小さなエネルギーで豊かに暮らせる住まいをつくる
内容紹介
「家庭の省エネ=我慢、面倒」ではない。太陽光発電だけでもない。きちんとした情報を持てば、ちょっとした工夫で日々の暮らしを快適にしつつ省エネができる。これまで住まいの省エネに取り組んできた著者が、自然を取り込む工夫、暮らしの知恵、無理のない省エネ技術を、実例も交えながら解説。藻谷浩介らとの対談も必読。
体 裁 四六・188頁・定価 本体1800円+税
ISBN 978-4-7615-1367-2
発行日 2018/05/01
装 丁 森口 耕次
第1章 エネルギーを巡る状況
エネルギーは社会の血液
我が国のエネルギーに関する課題
再生可能エネルギーへのシフトと省エネルギー
福島原発事故とその後
原子力発電に対する私のスタンス
2章 家庭の省エネルギーを巡る状況
家庭の省エネルギーを進める意義
数字で見る家庭の省エネや省電力消費を進める意義
「一次エネルギー」の意味
家庭の省エネに対する意識
国全体で省エネに対する知識不足がある
第3 章 家庭の省エネを進める具体的な方法
1 パッシブデザインとパッシブな暮らし
冷房エネルギーを減らす4人の答え
エネルギーの「エンドニーズ」を考える
エンドニーズエネルギー
建物に工夫する~パッシブデザイン~
冬の暖かさを実現するパッシブデザイン~冬のパッシブ~
夏の涼しさを実現するパッシブデザイン~夏のパッシブ~
明るさを実現するパッシブデザイン~通年のパッシブ~
断熱性能の向上はとても大きなメリットを生む
南面の窓を大きく取るべきかの判断
断熱性と蓄熱性を日射取得に組み合わせる
夏の基本、日射遮へいのポイント
通風性能を上げる工夫はおもしろい
暖涼感と快適・健康
太陽や風とうまく付き合う暮らし方をする~パッシブな暮らし~
2 省エネにつながる設備機器
電気、ガス、灯油などの比較
電気は発電方法によって評価が変わる
太陽光発電と太陽熱給湯
暖房設備と省エネ
給湯設備と省エネ
換気設備や照明設備と省エネ
家電や調理と省エネ
設備機器を賢く使う
集合住宅における省エネ
地域別・用途別の一次エネルギー消費量
1985家族に向かおう
第4章 省エネルギーの住まいと暮らしをつくる1985アクション
3.11 前後
原子力発電に頼らない社会にするには?
家庭の一次エネルギー消費量と電力消費量を半分にしよう
多くの仲間が賛同してくれた
家庭での省エネを普及させるには
暮らし省エネマイスター検定
1985地域アドバイザー拠点
勉強会の開催
1985シミュレーター
1985アクションナビ
1985アクションHEMS
全国省エネミーティング
情報提供としての書籍の出版
第5章 エネルギー1/2 家族を訪問
少しずつ暮らしを見直して1985家族を達成
―――― 山口県岩国市K さん
楽しく、かしこく省エネに向かう実験と実践を重ね続ける
―――― 群馬県佐波郡M さん
暖かさと柔らかな光に包まれて赤ちゃんと暮らす
―――― 埼玉県川越市H さん
〈資料〉自宅のエネルギー消費レベルを確認する方法
対談
01 女性目線でエネルギー、自然、地域をとらえる 大橋マキ×野池政宏
02 長野県の環境エネルギー戦略 中島恵理×野池政宏
03 地域振興とわが国が抱える「住」の課題 藻谷浩介×野池政宏
東日本大震災に伴う福島原発事故によって、私たちの暮らしには「エネルギー」が深く関わっていることを改めて認識させられました。私は、どう考えても原発に頼らない社会をつくるべきだと考え、この国で暮らすすべての人が直接関わることができる取り組みとして始めたのが「Forward to 1985 energy life」という活動です。この活動は、我慢によるものではなく、賢く、楽しく家庭でのエネルギー消費量を減らすことを目指すものです。
Forward to 1985 energy life の「1985」とは、1985 年頃という意味です。
この当時、日本の家庭での電力消費量は現在のおよそ半分でした。いまよりも相当少ないエネルギーで毎日を暮らしていたわけです。そして1986 年頃から“バブル”が始まり、エネルギー消費量もどんどん増えていきました。
私はそのとき25 歳。思い出せば、スマートフォンなんかはありませ
んでしたが、とくに不便を感じることなく、楽しく毎日を暮らしていました。家庭の電力消費量が半分だったなんて不思議です。実際には、家電の保有台数が増えたことや、世帯数が増えて世帯人数が減ったことが「電力消費量2 倍」になった理由と考えられますが、1985 年頃のエネルギーでの暮らし(1985 energy life)に近づけていくことに大きな無理があるとは思えません。
Forward to 1985 energy life の「Forward to」とは「前に進んでいく」という意味です。あえてBack to 1985 energy life としなかったのは、単純に「戻る」ではなく、1985 年頃からいままでに進化した省エネの技術や知恵を活用し、前向きな気持ちで家庭の省エネを進めていきたいと考えたからです。ネタばらしをすれば、1985 年という年を調べていると、この年に「Back to the Future」という映画が封切られたことがわかり、このタイトルの“逆パクリ”を思いついてForward to 1985 energylife としたのです。「未来に戻る」の逆の「過去に進む」というわけです。
私は2000 年頃から家庭の省エネに関心を持ち、とくに住まいのあり方によって省エネにつながる様々な技術について調べ、そこで得られた情報を、家づくりのプロや家づくりを考えている一般生活者に向けて伝えてきました。
そうやって勉強する中で「現在の半分程度だった1985 年頃のエネルギー消費量で、快適・健康的に暮らせる住まい」を実現させることは難しくないことがわかっていました。先ほど「1985 年頃のエネルギーでの暮らし(1985 energy life)に近づけていくことに大きな無理があるとは思えません」と書きましたが、それには具体的な根拠があったのです。
2011 年から始めたこの活動も全国的な広がりを見せ、着実に「小さなエネルギーで豊かに暮らせる住まい」は増えてきています。本書では、まずは「エネルギーを巡る状況と家庭での省エネを進めていく意義」について述べ、その次にForward to 1985 energy life という活動を始めた経緯と活動内容をご紹介し、最後に「小さなエネルギーで豊かに暮らせる住まい」の具体的な話をしています。みなさんの興味に応じて、途中から読み始めていただいても構いません。
本書がますます「小さなエネルギーで豊かに暮らせる住まい」を増やすことにつながれば幸いです。
2018 年4 月
一般社団法人Forward to 1985 energy life 代表理事
野池政宏
なぜか私は小さい頃から社会問題に関心があり、オイルショックの後に出てきた「エネルギー」に関する情報を追いかけ、核融合の研究者になりたいと考えるようになりました。その当時、核融合はエネルギー問題を解決する“夢の発電”と言われていたからです。結局大学では物理学の別の分野に進んだのですが、「社会を変えるには教育だ」と考えて卒業後は教師になりました。その後、様々な偶然と必然があって教師を辞め、住宅分野に首を突っ込むようになり、今に至っています。
大橋マキさんとの対談でも鋭く指摘されたように、私の役割は「普及」です。また藻谷浩介さんとの会話から「教育者的エンジニア」という言葉がひょっこり出てきました。本書の出版作業を進める中で、私は教育者的エンジニアとして家庭の省エネを普及する立場であることが明確になりました。
1985 アクションは、建物の工夫による省エネを中心に置きながらも、家電や調理、さらに暮らし方まで視野を広げ、内容の濃い勉強会を開催し、有用なツールを開発し、地域から家庭の省エネを拡げていく仕組みを持っています。これほど家庭の省エネに“本気で”向かっている活動は他に類を見ないと自負しています。
みなさんのお仕事や活動が家庭の省エネに関わりがあるなら、本書でご紹介した具体的な省エネの方法を今後の参考にしていただきながら、もちろんご自身の家庭の省エネにも活かしてください。そして、何らかの形で我々の活動とつながっていただくことを願います。これから新築やリフォームを考えていて本書を手に取った方は、ぜひ本書を参考に「小さなエネルギーで豊かに暮らせる住まい」をつくってください。
2018年4月
野池政宏