伝統木造建築を読み解く


村田健一 著

内容紹介

古建築に宿る知恵と技、強さと美しさの源流

日本は、世界最古と最大の木造建築を有し、比類ない木の建築文化を築いてきた。その伝統木造建築の歴史・特徴について、外見的な形や様式に留まらず、建物の強度を確保する工夫、日本人好みの建築美、合理的な保存・修復などを多数の事例をもとに解説。文化財の専門家が、古建築に宿る知恵と技、強さと美しさの源流に迫る。

体 裁 四六・208頁・定価 本体1800円+税
ISBN 978-4-7615-1219-4
発行日 2006-09-10
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介はじめに書評

はじめに

序章 木の文化、建築の文化

古代以来、木造で終始
豊かな森と良質の木材
植物性材料への愛着
モノを残す文化、カタチを残す文化
日本人独特の感覚
中国、韓国の木造建築との違い

第1章 伝統木造建築の歩み

古代─大陸からの技術の移入

仏教の伝来、新建築技術の導入
単純明快な構造
二種類ある構造
キーワードは“一〇メートル”
飛鳥から奈良建築への技術革新
平安時代における技術的展開

中世─技術の昇華、構造のダイナミックな展開

鎌倉期の建築ラッシュ
東大寺転害門修理に見る中世の幕開け
大陸から輸入された新建築技術
貫の使用
古代からの脱皮
金堂から本堂へ
加工技術の進歩
設計法の変化

近世─装飾・荘厳性・経済性・ディテールの追求

組物・軒廻り材の化粧化
彫刻・塗装による装飾
現場合わせの仕事の減少、生産性重視へ
屋根への関心の高まりと新仕様の開発

第2章 伝統木造建築の特徴

建築に使用された木材

時代で見れば
建物の種類で見れば
地域で見れば
建物の部位での使い分け
建物の格式に応じた使い分け
材料の入手

構造─木材の組み方

二種類の構法
校倉的井桁構造から柱梁組構造へ
建物の構成
組物の役割と使い分け
継手と仕口

加工技術

木材の性質と製材
大工道具
大工の気配りと知恵

第3章 伝統木造建築を守り、伝える

日本独自の保存・修理

建物に刻まれた情報を解読する
経年破損のメカニズムとその修理

伝統木造建築を守る制度

文化財保護の歴史
文化財保存のための助成制度

伝統木造建築を守る人々

技術者と技能者
人材の育成

修理の実際

修理の方法・種類
文化財と一般建築の修理の違い
文化財修理は当初復原が原則か
文化財修理事例
文化財修理の成果の蓄積と公開

伝統木造建築を社会で守るために

学界・教育・社会の木造建築離れ
修理に必要な資材・人材の枯渇
木の文化の復権を

用語解説

あとがき

村田健一〔むらた けんいち〕

文化庁文化財部参事官(建造物担当)付主任文化財調査官。
1955年福井県生まれ。福井大学工学部建築学科卒業、東京工業大学大学院修士課程修了。(財)文化財建造物保存技術協会、文化庁、奈良国立文化財研究所を経て、2002年より現職。専門は日本建築史、文化財保存。著書に『国宝東大寺転害門調査報告書』(共著、奈良文化財研究所、2003年)、『シリーズ 都市・建築・歴史2 古代社会の崩壊』(共著、東京大学出版会、2005年)など。

本書のタイトルの「読み解く」の「解く」は、「ほどく」、あるいは「とく」と読めます。広辞苑によると、「結ばれていたものを分け離す」「不明なものを明らかにする」などの意味があります。「解」を使った熟語には、解剖、解体、解釈、解明、解析、解答、解読、解説などがあります。従来の伝統建築に関する著書では、建物の様式、その時代的変化、技法等を紹介する「解説」本が多いように見受けられます。しかし、建物を理解するためには、外見的な特徴等にとどまっているだけでは不十分です。建物の「かたち・規模」には、いくつもの条件や技術的、財政的背景などが存在します。我々が目にする建物は、施主、技術者たちの血と汗の結晶です。本書では、外見の解説にとどまらず、部材一本一本にまで解剖して、それぞれの部材の働きや仕組みを探り、背景にある様々な事象を探り出すことによって、わが国の伝統木造建築の特質を掘り起こしたいと思います。同時に、先人の知恵や苦労なども解明したいと思います。さらに、これらの特質を生かした保存とそのための修理のあり方、具体的方法について述べます。

一口に伝統木造建築と言っても、社寺建築から城郭建築、住宅建築など様々なものがありますが、すべてのことを解き明かすことは紙数の制限もありますし、それ以前に筆者の能力を超えます。また、焦点もぼけますので、最も技術的にレベルが高く、資料的に古代まで追える寺院建築を中心に話を進めたいと思います。

最初に、わが国の伝統建築の歴史を振り返ります。長い歴史にはいくつかの画期があり、技術的な発展あるいは建物に対する考え方の変化などが見られます。各時代の特徴をできるだけわかりやすい言葉で解説したいと思います。

次に、第2章において、時代を通してのわが国の伝統建築の特徴を述べます。ただ、「かたち」などの表面的なものにとどまらず、背景にある建物に対する考え方や技術などについても、「かたち」を通して解明に努めたいと思います。

これまで長い歴史の中で培われてきたわが国の伝統建築、世界に誇るべき建築文化が、大変な危機に瀕しています。さらに悲しいことに、建築に携わる人間でさえその素晴らしさに気づかないどころか、危機にあることすら知らない有様です。最後の章で、この貴重な文化遺産をどう後世に伝えられるかを考え、まとめにしたいと思います。

村田健一

『サライ』2006.11.10

正倉院の校倉建築や法隆寺金堂など古代の木造建築を見ていくと、「10m」というキーワードが発見できるという。使える木材の長さの限界が10mで、当時は材料の制約がそのまま構造に反映していたからだ。ただし、本書は、表面的な建築様式を追うものではない。技術的・財政的な背景も掘り起こしながら、伝統木造建築の歴史や特徴に新たな視点を当てていく。
また、部材のひとつひとつを解剖し、その働きや仕組みについて豊富な図版を駆使してわかりやすく解説。建物の重量を支え、地震や台風にも耐える木造建築を作り出した先人の工夫に目を開かされるに違いない。文化財建造物の保存に長く携わる著者ならではの、保存・修理の事例も興味深い。

(住)