作家たちのモダニズム


黒田智子 編

内容紹介

作家の生き方・理念・作品で読む近代建築史

歴史の体系的な知識を与えるだけでは生きたモダニズムは理解できない。読者の創造意欲を喚起するため、様式別ではなく、作家別に構成した、従来にはない近代建築史の解説書。建築からインテリア・家具までを手掛けた欧米の主要建築家14人を取り上げ、頁半分を図版400点に割くなど、ビジュアル面での親しみやすさも追求した。

体 裁 B5変・136頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2307-7
発行日 2003-02-10
装 丁 上野 かおる

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目次著者紹介まえがき読者レビュー

序章 [黒田智子]

二つの革命と社会構造の変化
産業革命がもたらしたもの
建築デザインの流れと作家たちの活動
世紀転換期にイギリスから始まる建築デザインの流れ
戦間期のドイツをめぐる建築デザインの流れ
国際性への流れの高まり

1 ウィリアム・モリス [小林正子]

19世紀英国とアーツ・アンド・クラフツ運動の兆し
ウィリアム・モリスの生涯
ものづくりの原点
理想社会の実現に向けて

2 アントニオ・ガウディ [黒田智子]

バルセロナの発展とモデルニスモ
アントニオ・ガウディの生涯
合理性と装飾性の統一と自然の幾何学
サグラダ・ファミリア贖罪聖堂
有機的空間への実践

3 フランク・ロイド・ライト [黒田智子]

世紀転換期のアメリカの都市と郊外
フランク・ロイド・ライトの生涯
異文化の幾何学から独自の有機的建築へ
落水荘:カントリーハウスの到達点
独創性と普遍性の併存する建築
生活を包み流動する内部空間

4 チャールズ・レニー・マッキントッシュ [木村博昭]

世紀末のグラスゴー
チャールズ・レニー・マッキントッシュの生涯
作風の変遷とその背景
モダニズムの先駆的建築
建築と一体化したインテリアと家具

5 ヨゼフ・ホフマン [谷本尚子]

ウィーン分離派とその時代
ヨゼフ・ホフマンの生涯
ウィーンの新様式を目指して
重力と軸対称からの解放
変化し続ける表現形式
目を楽しませるインテリア・デザイン

6 アイリーン・グレイ [川上比奈子]

フランスの女性デザイナーと東西の装飾芸術
アイリーン・グレイの生涯
屏風・家具・建築に通底するデザイン手法
人の動きに連動する家E.1027
可動の家具・インテリア・住宅から公共建築へ

7 ブルーノ・タウト [本田昌昭]

ドイツ表現主義とその時代
ブルーノ・タウトの生涯
ユートピアを求めて
グラスハウス
様式を超えて

8 ミース・ファン・デル・ローエ [田所辰之助]

ドイツにおけるテクノロジーの受容
ミース・ファン・デル・ローエの生涯
建築からバウクンストへ
素材と空間の共鳴

9 ル・コルビュジエ [廻はるよ]

世紀転換期のフランス
ル・コルビュジエの生涯
建築の秩序と感動を目指して
ラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸とサヴォア邸
身体から都市まですべての連関へ

10 ヘリット・トーマス・リートフェルト [奥 佳弥]

デ・ステイルとその周辺
ヘリット・トーマス・リートフェルトの生涯
家具から建築へ
デ・ステイル以後のリートフェルト

11 エル・リシツキー [矢代眞己]

ロシア革命と構成主義
エル・リシツキーの生涯
生成変化する環境へのまなざし
エル・リシツキーの作品

12 アルヴァ・アールト [川島洋一]

フィンランドの成立とナショナル・ロマンティシズム
アルヴァ・アールトの生涯
モダニズム精神の理解と自由な表現
人間をテーマに据えて:パイミオのサナトリウム
素材の表情と絶妙なスケール感を生かした建築
建築的実践としてのインテリアと家具

13 マルセル・ブロイヤー [梅宮弘光]

バウハウスの開校とその前夜
マルセル・ブロイヤーの生涯
機能分析と規格化
アームチェア「ヴァシリー」:機能と美の統合
住宅:モダン・スタイルの継承と展開

14 ジュゼッペ・テッラーニ [南 智子]

未来派とイタリア合理主義
ジュゼッペ・テッラーニの生涯
イタリアの伝統とモダニズムの融合
透明性の実験:カサ・デル・ファッショ
形態の持つ機能の探求

黒田智子

武庫川女子大学短期大学部生活造形学科助教授。 1958年兵庫県生まれ。京都工芸繊維大学工芸学部住環境学科卒業、神戸大学大学院自然科学研究科博士課程単位取得退学。スイス連邦工科大学客員研究員、武庫川女子大学生活環境学部講師を経て、2002年より現職。論文に「The Addressed City Issues in Metabolism」など。作品等に「K邸」基本計画、オブジェ「夜羽」、空間デザインのための教育装置「実体験ラボ」の創設など。

小林正子

京都造形芸術大学非常勤講師。 京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科博士後期課程修了。共著書に『ヨーロッパ建築史』『近代建築史』など。

木村博昭

木村博昭/Ks Architects主宰。神戸芸術工科大学環境デザイン学科教授。 1952年大阪府生まれ。1979年グラスゴー大学マッキントッシュ・スクール・オブ・アーキテクチュア大学院博士課程修了、博士号取得。83年Ks Architects共同設立、86年現事務所に改組改称。著書に『マッキントッシュの世界』『STEEL SHEET HOUSE KIMURA HIROAKI』など。作品に「コモンシティ星田住宅施設」「苦楽園プロジェクトGlider House」など多数。

谷本尚子

京都工芸繊維大学、近畿大学、京都精華大学非常勤講師。 1962年生まれ。京都工芸繊維大学工芸学部意匠工芸学科卒業、同大学院工芸科学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(学術)。現在、多くの大学で非常勤講師を務める。共著書に『デザイン基礎[情報デザイン]』、共訳書に『グラフィックデザインの歴史』など。作品等に映像インスタレーション「浮遊する身体」など。

川上比奈子

夙川学院短期大学美術・デザイン学科デザイン群インテリア住空間講師。 1963年生まれ。京都工芸繊維大学工芸学部住環境学科卒業、同大学院工芸学研究科住環境学専攻修士課程修了。修士(工学)。建築研究所アルセック所員を経て、1991年より現職。共著書に『国際デザイン史』。論文に「アイリーン・グレイ グレイのヒンジ的なるもの」「菅原精造の活動について」「アイリーン・グレイの建築意匠に関する研究」。作品に「T医院」「S医院・邸」(以上、建築研究所アルセック)、「K邸」(インテリアデザイン)など。

本田昌昭

大阪府立工業高等専門学校建設工学科助教授。 1963年京都府生まれ。京都工芸繊維大学工芸学部住環境学科卒業、同大学院工芸科学研究科博士前期課程修了、同博士後期課程単位取得満期退学。博士(学術)。大阪府立工業高等専門学校専任講師、京都工芸繊維大学研究員などを経て、1997年より現職。共著書に『ヨーロッパ建築史』『近代建築史』『デ・ステイル1917-1932』など。作品に「Hn邸」「Kw邸」など。

田所辰之助

日本大学短期大学部建設学科専任講師。 1962年東京都生まれ。日本大学理工学部建築学科卒業、同大学院理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。1988-89年、ダニエル・リベスキンド主宰アーキテクチュア・インタームンディウム(ミラノ)に参画。2000年より現職。論文に「20世紀初頭のドイツ近代建築の発展過程における近代工芸理念成立史の研究」(学位論文)など。共著書に『建築モダニズム』『クッションから都市計画まで ヘルマン・ムテジウスとドイツ工作連盟』、共訳書に『建築家・吉田鉄郎の「日本の住宅」』など。

廻はるよ

廻はるよ建築+デザイン事務所代表。 1965年大阪府生まれ。京都工芸繊維大学工芸学部住環境学科卒業、同大学院工芸科学研究科博士前期課程修了。修士(工学)。㈱東畑建築事務所設計室インテリア部を経て、1997年より現職。神戸芸術工科大学、京都造形芸術大学、兵庫科学技術専門学校非常勤講師。論文に「建築におけるジェンダー論に関する考察」。作品に「D-セミナーハウス」「大阪城平成の大改修」(以上、東畑建築事務所)、「ex-Settlement clinic」など。

奥 佳弥

大阪芸術大学芸術学部建築学科専任講師。 1962年大阪府生まれ。奈良女子大学家政学部住居学科卒業。オランダ政府給費生としてアムステルダム自由大学文学部美術史学科に留学。京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。神戸芸術工科大学環境デザイン学科助手を経て、2000年より現職。共著書に『デ・ステイル1917-1932』『ヨーロッパ建築史』『国際デザイン史』など。

矢代眞己

BiOS主宰。千葉工業大学、日本大学、湘北短期大学非常勤講師。 1961年東京生まれ。日本大学理工学部建築学科卒業。同大学院博士前期課程修了後、オランダ政府給費留学生としてデルフト工科大学留学。1996年日本大学大学院理工学研究科建築学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。著書に『建築モダニズム』(共著)、『オランダの集合住宅』(共編著)、『ガウディのフニクラ』(共著)、『オランダの都市と集住』(訳書)など。

川島洋一

川島洋一建築研究所代表。福井工業大学工学部建設工学科専任講師。 1962年大阪府生まれ。千葉大学工学部建築学科卒業。スウェーデン政府給費生としてルンド大学大学院留学。京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。日本学術振興会特別研究員を経て設計活動を開始。国立石川工業高等専門学校助教授を経て、2002年より現職。共著書に『近代建築史』『ヨーロッパ建築史』など。作品に「wink」「オセロ」「Cafe Brize」など。文科省科学研究費を受け体験型設計教育の手法を研究中。

梅宮弘光

神戸大学発達科学部人間行動・表現学科助教授。 1958年兵庫県生まれ。近畿大学工学部建築学科卒業、鹿島出版会勤務、京都工芸繊維大学大学院修士課程修了、神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了。博士(学術)。近代建築史専攻。共著書に『バウハウス1919-1933』『近代建築史』『阪神間モダニズム』『建築MAP大阪/神戸』『国際デザイン史』、共訳書に『デザインのモダニズム』など。

南 智子

フリーライター。 1965年京都市生まれ。京都工芸繊維大学工芸学部住環境学科卒業、同大学院工芸学研究科住環境学専攻修士課程修了。イタリアバロックの建築家、フランチェスコ・ボッロミーニを研究。

モダニズムを学ぶ目的

現在と、そして近未来に求められる生活空間や環境の質とはどのようなものだろうか。それはいかにして実現できるのだろうか。一般の生活者にとっても、また環境全般のデザインに何らかのかたちで関わる建築家、インテリアデザイナー、都市計画家などの専門家にとっても、これは極めて基本的でしかも今日ますます切実な問いかけである。この問いに対する答えを得るための手がかりを求めることが、モダニズムを学ぶ目的である。本書におけるモダニズムとは、「近代」という時代に新たに出現した社会的・文化的価値観に根ざすデザイン一般の特徴を指している。そして、19世紀末から、1950年代までの欧米の建築を中心に、住宅、インテリア、家具を対象として扱っている。

我々が好むと好まざるとにかかわらず、モダニズムは現代デザインの基盤になっており、その歴史的背景としての近代は現代と近世以前を明確に分けている。したがって、現代デザインの手がかりを求める際に、その基盤となるモダニズムの有効性と限界や、その背景との関わりを検討することを避けて通ることはできない。

本書の読み方:自分に引き寄せて考えてみること

1 自分ならどう生きるか

モダニズムを学び、その成果を活用するためには、我々日本人は二重の努力をしなければならない。まさにモダニズムが誕生し展開した欧米の社会状況についての理解と、モダニズムを取り込んで自らのものとしてきた近代の日本についての理解である。この努力は、デザインそのものへの創造的意欲と共に、体系的把握と分析的思考のために膨大なエネルギーを要求する。

本書では、モダニズムを代表する欧米の14人の作家を取り上げ、その時代背景、生涯、理念・方法、作品について解説している。これらを自分に引き寄せて等身大でモダニズムを考えることを通じて「生きたモダニズム」を理解することが本書の目的である。「生きたモダニズム」の理解は、さらに「私のモダニズム」をつくっていく出発点ともなろう。本書から、自分自身の歴史を見る視点を発見してもらいたい。なお、本書では、読者の多様な興味に応えるため、建築から家具までを作品として実現した作家を重点的に紹介している。

①時代背景:まず、各作家が活動を始める前後の、建築をめぐる社会的・文化的状況について解説している。デザインは芸術と同時に社会と深く関わっており、歴史上重要な建築デザインの流れも、社会の変化や新しい問題の出現と共に起こった。本書では、このようなデザインの流れに何らかのかたちで関わった作家を取り上げている。作家たちの活動と主な建築デザインの流れをまとめた相関図も参考にしながら、現在の社会状況と引き比べてもらいたい。

②生涯:次に作家としての生涯を紹介している。原風景となる生い立ち、建築の学習と修業の方法、作家としての設計活動のやり方と社会的立場などについてである。興味を引かれた作家については、生きた時代、社会、生い立ちと、自分自身の状況を引き比べ、自らの作家としての生き方を探ってもらいたい。

2 自分ならどう考え、どうつくるか

③理念・方法:次に、作家たちが設計活動を行うにあたって拠り所とした理念と方法について解説する。一般に、デザインを仕事とするなら、独創的な何ものかを生み出す特別な才能がなければならないと考えがちである。確かに才能は重要だが、それより目に見えないコンセプトを「かたち」にするプロセスに苦しみを上回る歓びを感じるかどうかである。このプロセスが独創的と認められる作品を生むのは、神話のように「無」から「有」を生み出す才能によってではなく、独創的な理念と共に発想され、独創的な方法によって完成度が高められた時である。

本書で紹介する14人の作家たちも際立った理念と方法を用いた。しかし彼らは、それらをもまた「無」からつくり出したわけではない。各々が生きた時代の社会的現実に対して、作家として過去の歴史や同時代のデザイン運動の中から理念や方法を自らが選びとり、自分なりに展開したのである。それは、少なくとも表面的な形態の模倣とは全く異なる行為であり、作家の独創性と深く関わるので各作家ごとに比較してもらいたい。また、自分なら、同じ時代に生きてどのような理念や方法を用いるか、同じ着想でどのような理念や方法に向かうか、などについても考えてもらいたい。

④作品:次に、作家たちの理念と方法が実際の設計活動にどのように反映されているか、建築から家具にわたる作品から読み解く。作家の理念や方法を理解した上で、自分ならどのような理念・方法を用い、どのような作品をつくるかを考え、その結果と作家の作品を比較してもらいたいのはもちろんである。本書では、大半の章でまず代表作品を紹介し、さらにその他の重要な作品を紹介している。

しかし、作家にとっての理念や方法は、数学や物理学の公式のような固定的なものではない。何をいかにしてつくるかという問いに対して、作家の理性と感性を最も自由に解放するための道具なのである。作家とは、本来考えながらつくり、つくりながら考える存在であり、その過程の中で理念・方法という道具はますます発展し使いこなされる場合もあれば、社会的有効性や個人的興味の変化ゆえに放棄される場合もある。したがって、自分自身に適した道具を探すためにモダニズムを学ぼうと思うなら、興味のおもむくままに作品全般の紹介を読んでもらいたい。そして想像の中で、作品の前に立ち、作品の中を歩き、家具に触れてもらいたい。そこから、どのような時代の要請で、またどのような考え方によって、それらがつくられたのかを考え、本書に紹介された内容と比較してもらいたい。

以上のいずれかを実行した読者は、本書の内容だけでは満足できないはずである。章末の参考図書の一読と同時に、実際の空間体験を是非お薦めする。

「自分自身の歴史を見る視点を発見してもらいたい。」(本書「はじめに」より)
以前から、歴史に関するあらゆる説明は、事実についてカタログ化以上に、何を事実として選択し、どのように順序づけ、どのように評価を行ったのかが重要なポイントであった。そのため通史的言説の多くは、全体的視点を優先させた選択と順序づけ、評価によって歴史的事象を捉えたため、時に単純化され、時に観念化されてきたと考えられる。

本書は、包括的な理解を図る近代建築通史のような、全体的な視点のもとでは見落とされがちな特定の作家個人の活動に焦点を当て、そうして得られた理解を背景に、読者が自らの歴史観点を発見することを期待して構成されている。換言すれば、建築の歴史に関わる作家のデータベースを提供しているわけである。データベースと言っても百科事典ほどのヴォリュームがあるわけではない。その点では厳選された作家に焦点が絞られているとも言えるが、作家14人の年齢、活動地、活動分野を見ると、いかにバランスよく選ばれたのかが理解できる。また徹底されたその姿勢は紙面構成からもよく伝わってくる。

各作家は、建築通史上での知名度や作品数等に関係無く一律8頁割り当てられ、その8ページの内訳は、顔写真つきの表紙1頁、本文6頁、注と参考図書紹介で1頁となっている。本文は、「時代背景」「生涯」「理念・方法」「作品」と大きく4つの項目に分けられていて、各ページは文章と図版が50%の割合で構成され、テキスト情報とビジュアル情報のバランスにも配慮が行き届いている。各作家毎に、非常に丁寧な注釈つきの時代背景が記述されているので、 初学者が部分的に「つまみ読み」することも容易である。 また参考図書の欄には、邦訳書を含め基本的に日本語で読める文献が紹介されているので、さらに知見を広める場合も、比較的容易にスタートが切れる。

以上の内容から、以下の2つの読者層、2つの教材としての姿が見えてくる。一つは、一度建築史の授業を受けた者が、より深く独自に歴史を読み解くための教材であり、もう一つは、これまでの歴史的評価に関係なく、作家個人と出会い、そして理解を深めたい者への教材である。

私(評者)自身、教える立場となり、歴史事象に関する講義は、唯一無二の正解が教えられない点で設計課題と類似している、と感じることがある。本書のような歴史教材が、学生達にどの様な刺激を与えるかはまだ分からないが、 本書で得た知見を基に、学校の講義中に鋭い質問を投げかける学生が出てくれば、建築史の講義は今までになく盛り上がるだろうし、その様子は設計課題のエスキス同様に、スリリングかも知れない。

最後に著者の顔ぶれを見ると、少ない頁数の中で、密度の高い内容を執筆するに相応しく、かつ男女比、活動場所を見ても、本書の構成趣旨が浸透している点に気がつく。また14人の作家という規模は、半期ぐらいの講義にはちょうどよく、また2500円という価格設定も学生には手の届きやすい金額である点には、頭が下がる。
このように用意周到に準備された教材が、どのような反響をもたらすか、実はもっと楽しみである。

(国立石川工業高等専門学校建築学科助手/内田 伸)


本書に紹介された14人は、近代という大きな時代の変化の中で活躍した著名な建築家・インテリアデザイナーだ。その作家達が生きた時代背景、生涯、作品と理念・方法を中心にこの書は構成されている。「これが教科書なら……」。私がこんな第一印象を持ったのは、この本が学生時代に使用した教科書とあまりにも違っているからだ。本書はデザイン運動の流れや歴史的背景と共に「作家個人」に焦点を絞り、作家14人の実像に接することができる。これまで、歴史的背景が作家に影響を及ぼし、作家同士も影響し合う「モダニズム」は、複雑で理解が困難だと思っていた。しかし、各作家についての文章を読み進めると、有名な作品が生まれる背景にはこのような歴史や理念・方法が潜んでいたのか、と素直に興味を引きつけられる。さらに、写真・相関図・年表等の豊富な資料が理解への大きな手助けになり、モダニズムへの興味と共感をもたらしてくれる。

ところで、私達は何かにつけて、どうにか独創性を生み出そう、と頭を悩ませてしまう。けれどなかなか出てくるものではない。そんな時、偉大な作家が辿ってきた道を深く知ることから学ぶべきものは沢山ある、とこの本は教えてくれる。
自分の読み方で14人の作家と自由に向き合い、「自分ならどうするか」を主体的に考える、というモダニズムを学ぶ本来の目的を改めて気づかせてくれる一冊だ。

(武庫川女子大学生活環境学部生活環境学科/宮本奈央美)


担当編集者から

この本はこんな人にお勧めです。
1 モダニズムの主要作家の活動の全体像をつかみたい。
2 興味のあるモダニズムの作家について知識を深めたいが、ボリュームのある本だと最後まで読み切る自信がない。
3 モダニズムの動きは一通り頭に入っているが、作家同士のつながりや運動の関係をもっと詳しく知りたい。
4 これまでの近代建築・デザインの本は、人名・建築名を書き並べ、史実を追うことに重点が置かれ興味が持てない。
5 近代建築史の本は、家具やインテリアをほとんど紹介していないから不満だ。
6 近代建築史の本は、写真が少ないので、もっといろんな作品の写真を載せてほしい。
7 参考図書や注釈などが充実していて、調べる手間のかからない本が便利だ。
8 モダニズムの作家たちがどうして凄いのか、その理由を知りたい。
9 モダニズムの作家たちの創作を支えていたものは何か知りたい。
10 そもそもモダニズムって何なのか、わかりやすく教えてほしい。

これらの人に、この本はモダニズムの新しい扉を開いてくれることでしょう!

(M)

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