特別寄稿|外出自粛要請のなかで、 コミュニティカフェの意義を再考する/齋藤保
私は20年間、港南台タウンカフェをはじめ、コミュニティカフェの開設と運営、支援にかかわってきた。その経験を踏まえ、株式会社イータウンの20周年に合わせ『コミュニティカフェ』という本を出版しようとしていた矢先、コロナ禍で社会が激変した。
コミュニティカフェがもっとも大切にしてきたのは「人々が居心地良くすごせ、交流する機能」だと思う。その肝心なところを控えなければならない。悩んだが、20周年を祝うイベントは延期し、本は予定どおり出版することにした。
ただ、コミュニティカフェそのもののあり方、将来について悩みはつきない。自問自答に近いかもしれないが、直面している問題、将来への不安、希望をお伝えしたい。
なおコミュニティカフェは初耳という方がおられたら、本書の紹介のなかの「はじめに」をごらんいただければ、概要は知っていただけると思う。またどんな本なのかも是非、見てください。
コロナ感染拡大防止のための現状と課題
さて、今般の新型コロナウイルス(COVID-19)の脅威が拡がり、各地のコミュニティカフェでも対応に追われることになった。
家賃や人件費支払いがあるコミュニティカフェは持続するための工夫や努力が欠かせないことは、拙書『コミュニティカフェ』でも重点的に取りあげた。しかしコロナ禍はそうした工夫すら吹き飛ばしてしまい、財政面で大変な重圧となっている。
タウンカフェの場合、喫茶店や雑貨店という位置づけのため休業要請対象ではないが、営業を続けていいものか、何度も話し合った。社会的な視点では率先して外出自粛を呼びかけるべき立場であるとの意見もある一方、営業を続けて収益をあげないと廃業に追い込まれコミュニティカフェとしての使命を果たせなくなる危惧もある。また現場で関わるスタッフやボランティア、さらには利用者、お客様を守るべく責任も問われている。
ちょうど緊急事態宣言が発出される前後より、世の中で使い捨てマスクが入手困難となり、タウンカフェの小箱ショップで販売されている手作り布マスクのニーズがとても高くなった。納品されると同時に、棚からマスクが無くなっていく日々が続き、作家さんたちが色柄形も様々なマスクをたくさん作成して、そのニーズに応えはじめた。あまりの売れ行きに入店制限を行ったり、一人10枚までの購入制限を設けたりした時期もあった。本当にこうした状況下でお店を開けていてよいのだろうか?そんな葛藤や苦悩の日々の中で、看護や介護の現場で働く人たちから「ここでマスクを買えて助かってます」と感謝の言葉をいただくことが、せめてもの支えであった。
乗り越えるための工夫や知恵
居場所の重要性やあり方が問われ、そして全国各地でコミュニティカフェを含めた地域の居場所作りが広がり、それぞれが地域社会で大きな役割を果たしてきたと感じるこの10年。
しかし今般の世界を震撼させている新型コロナウィルス(COVID-19)については、これまでのような「つながり」や「絆」、「たすけ合い」…そういった私たちが得意としてきたこと、大切にしてきた機能は全く果たせないどころか逆に排除されてしまうという衝撃的な事態を招いている。
こうした、人々が交わり、関わることができないという辛さや悲しみの時だからこそ、支え合いや、つながりが必要だと感じている方が多いにもかかわらず、コミュニティカフェを休業しなければならない、開けても会話を控えなければならないことへのもどかしさを強く感じている。
タウンカフェでも飲食サービスやハンドメイドのワークショップ、各種交流イベントなど軒並み中止とする状況となって久しい。なんとか、小箱ショップの販売のみで営業しているものの、お店の前に「会話は控えましょう」そんなフレーズを書かなければいけない事態となっている。 コミュニティカフェから「つながり」や「コミュニケーション」が消えた、「ただのお店」になった、そんな姿を見て涙が出そうになった。
しかし一方で、マスクを買いに、新しい人達がタウンカフェを訪れるようにもなった。
「これまで気になっていたけど入ったことがなかった」
「今度ゆっくり見せてくださいね」
と新しい関係性の兆しも見えてきている。
地元商店会の事務局も務めている港南台タウンカフェでは、飲食店のテイクアウトキャンペーンを提案・実施している。「頑張ろう港南台テイクアウトキャンペーン」として、商店会の会員のみならず地域の飲食店の情報発信をSNS等で行い、これまでになかった連帯感を強める成果もうまれてきている。また、テイクアウトをすることで「いろんなお店の味を楽しみ、いろんなお店の人と声を交わすようになりました」と、嬉しい声も聞かれるようになった。
オンライン活用なども含めて、様々な取り組みでその機能を僅かながらでも駆使して助け合っていこうという意識が生まれ動いていることも確かだ。
2007年から毎年開催している「キャンドルナイトin港南台」では、まずはオンラインで実行委員会を開催することになった。たまごの殻と廃油で作るたまごキャンドルのワークショップも、これまではみんなで集まってワイワイと行っていたが、「製作方法などを動画で公開して地域の団体や、市民に参画してもらったらどうか」というアイディアもでてきている。これまでのように場所や時間にとらわれずに、より多くの方が参加できる機会が生まれるかもしれない。
また、各地のコミュニティカフェでは悩みや葛藤を抱えながらも、難局を乗り越えるために様々な取り組みを柔軟に行っている。
いち早く動き出したのは大倉山ミエル(横浜市港北区)である。オンラインでシニアの利用者さんとの交流に取り組み、安否確認を実施。日常生活の困りごとにも応えている。
みやの森カフェ(富山県砺波市)ではオンラインを用いた相談対応や、発達凸凹を持つ子どもたちに楽しめる動画を配信している。
お料理のノウハウを活かしたお惣菜の販売を行ったり、オンラインでの哲学カフェや環境座談会を行っているのはハートフル・ポート(横浜市旭区)だ。千葉や鳥取など遠隔からの参加もあり、むしろ、これまでよりも充実した内容となったそうだ。
こまちカフェ(横浜市戸塚区)では人気だったランチをお弁当としてテイクアウトを早期に取り組んだ他、オンライン現場視察会を始め、事業としてオンラインを積極的に活用し様々な取り組みを始めている。
また、音楽などのイベントメインで活動を行っていた、3丁目カフェ(横浜市青葉区)はその特性から完全休業せざるを得ず、高い固定費の支払いが困難になっていたが、クラウドファンディングを行い目標額の200万円を数日で達成。トータルでは450万円を超える寄付を集めることに成功した。
このような取り組みをみな手探りで試行錯誤しながら行っている。
そこで、私が代表を務める横浜コミュニティカフェネットワークでは、オンライン雑談会やメーリングリストを活用して交流促進を図り、こうした状況の共有や知恵や工夫の交換を行っている。
改めて感じるコミュニティカフェの役割とこれからの地域社会
こうした新しい形態での取り組みに前向きに臨んでいけるのも、きっとこれまで築いてきた関係性や培ってきた意識やノウハウがあったからこそだと思う。書籍『コミュニティカフェ』からは、ぜひそのあたりを読み取っていただきたい。
新型コロナウイルス終息後に求められるのはどんな社会なのだろうか。
この間様々なICTツールなどを使いこなし、仕事も買い物も人と関わらず済ませられることを知った方も多いであろう。特に都市部郊外では、長時間かけた通勤をなくすことで、環境負荷を減らし、時間を有効に使えるようになったという効果も生じている。
しかし、無駄をなくし効率の良さを重視するばかりでいいのだろうか。便利な道具を活用することを否定するわけではない。ただ、温かみの感じられる人の関係性や地域の連帯感などがベースにあってこそ、便利な道具を活用した新しい社会が成り立つのではないだろうか。特にリアルな対人関係が十分培われていない子どもや若者たちは、様々な道具を巧みに使いこなすことができても、人と人との関係づくりやその根底にある温かい思いやりなどが置き去りになってしまうのではないかと危惧される。
コロナが終息した後、きっとこれまで以上にコミュニティの大切さや地域のつながりの必要性を感じる時が来るだろう。
これだけオンラインで会議や飲み会ができ、リモートワークで仕事ができるようになったとしても、人と人が肌感でふれあい、お互いを思いやる気持ちを持つ「場」の必要性がより強く感じられる、そういう時がきっと来ると願って止まない。
そしてその時には、コミュニティカフェがその機能に磨きをかけて、より一層地域のニーズに応え、豊かな地域づくりに貢献するようでありたいと思う。
偶然にも、この原稿を書いている時にハートフル・ポートの五味真紀さんからメールが。お惣菜を販売していると「早くここで前のようにランチしておしゃべりしたい~」と言う声が多く、こういった場の必要性を改めて感じているとのこと。「大切なことは、これまでのつながりを絶やすことなく、いつでもふらっと立ち寄れる場所を維持すること。いろいろ模索しながらやっていきたいと思います。お陰様で今日もお惣菜は完売。皆さん、ここでちょっとしたおしゃべりして、ご飯のおかずを買える……それはそれで必要な場だな~と感じている今日この頃です」と話してくれた。
新しい社会における新しい関係づくりに取り組んでいくためにも、今しばらくはコミュニティカフェの本質を失わないような人の関わりと感染予防が両立できる工夫を続けていこうと思う。
筆者略歴
齋藤保 Tamotsu Saito
株式会社イータウン代表取締役、横浜コミュニティカフェネットワーク代表。1968年富山県福野町(現南砺市)生まれ。国立富山工業高等専門学校卒業後、約2年のニュージーランド生活をへて富山YMCAで青少年教育や地域活動ディレクターなどを務めた後に、2002年に横浜市で起業。
地域情報サイトe-townの企画運営やデザイン事業を行い、2005年からは「cafeからはじまるおもしろまちづくり」をキャッチフレーズに「港南台タウンカフェ」を運営。地域の多様な団体・市民参加型のまちづくりを目指し奔走中。2007年からはコミュニティカフェ・ソーシャルビジネス支援事業プロデューサーとして横浜のみならず全国各地の「コミュニティカフェ」の 運営支援や、地域プロデューサーとなる「cafeマイスター」の人材発掘育成事業を展開。
経済産業省ソーシャルビジネス55選(2008年)、横浜・人・まち・デザイン賞(2009年/ 2013年)、まちづくり功労者国土交通大臣表彰受賞(2010年)。総務省地域力創造アドバイザー、認定コミュニティビジネスアドバイザー/コーディネーター、くらしまちづくりネットワーク横浜共同代表、エリアマネジメント組織鹿島田デイズ 幹事など。
著書に『コミュニティカフェ まちの居場所のつくり方、続け方』(2020、学芸出版社)
●関連書籍
誰もがふらっと立ち寄れ、居心地の良い空間を楽しめる。出会いがあり、交流が生まれ、地域活動やまちづくりにつながることもできる場。そうしたコミュニティカフェの魅力と、運営のノウハウを各地の事例も紹介しながら紐解く。著者は開設15年を迎える港南台タウンカフェを主宰し、全国で開設・運営の支援に携わっている。
体 裁 四六・232頁・定価 本体2000円+税
ISBN 978-4-7615-2740-2
発行日 2020/06/20
装 丁 久保田修康