建築主が納得する住まいづくり
内容紹介
顧客満足度アップ、クレームゼロの方法とは
建築主が大満足する家づくりとは。住宅メーカーのベテラン技術者が、現場で経験したクレームやトラブルの事例より、家を建てる時に、建築主に説明して念押ししたほうがよいポイントや、着工までに納得してもらうべき事項をあげ、その対応や配慮を工程にそって解説した。現場マン必読!!顧客満足度アップ、クレームゼロの方法。
体 裁 四六・224頁・定価 本体1900円+税
ISBN 978-4-7615-1238-5
発行日 2008-03-30
装 丁 KOTO DESIGN Inc.
はじめに
第1章 敷地の法規制
001 敷地の防火性能
002 敷地の境界と建物の配置
003 敷地の高低差と取合い
004 隣地の同意と目隠し
005 確認通知書の確認
006 軒の出のデザイン
007 建蔽率・容積率と外構
コラム ブロークンウィンドウズ理論
第2章 事前準備
008 住宅展示場のモデルハウスとの比較
009 色決め
010 製本図面作成後の変更
011 工事看板類の表示
012 解体工事の養生方法
013 着工前の近隣挨拶
014 工事中の騒音と振動
015 展開図による表現
016 工事管理の連絡と写真
017 保証条件(構造)
018 別途工事の確認
019 工程と支払い条件
020 メンテナンス
021 借入金額と借入先の確認・補助金
第3章 工程と祭り事
022 工程の流れ
023 工期短縮の是非
024 現場検査
025 地鎮祭
026 上棟式
コラム 3Rと「MOTTAINAI」
第4章 基礎構造
027 地耐力調査の結果
028 基礎の補強方法
029 基礎の鉄筋
030 基礎の鉄筋のかぶり厚
031 基礎のアンカーボルト
032 基礎のコンクリート強度
033 基礎のコンクリート湿潤養生期間
034 掘込みガレージの上の建物
035 基礎の型枠脱型時期
第5章 大工上棟
036 構造材と合板
037 構造金物と釘・ビス
038 ツーバイフォー材料の断面寸法
039 木材の含水率
040 ブルーステイン
041 上棟段階での雨濡れ
042 床補強の必要性
第6章 大工造作
043 防蟻薬剤の種類と施工箇所
044 外気に面する断熱材
045 床の仕様
046 バリアフリー
047 和室の真壁・大壁と天井
048 和室の床の間と障子
049 仏間と神棚
050 床下物入れ(点検口)と天井点検口
051 階段の段数
052 勾配天井の高さ
053 勝手口土間と靴
054 小屋裏換気
055 無垢材(松)のヤニ
056 石膏ボードの下地補強
057 高断熱化
058 内部結露
059 手摺り
第7章 外部仕舞い
060 屋根勾配の確認
061 屋根の下葺き材
062 屋根材の種類
063 捨てフェルト
064 外壁の下葺き材
065 外壁材の種類
066 外壁材の通気工法
067 左官材料による乾燥収縮
068 バルコニーの防水
069 雪止めの必要性
第8章 開口部
070 ガラスの種類
071 サッシの寸法と品番
072 ペアーガラスの仕様
073 サッシの結露
074 サッシの防犯
075 吹き抜け部のサッシの開閉と掃除
076 トップライトの位置と明るさ・結露
077 シャッター・面格子の付く位置
078 網戸の仕様
第9章 竣工・引渡し
079 玄関ポーチの仕上げ
080 タイルの凍害
081 エフロレッセンス(白華)
082 フロアーマニキュア・ワックス仕上げ
083 薄いクロス
084 和室畳の仕様・厚さ・重さ
085 和室の内障子のデザイン
086 雨樋の位置と大きさ・数量
087 外部に見える木部
088 外部鉄板の錆
089 ヒラタキクイムシの発生
090 照明器具・カーテン・家具
091 物干し金具の取り付け位置
092 基礎の仕上げ
093 胴まわり見切り材
第10章 電気設備
094 着工後に最も変更したいところは電気関係
095 分電盤の位置・回路数・専用回路
096 ダウンライトの位置
097 24時間換気計画
098 オール電化と深夜電力引き込み
099 床暖房の方式とその位置
100 テレビのブースター
101 浴室乾燥機の取り付け
102 強電と弱電
103 電気引き込みポール
104 エアコンの取り付け
105 換気扇の位置
第11章 給排水・ガス設備
106 給水・給湯配管の仕様
107 水栓カランの仕様
108 給湯器の性能
109 ユニットバスか在来浴室か
110 2階トイレの通気管
111 排水管の防音と防露
112 トラップとは
113 水道メーターの位置
114 散水栓(ボックス型・コン柱型)と足洗い場
115 水道本管引き込みと水栓数
116 洗面化粧台の仕様
117 洗濯パンは必要か
118 合併浄化槽とは
119 便器の仕様
120 システムキッチンの仕様
121 会所のドロ溜めとインバート
122 トイレのアクセサリー位置
123 ガスの種類と使い方
124 ガスメーターの位置
コラム パレートの法則とは
おわりに
家を建てるということ
家を建てるということは大変なことです。大の男が一生をかけて取り組む、壮大な事業のように思われます。多数のサラリーマンは、節約して、やっとの思いで貯金した頭金と住宅ローンなどを工面しています。何十年後かに住宅ローンの支払いが終わるころには、利子と合計すると、文字通り一生を捧げる大事業といえると思います。数千万円のコストと、相当なエネルギーが必要となります。考え抜いて決断をくだす勇気も必要です。昔から、男と生まれたからには家の一軒でも建てないと、というような意味のことをいわれました。一方、たかだか、家一軒のために、人間の一生をかけるなんてバカらしいという方もあります。
私は、住宅業界に入って30年を超えました。主として技術系で現場施工部門を歩いてきました。人の家ばかり建ててきました。自分の家は、我ながら情けないですが、建てたことはありません。人の家ばかり建てていると、自分の家にかけるエネルギーが残らないのかもしれません。ただ様々な家を建てながら、考え、見てきました。中には、建築主に非常に喜んでいただいた家もあります。「あなたのお陰で素晴らしい家ができた。ありがとう」といってもらえると、やはり嬉しいです。涙が出ました。娘さんの結婚式に呼んでいただいたこともあります。人から評価されると、これほど嬉しいものかと思います。人間にはそのようなDNAがあるのでしょう。
建築主と住宅会社の現場担当者という関係ですが、何十年という末永いお付き合いが続いている場合もあります。これは素晴らしいことだと思います。残念ながら逆もあります。トラブルで裁判になった例、壊して持って帰れと怒鳴りつけられた例、工期が遅れて迷惑をかけた家、変更が伝わらずにやり直した家など、実に多くのトラブルを経験しました。
建築主が感じる納得感
住宅会社ですから、出来上りには、ハード面で当然、合格ラインに達した家を提供します。しかし、建築主が感じる印象は様々でした。大変満足する方も、大変不満を持つ方もありました。同じような条件(延床面積・金額など)であっても建築主の感じ方には大きな開きがあります。我々、現場の人間からみると、同じような対応をし、同じようなQ(Quality品質)・C(Cost予算)・D(Delivery納期)であってもです。特別にその家だけを手抜きするようなことは絶対にありません。与えられた条件の中で最善の努力をします。当然のことです。
しかし、建築主の感じ方には差が大きいのです。昔は、運が悪かったのかなーとも思いましたが、最近、私には何となくわかるような気がしてきました。それは何かというと、建築主が感じる「納得感」ではないかと思うようになりました。建築主の感じることがすべてであって、住宅会社側が感じるものではありません。建築主が自分で納得をしたものなら、多少の難があっても納得です。ところが建築主が、充分に納得する前に、建築がスタートする場合もあります。建築主が納得しないうちにとはどういうことでしょうか。それは営業・設計・工事の各担当者が充分な説明を建築主に対して、していないということです。もちろん、忙しい仕事の中ですから、一から十まで、全部説明はできないでしょう。だから、屋外単品受注生産の、その家だけのための図面や仕様書、見積り書などを作成します。一方、建築主も異議申し立てることなく、自分が納得しないうちに、何となく建築がスタートしてしまうのです。住宅建築という大金をかける割には、計画の期間が短いといえます。
期間が短くても密度が濃ければよいのですが、現実はそうでもありません。もっと早めに計画をスタートするべきです。2年前くらいから計画をスタートしてもよいと思います。
任せるか、納得か
建築主には様々な人がいました。自分で調べて納得しようとする方、我々専門家にお任せする方(お任せで最後までOKする方はよいのですが、お任せしたものの、プロとして適切なアドバイスがないとお叱りを受ける場合もあります)、専門家の知人を呼んでくる方などもあります。「こんなハズではなかった。プロとしての適切なアドバイスがなかった。この家はいらないから、壊して持って帰れ」などの言葉が出ます。施工を担当する者として、真につらいものがあります。
たとえ、時間をかけてでも、納得してから着工すべきものです。工事を進行させながら、途中で変更しながら、納めていくやり方もありました。中には、照明器具を自分で選び、取り付けてから、やっぱりイヤという主張をして変更する方もありました。お金は変更前と変更後の照明器具代と取付け費の、当然両方ともが必要になるのですが、前のものを返品して減額するように要求され、差額でという主張を大真面目でされます。だれも梱包を開けて、取り付けた物を返金して引き取ってくれません。壁の仕上げクロスも貼ってから、気に入らないと変更を要求されました。剥がしたクロスはゴミにしかなりません。現場で発生するゴミのことを産業廃棄物といいます。環境も害しますが、コストも傷みます。要するに、だれかが費用を負担し、損をしているのです。
このような場面が続くと、残念ながら技術者としての心が通わなくなります。はやく終わって逃げ出したい一心で、仕事をこなすようになります。こうなるとうまくいきません。このような場合は、建築主も、住宅会社側も望むところではなく、双方にとって不幸なことです。せっかくの大金をかけ、人生最大の買い物をするのですから、もっと満足感を味わう方法がないものかと思います。
過去のトラブル経験から
この本では、過去にトラブルになった例や、ここは説明して、念押ししておいた方がよいと思われるポイントを列記しました。着工までに、十分な時間をかけて、納得してもらうまで説明すべきです。普段の仕事の忙しさから、手を抜きたくなることもあるかもしれませんが、極力時間をとるようにしたいものです。124のポイントを列記しましたが、ひょっとしたら、多過ぎるかもしれません。もし、それらが杞憂に終わったならば、幸いです。
読んでいただいているあなたが、住宅の技術屋さんなら、該当するポイントは建築主に説明した方がよいと思います。建築主が納得してから着工するべきです。
読んでいただいているあなたが、これから家を建てようとする方なら、このポイントを納得するまで住宅会社に聞くとよいと思います。建築業者側からすれば、これくらいのことは建築主側で最初から確認しておいて欲しいと思うことも多々あります。現実に入居する建築主でないとわからないことも多いのです。
主役は住宅会社ではなく、建築主ですから、建築主の納得がすべてです。住宅会社の担当者の納得ではありません。
夢の住まいづくりの一端を担う
我々は、建築主の楽しい夢の住まいづくりの一端を担う仕事をしています。人を幸せにする素晴らしい仕事だと思います。人に損をさせて、不幸にする仕事ではありません。それがストレスになっては問題です。
一般に、住宅会社では、アンケートをとります。その場合に、総合的な満足度は平均95%以上になります。しかし、個々の内容でみると、多かれ少なかれ、不満は残ります。これだけの事業ですから、多少の不満はあると思います。しかし、その不満が予め想定され、納得して決めたものならば、得心して、不満にはなりません。次のような例があります。
完全な規格住宅で変更不可の建物(変更がないということはその分、工事管理が楽なために、お買い得な価格が設定されている建物です)の場合で、アメリカ製の木製サッシ(ペアーガラス)を全箇所取り付けるというものです。比較的、金額の安い規格住宅としては、性能面で贅沢とも思いますが、調べると、このような場合は結構存在します。このサッシは結露しにくくて、性能は素晴らしいのですが、外国製の商品においては、日本製よりも細やかさが少ない面が見受けられる場合があります。サッシ木部の肌触りが多少ザラザラしたり、ビスが見えたり、隙間があったりと工事担当者は嫌がりました。これではクレーム多発という恐怖心からです。過去に何度も、この種のクレームを経験しているからです。結局、取り替えているわけです。しかし、外国ではこれが普通であり、性能面で素晴らしく、味わいのあるサッシです。そこで、最初から徹底的にこの点を建築主に納得してもらい、納得してくださらない場合には、見送っていただくよう説明しました。ほとんどの建築主は納得しました。このサッシに対してのクレームは全くありません。クレームゼロです。建築主が納得したからです。もしも説明をしなかったら、相当数のクレームは出ていたと思います。この一件以来、納得の大切さを、身をもって学びました。
住まいづくりのパレート
住宅産業はクレーム産業ともいわれるくらいです。本書で指摘したことを確認すれば、完璧だとは思いませんが、打合せ不足による、思い違いなどのトラブルの80%は解消できるのではないかと思います。最初の着工打合せで、少し多めに時間を使い、説明を頑張れば、20%の努力で、80%の効果を得ることが可能だと思います。本書の内容を説明していけば、建築主の信頼もプラスになります。どれだけ時間をかけて、どれだけ内容を説明したかにかかっています。
パレートの法則(80:20の法則)は、住まいづくりの世界では生きています。このような願いを込めて本書をまとめました。建築主は大金を投じるのですから、後で情けない思いをしたくはありません。これは、建築主も、住宅会社も、監督も、各種職人も、同じ想いのはずです。夢の住まいづくりという目標は共通でなければなりません。
建築主と、住宅現場に携わる技術屋との関係において、建築主は、自分の家が全てであり、どのような家ができあがるのか想像できません。一方住宅の技術屋は、会社のシステムの中で、担当する数多くの現場の1つであり、内容を懇切丁寧に全て説明しきれていません。ここに双方の、思い違いが生じます。建築主が大金を注ぐ夢の住まいづくりにおいて、それらの思い違いを1つでもなくすことができればという思いから本書をまとめました。
日本建築協会の出版委員会のメンバー各位、学芸出版社の編集長:吉田隆氏、編集担当:越智和子氏、また挿絵を担当いただいた阪野真樹子さんには、永らく出版に向けて、援助いただき感謝申し上げます。お陰様で本書が誕生しましたので、この場を借りて、心よりお礼申し上げます。有難うございました。
玉 水 新 吾