観光ガイド事業入門

藤崎達也 著

内容紹介

面白そうなガイドツアーを「作れば売れる」という考えは甘い。その商品が世に出ていくには様々なノウハウが必要だ。①ガイド事業の経営、②ガイドを育成・成長させていくマネジメント、③行政等に検討してもらいたい環境整備の3つの観点から、これまでの実践を踏まえて、事業を継続し成功に導くポイントをまとめた一冊。

体 裁 四六・204頁・定価 本体1800円+税
ISBN 978-4-7615-1300-9
発行日 2012/03/15
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介はじめにおわりに

Ⅰ 地域の魅力を伝える―ガイドという仕事

1 知床での自然ガイドサービス誕生の経緯
2 流氷ウォークの誕生
3 シペル(シレトコ先住民族エコツーリズム研究会)の誕生
4 田野畑村「番屋エコツーリズム」の誕生

Ⅱ 組織づくり

1 組織づくりのタイプ
2 組織づくりの要点
3 ガイド事業の経営

Ⅲ マーケティングの基本―企画・商品化(Product)

1 企画・商品化への基本姿勢
2 企画
3 商品化

Ⅳ マーケティングの基本―価格(Price)

1 ビジネスとして事業の継続をめざす場合
2 ボランティアガイド主体で事業の継続をめざす場合

Ⅴ マーケティングの基本―広報・宣伝(Promotion)

1 インターネット
2 プレスリリース
3 日常的な広報担当者とのコミュニケーション
4 チラシやパンフレットの作製

Ⅵ マーケティングの基本―流通経路(Place)

1 旅行会社
2 オプション
3 ホテルなどの宿泊施設
4 インターネットの個人予約

Ⅶ ガイドの育成

1 ガイドに向いているキャラクター
2 ガイドに向いていないキャラクター
3 ガイドの育成プログラム

Ⅷ リスクマネジメント

1 リスクマネジメントの基本的な考え方
2 リスクマネジメントの実際

Ⅸ まち巡りガイドなどへの応用

1 ガイド業はコンシェルジュでありホスト・ホステスである
2 まち巡りガイドはまちを巡ることにこだわらない
3 旅行会社や地元のバス会社などと共同企画をしてブラッシュアップを
4 まち巡りガイドといえども重要なリスクマネジメント
5 小さなガイド団体向けの戦略―広域連携

Ⅹ 観光地におけるガイドプログラム発展のための環境整備

1 人出の変化に対応すること
2 町並みや風景の変化に対応すること
3 自然保護への対応
4 サービスの変化への対応
5 行政サイドの施策をPRするスポークスマンの設置

藤崎達也
エコツアー開発プロデューサー
東京都出身。東京でのサラリーマン生活を経て北海道知床に移住。1996年、知床で初の事業型ネイチャーガイドサービスを始め、有料のガイドサービスがなかった知床で夏冬を通してのガイド業を定着させた。
とくに冬の「流氷ウォーク」は、それまでの見るだけの観光を五感で楽しむ体験に変え、いまでは一冬で5千人が楽しむ人気ツアーとなっており、著者が設立したガイド会社・知床ナチュラリスト協会は、他のツアーとあわせ年間2~3万人を受け入れている。
そのプロデュース実績をかわれ、岩手県田野畑村にてサッパ船アドベンチャーズなどを核とする「番屋エコツーリズム」をプロデュース。

農漁業の後継者不足対策や第一次産業への理解促進、高齢化による地域商工業の衰退対策、高齢者のやりがいの創出、若者の雇用創出等々といった目的で、全国で観光によるまちおこしや地域活性化を推進しようということがいわれて久しい。地域おこしの仕掛けが功を奏して、今まで観光客がまったく訪れなかったような場所に多くの交流人口が生まれ活性化した例もたくさん見られる。その一方で、文字どおり企画倒れという例も数多く見られる。

こうした「地域おこし」の是非について意見はないが、地域おこしにおいてしばしば中心的な担い手として期待される「ガイド」「語り部」「解説者」などについては、意外とその機能についてわかりやすく説明された書がなかった。筆者は「知床ナチュラリスト協会」という知床国立公園を中心としたガイドサービスを立ち上げ、事業を続けており、全国で苦労されている方々に参考となるようなノウハウの提供をできないものかと考えてきた。

その中で、様々な相談を持ちかけられるときに、どうしても譲れない点が一つある。それは、どうやって事業を継続させるかということである。特に行政が主導する「地域おこし」では単年度の事業としてガイドなどを育成し、旅行者の受け入れなどを企画、実際に催行することで実績を上げたにもかかわらず、何年か続けた後に予算が途切れ中断してしまう例を見かける。これは、ある程度致し方のないことなのかもしれないが、まがりなりにもその地域の名を冠して始めることを途中でやめることは、訪れようとした未来の観光客に申し訳が立たない。結果として逆に地域の名を落とすことにつながりかねないのである。

ガイドを育成することは大変な作業であり、さらにツアーを行うとなると、多くの労力が必要となる。そこで、一肌脱いでやろうという地域の人の心意気、そして楽しんでいただいてさらに輝く地域の光と喜ぶ観光客の姿を見てわが町を誇りに思う住民が増えることを無駄にしてはいけない。

一方で、最近は「観光学」を勉強する学生や研究者が増えてきて、筆者のところにもしばしばヒアリングに訪れる。そうした熱心な研究の延長線に「ツアーをつくること」があるのは当然だが、ツアーパンフレットをつくるまでは実はとても簡単な作業なのだということを申し上げたい。面白そうなツアーを“つくれば売れる”という考えを捨て、その商品が世に出て行くうえでは目に見えない隠れた努力を示すことが必要なのではないかと考えていた。

私は何とか自分の持っているノウハウを、地域でまちおこしに関わる自治体の方々や、実際にガイドや観光に携わっている方々、またこれから地方のお手伝いをしてやろうじゃないかと思う学生や社会起業家などにお伝えできないかと思ってきた。本書は、そのような方々を対象に、特に私が携わってきたガイド事業を検討する際の、手引書のようなものをイメージしている。

本書では、その検討を、ガイド事業を持続していくうえでの「経営的な面」、ガイドを育成・成長させていくうえでの「技術とマネジメントの面」、そしてまちづくりとして捉える場合に行政等に検討していただきたい「環境整備の面」の三方向に大きく分け、これまでの実践と実績、失敗や成功を踏まえたうえでノウハウや提言としてまとめた。ガイド事業を行うとき、あるいは地域おこしにおいてガイド事業を一要素として盛り込もうとするとき、議論が逆戻りしたり、トレンドを読み間違えたりしないよう、知識として共有していただければ幸いである。

2011年11月、筆者が立ち上げに関わった「番屋エコツーリズム」を行う田野畑村で「復興祈念祭」が行われた。まだまだ震災の爪痕が残る中、多くの仮設住宅が並ぶ横の公共広場で、盛大に祭が執り行われた。その際、いっしょに事業を手がけた現地のコーディネーターから「ひとときだけですが、楽しくすごすことができ、被害が少なかった人も、被災した人も村民が一丸となって、これからの復興を進めようという意志を確かめることができた」という声を聞くことができた。楽しいことは、人を元気にさせる。

実は、これに先立って震災からわずか約4ヶ月半後の2011年7月の下旬に再開した「サッパ船アドベンチャーズ」がすでに好評を得ていた。
「サッパ船アドベンチャーズ」は地元で「サッパ船」と呼ばれている磯舟に乗り、漁師が実際にアワビやウニを採りに行っている場所を訪れるクルージングである。世界中に奇岩怪石の間を縫うクルージングはあるものの、このサッパ船アドベンチャーズは漁師たちのいわば通勤ルートを巡るものであり、そのルートが迫力の高さ80mもの岩のトンネルだったり、風光明媚な場所だったりするというものだ。田野畑村の漁師の目線そのものを観光客は追体験することができるということで、震災前にも大変な人気を得ていたツアーだ。

命といっても良いサッパ船は津波でほとんどが流されたが、数隻の船が全国の浜の漁師たちの好意で寄せられた。自らの復興もままならない中で訪れるお客様のためにツアーを提供しようとする心意気が人々の心を打ち、傷跡生々しい被災地の中で早くも復活の狼煙を上げているのだ。
私がコピーをつくった「番屋エコツーリズム」のコンセプトは今でもホームページに残っている。

「崖、海、人」という
陸中海岸の自然が織りなす、
人と自然との関係を象徴的に表しているのが「番屋」。
私たちは、陸中海岸の自然をお伝えするキーワードとして、
番屋の暮らしに注目し、
「田野畑 番屋エコツーリズム」という考え方のもと、
様々な自然体験プログラムを提供しています。

地域の自然と人との営みは、どのような災害が襲おうと、連綿と続くものだ。このコンセプトは、津波ですべてが流れ去ってしまったあとも、色褪せるどころか、改めて輝きを増している。
震災後最初のサッパ船出航のパンフレットには、現地の人たちが考えた次のようなコピーが書かれていた。

「3・11」あの日、波にのまれていく家や船をみて体が震えた。
全てが現実。だから俺たちは、この海で『大津波』を語り継ぐ責任がある。
輝く水平線や心癒す北山崎の風景が変わらず残っていることも…

観光には人を元気づけたり勇気づけたりする役目がある。全国各地の観光やまちづくりに携わる人たちが、自慢のわが町を訪れてくれるお客様に多くの元気を与えていることに思いを馳せると、被災地であろうがなかろうが、存分に楽しんでもらうことが日本再興の一つのサポートになると確信できる。

各地でガイドプログラムを通して地域の誇りを伝えていこうとするときには、何があっても変わらない超越したコンセプトを据えられるか据えられないかがキーとなってくる。田野畑村のように流されても流されていないスピリット。その揺るぎない柱を持つことにより地域のストーリーは無限大に広がり、ちょっとやそっとのことでは壊れないのだ。

読者の方々にこうしたコンセプトをつくり上げていただくことが、本書の一つの目標である。この本を読んで、各地域の活性化にお役に立てていただければ幸いである。そして、日本各地が元気になり、被災地へのサポートが力強く続いていくことを祈りたい。

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