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新・町並み時代

まちづくりへの提案



まえがき



 本書には歴史的町並みをめぐる今日的な話題が数多く収められている。町並みを機軸としたまちづくり運動の現段階での多様なひろがりを一望できる見取り図となっている。

 全体構成は、全国町並み保存連盟が主催する全国町並みゼミ東京大会(一九九八年)において、企画運営にあたった町並み運動に関心を有する東京在住の若手メンバーを中心に議論されてきた一〇を超す分科会の主題がもとになっている。

 しかし、執筆者には、ゼミ当日の議論を踏まえつつさらに深化させ、それぞれの主題について新たに原稿を書き起こしてもらった。それぞれのテーマに関する論述は独立した論文であり、多様な問題意識を配列した、まさしく町並み運動論の集成となっている。

 したがって本書は、全国町並みゼミ東京大会の報告集ではない。東京ゼミを契機とした新しい町並み時代の幕開けを訴える論文集であるといえる。ひとつの全国大会の企画とそこでの議論がさらに深められ、練り直されて、新しいマニフェストとして世に出てくるというプロセスの証言集であるともいえる。ひとつの会議を持つということは、このようなアウトプットを世に送り出すことに意味があるのではなかろうか。

 本書が東京ゼミに参加した方々はもちろん、歴史的町並みの将来について関心を有する多くの人々に参考となると信じている。本書の各所に、町並み活動家をはじめ、歴史的環境保全の専門家や学生・研究者、歴史的な町並みや建造物を地域の活性化に活かしたいと考えている行政担当者や地域の人々にとって役に立つ情報があふれているはずである。

 本書に特徴的な点として、町並みをめぐる視点の深まりや合意形成のあり方など、ひとや仕組み、制度に関する側面への関心が高いことがある。町並みをめぐる問題の運動としての側面に力点が置かれている。全国町並み保存連盟の関心もそこにあるといえる。このようなひととひととの繋がりを通じてしか、運動は広がってはいかないからである。

 とりわけ、ワークショップによる意志疎通や問題点の発掘と整理、合意の形成などの手法を意識的に取り込み、新しい世紀の新しい町並み運動の方法論をそれぞれの著者が身をもって実践していこうという意欲がそこここに溢れている。

 「町並み」という対象自体が、地域住民の主体的な参加を要請している。なぜなら、町並みは所有者が異なる個々の建造物の集合体でありながら、同時に個々人の私有物を越えた公共性を有しているからである。建物は各自のものでありながら、町並みはみんなのものなのである。こうした「共」領域を必然的に抱え込んでいる町並みの運動は、当然ながら、町並みをめぐるひとや仕組み、制度に深い関心を寄せることになる。

 本書のなかで、読者は住民主体のまちづくりの多くの実践事例を目の当たりにすることになるだろう。その意味で、本書はたんに町並み関係者ばかりでなく、住民参画によるまちづくり、さらには住民が主体となって主導していくまちづくりに関心を有する方々にもひろくお勧めしたい。

 町並み運動は、わが国の住民運動の歴史なかでも、住民主体のまちづくり運動の先駆者であった。そして今、町並み運動は、新しい局面で住民主体のまちづくりをさらに広く、深く追求しようとしている。こうした時代の証言としても、本書は価値を有しているといえる。『新・町並み時代』というタイトルも、こうした想いを共有する企画メンバーの議論から生まれた。(西村幸夫)



もくじ
あとがき
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書評



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