建築工事の祭式
地鎮祭から竣工式まで


はしがき


 この小著は,建築工事に関わる祭式を執り行うのに必要な知っておくべき事柄について,地鎮祭から竣工式までの基本的なポイントを押えながら,ノウハウ集として要点をまとめたものです.日本建築協会出版委員会では,建築工事の祭式についてわかりやすくまとめた本が少ないということから,2000年6月に「建築工事の祭式」小委員会を発足させ,小著の内容について議論を重ねてきました.要点を整理しますと次の3点です.

 第一は,同じ建設会社の中でも東京と大阪では祭式の進め方が違うということ.神社界では地鎮祭などの建築の祭式は雑祭として執り行われ,式次第や要領は統一されたものはないということがわかりました.祭壇の飾り付けひとつにしても,建設会社の設営では三段ですが,神社界では平の一段で行われています.神籬を中心に考えれば神饌が逆向きになるという理由からだと思われます.
 第二は,「祭」と「式」の違いは何なのかという点です.儀式の名称を例にとっても,建設業界や一般社会で執り行われている「上棟式」は神社界では「上棟祭」,「竣工式」は「竣工祭」として執り行われています.「祭」とは「まつり」,「祭礼」,「にぎやかな催し」であり,英語ではFestivalとなります.また「式」とは「一定の体裁または形状,或いはきまったやり方,作法,方式」,「儀式」であり,英語ではCeremonyとなります.私見ではありますが,「祭」と「式」を厳密に区別することに本質的な意味がないようにおもいます.
 第三は,本のタイトルについてです.当初は「建築工事の式祭」としてスタートしましたが,最終出稿の段階で式祭という言葉を確認すると辞書にはないことが判明しました.辞書では「祭式」「式典」「儀式」「祭儀」等として掲載されています.この点については出版小委員会での結論を尊重し,祭式とすることにしました.建設業界では式祭という用語で,建築主,神社,設計事務所の方々と現在も違和感なく使用されているのも事実です.

 以上のことをふまえ出版小委員会では,次の基本方針で編集作業を行いました.
 その一つは,建築工事の祭りごとについて小委員会のメンバー各社で実施している事例を実際にあった失敗事例をも交えながら紹介し,建設会社の祭式担当者や企業あるいは個人で建物を建設しようとされる建築主または設計者にもわかりやすく解説し,マニュアルとして利用できる内容とすることです.
 その第二は,消えていきつつある伝統的な建築工事の祭式について今も受け継がれて実際に行われている儀式や道具,作法を,できるだけ忠実に記録として残しておくことです.
 出版小委員会のメンバーは祭式についてはほとんどが専門外であり,読者の立場で何度も読み直し,だれにでも理解できることを前提に編集をすすめてまいりました.
 京都伏見の城南宮宮司,鳥羽重宏氏には最終原稿の確認を含め丁重なご指導をいただきここに発刊の運びとなりました.しかしこの小著は建築工事の祭式に関するひとつの事例を示したに過ぎず,すべてのことをカバーした内容にはなっていないかもしれません.今後,本書をきっかけに読者諸兄から他の事例や資料をご提供いただき,日本建築協会出版委員会として「建築工事の祭式」についての更なる改訂を行っていけることを願っております.

2001年11月吉日
「建築工事の祭式」出版小委員会 委員長  仲本尚志