ)、『風景デザイン』(学芸出版社)、『都市計画の地方分権』(学芸出版社)など。
e-mail:harakio@hotmail.com

「自治体まちづくり」と言っても、はじめて聞く方のほうが多いかも知れません。「まちづくり」という言葉が、それまでの「都市計画」や「都市開発」といった言葉に代わって、1970年代ぐらいから使われ始め、いまようやく、私たちの身の周りの環境を保全・革新・創出していくことを考え、実践していく言葉として、ひんぱんに使われるようになってきました。

ただ、この「まちづくり」という言葉をいま一度考えてみるために、中学校で習った英文法に立ち戻ってみると、「まち」という目的語(O)と、「つくる」という動詞(V)はあるものの、だれが「つくる」という行動や実践をしていくのか、その主語(S)が示されていません。

一体だれが「まち」を「つくる」のでしょうか? 一体だれが「まちづくり」の主語になるのでしょうか? それは「あなた」です。あなた、そして私たちです。いまこの地表の一画にある都市や集落に住み、毎日そこを拠点として暮らしを立て、日々の生活を少しでも潤いのあるものとしていきたい、共に住んでいる人々と仲良くしていきたいと考えている住み手の方々、私たちこそが「まちづくり」の主語になっていくことが大切なのです。

都市に住む私たちが、身の周りの環境や都市に、もっと主体的にそして積極的に働きかけて、それをより住み良いものに変えていく、あるいはそれを新たに創り出していくことが、人間と都市の関係をより豊かなものにしていくのでしょう。

私たちも、この「まちづくり」という大変手間と時間のかかる作業の主体・主語と成るために、今までのようにただ反対したり、要求したりという段階を越えて、共に力を合わせていく、汗を流していく、提案・実践をしていくという役割と責任を果たしていくことが求められています。

さらに自らの住む地区や周辺の地域のことだけではなく、また国内の問題だけではなく、時には広く地球環境や宇宙にも目や心を向けて、そのありようを考え、そこから今の私たちの都市のことを考え直してみるということも大切です。この地球には人間以外にも他の多くの動植物が住んでいるのですから、そうした地球の生命体とどう住み合うかということも、もっと真剣に考えないといけない時期がやってきています。

このように、今までよりはるかに大きな、そして多様なテーマも考えながら、都市の課題に取り組んでいかねばならない時代に私たちは立っています。そうした時代の「まちづくり」に向けて、私たち住み手・市民はもとより、地域に関わる多くの事業者や行政(国・都道府県・市区町村)が、共に役割と責任を認識しながら、力を合わせていくことが強く求められています。

ここでは、そうした「まちづくり」を進めていく各主体を、市区町村という基礎自治体・地域自治体(=以下「自治体」と言う)が束ねたり協働しながら、そこを生活単位・拠点とする私たちがどのようなことができるのか、何をしていったら良いのかなどを、私がこれまで働いてきた自治体の事例や経験、そして苦悩や喜びも踏まえて、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

この本は、まちづくりについての技術解説書やマニュアルなどではなく、ましてや学術的な本ではありません。自治体に住み、あるいは働き、さらには自治体においてまちづくりを実践したり、それに関心を持っている方々に読んでいただきたいと願って書きました。皆さんの地域でのまちづくりに、何か一つでも役立ちそうなことを引き出して、そこでのまちづくりにつなげていただければ幸いです。

2003年1月  原 昭夫

『地方自治職員研修』(公職研) 2003.5

まちづくりが「まち」をつくるものだとしても、では「誰が」つくるのか。本書はまちづくりの主体、「あなた」そして「私たち」のために書かれたテキストであり、市民、担当自治体職員、まちづくりプランナー、企業マンとして、まちづくりをいかに捉え、いかに取り組んでいくかを明らかにしていく。様々な視点からまちを見て、知って、どういうまちをどのようにつくっていくのか。「まちをつくる力」をつくる、まちをつくる人になるための充実した一冊。

『全国農業新聞』(全国農業会議所) 2003.5.30

著者は複数の自治体で職員としてまちづくりに携わってきた専門家である。その経験を生かして、市区町村という地域自治体が「まちづくり」の主体をどのように束ね協働し、またそこに住む人々(私たち)が何をしていったらよいのかをまとめた。

「自治体まちづくりの課題」の項で著者は「土地の利用を公的に進めることが難しかった」ことを指摘。まちづくりの関連法規がほかの税制、法制と十分に連携・連動せず、「私有財産としての土地の利用はまったく自由」という気風の横行が、向こう三軒両隣で地域環境を大切に守っていこうという意欲や、コミュニティーの暗黙の了解、連帯感を断ち切ったとする。

「まち」は誰がつくるのか? まちづくりは人づくりとよく言われるが、「『人づくり』より『人になる』こと」。「まちづくりを行う人になってしまおう!」と呼び掛ける。