地域で守ろう!鉄道・バス

堀内重人 著

内容紹介

日本各地で、公共交通の衰退が止まらず、鉄道や路線バスの廃止が相次いでいる。「地域の足」を確保するために地域は何ができるのか?全国各地の住民・NPO・交通事業者・行政による先進的な取り組みをレポートし、地域で支えるための多様な手法を一挙紹介。総合的な交通政策の展望と持続可能な社会づくりへの道筋を示す。

体 裁 四六・224頁・定価 本体1900円+税
ISBN 978-4-7615-1296-5
発行日 2012/01/01
装 丁 KOTO DESIGN Inc.


目次著者紹介はじめに

1.地方の公共交通の現状

①利用者を減少させる要因
②規制緩和の影響
③地域公共交通活性化再生法の成立とその課題

2.沿線住民参加による活性化の模索

①高校生による存続運動
②地域市民の参加
③「クラブ財方式」の活用
④NPOの活躍
⑤市民がつくるバスマップの広がり

3.事業者の自主努力

①ネーミングライツの活用
②倒産からの再建
③副業の躍進

4.行政によるサポート

①上下分離経営の模索
②民営鉄道から第三セクター・第四セクターへ
③大手民鉄から中小民鉄へ

5.行政主導型の取り組み

①過疎地における生活路線バスの確保
②デマンド型の乗合タクシー

6.地域公共交通の再生と持続可能なまちづくりのために

①存続運動の仕方
②自治体で取り組むべきこと
③交通基本法制定をめぐる動き

堀内重人(ほりうち しげと)

1967年生まれ。立命館大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。運輸評論家として執筆や講演活動を行うかたわら、NPOでも交通問題を中心とした活動を行う。日本交通学会、公益事業学会、日本海運経済学会、交通権学会、日本モビリティ・マネジメント会議、日本環境教育学会会員。著書:『都市鉄道とまちづくり』(文理閣、2006年)、『高速バス』(グランプリ出版、2008年)、『廃線の危機から蘇った鉄道』(中央書院、2010年)、『鉄道・路線廃止と代替バス』(東京堂出版、2010年)、『ブルートレイン誕生50年―20系客車の誕生から今後の夜行列車へ』(クラッセ、2011年)。

今、日本各地で公共交通の衰退が止まらない。これまで地域の交通を支えてきた鉄道や路線バスの廃止が相次いでいる。

その大きな要因の一つに、「規制緩和」がある。鉄道は2000年、路線バスは2002年に交通事業者に対する規制緩和が実施され、不採算路線からの撤退は「許可制」から「届出制」に変更された。鉄道事業法の改正による規制緩和が実施された2000年から2006年までの6年間で、476.6㎞の路線が廃止された。バスは毎年、稚内から鹿児島までの直線距離を超える2000㎞以上のバス路線が廃止されており、三大都市圏を除いてはバスは非常に不便な乗り物になっている。

それ以前から、少子高齢化やモータリゼーションの進展、産業の空洞化、不況などにより、地方の公共交通の経営は非常に厳しい状態にあった。そこへこの規制緩和が実施されたことで、公共交通の「空白地域」が生じることになり、市場原理が適用されない過疎地などでは、地域住民の日常生活の「足」を守ることが喫緊の課題になった。

その反省から、自民党政権下の2007年10月1日に地域公共交通活性化再生法が施行され、協議会を開催して公共交通の存続・活性化に熱心に取り組む自治体には補助金が支給されることになった。これは別の言い方をすれば、事業者任せ、行政任せだけでは公共交通は存続しないことを意味する。

民主党政権下の2011年4月から施行された「地域公共交通確保維持改善事業―生活交通サバイバル戦略」では、「元気な日本復活特別枠」を含む既定予算の1.4倍に当たる305億円を投入することになり、バリアフリー対策などは充実することになった。だが、欠損補助の対象は、架橋されていない離島航路や航空路、自治体が補助を行わない路線バスや福祉・乗合タクシー(デマンド交通)など、必要最低限の公共交通だけである。地域公共交通活性化再生法で実施されていた試験運行(運航)や増発に対する補助が実施されなくなり、こちらに関しては後退してしまった。鉄道には欠損補助が実施されず、かつ試験運行(運航)や増発に対する補助も廃止された。これに関連するが、「交通基本法案」の国会審議もいまだに始まっていない。

本書は、以上のような厳しい状況の中で、「地域の足を確保するために、地域は何ができるのか」という観点から、全国各地の住民・NPO・交通事業者・行政による先進的な取組みをレポートし、地域で公共交通を支えるための多様な手法をまとめて紹介することを目的としている。従来、地方の鉄道やバスの衰退の問題が取り上げられる際には、個別事業者の経営問題として議論されることが多かったが、これからは、持続可能な社会をつくるための「地域の公共財」として公共交通を捉えることがますます重要になってくるだろう。

本書が、この問題に関心を持つ全国の人々に届き、より良い地域の未来につながる一助になれば、これ以上の喜びはない。