B級ご当地グルメでまちおこし
成功と失敗の法則

はじめに


 2011年3月11日の東日本大震災で東北は大変な状況になった。まちおこしに取り組む愛Bリーグの加盟団体である石巻茶色い焼きそばアカデミー(宮城県石巻市)と浪江焼麺太国(福島県双葉郡浪江町)の地元も甚大な被害を受けた。東北の各団体も少なからず被害を受けたが、この2団体の地元は本当に大変な状況になっている。

 震災の後、2010年から開催が始まったB-1グランプリ支部大会が数回開催された。震災復興支援大会と位置づけ、最も早かった九州B-1グランプリは震災からわずか2週間後に開催した。開催を決めたのは震災から1週間後のことだ。多くのイベントが開催を見送るなか、2011年3月26〜27日に開催が予定されていた「九州B-1グランプリ」を開催するかどうか、短い時間のなか真剣な議論が続いた。B-1グランプリが単なるグルメイベントであれば、間違いなく、即座に開催中止が決まっていただろう。しかし、B-1グランプリは「グルメイベント」ではなく、全国のまちおこし団体で構成される愛Bリーグが主催する「まちおこしイベント」である。悩みに悩んだ末、開催の決め手になったのは、被災地の団体からの「ぜひ開催して元気を送ってほしい」というメッセージだった。

 「こういう時期だからこそ、私たちは支部大会といえどもB-1グランプリを開催しなくてはならないのではないか」。東北をはじめ、全国の団体からの応援のメッセージに後押しされ、愛Bリーグ九州支部と北九州市の実行委員会は開催の英断を下した。「震災復興支援イベントとして九州B-1グランプリin小倉を開催しよう」と。大会1週間前のことである。私たち愛Bリーグ本部も小倉の実行委員会の方々も、「こんな時期になぜ食べ物のイベントを開催するのか」といった、それなりの数のクレームが来ることを覚悟していた。それには真摯に私たちが悩んで決めた過程と考えをちゃんと伝え、それでも批判を受けるのであれば甘んじて受けようと考えていた。結果は、批判的な意見はほとんどなく、当日会場では「九州から元気を送らんばいけんもんね」「よく開催してくれた。自粛自粛じゃ日本がだめになる。震災の影響がない地域こそお金を使わんばね」といった激励を数多く受けた。本当に涙が出た。

 会場には2日間で10万4000人の方が訪れ、会場の義援金、出展団体の寄付、実行委員会からの寄付を合わせて、約560万円の義援金を寄付させていただいた。

 まだまだ復興には時間がかかるであろうが、今回の震災は私たち日本人の価値観を一変させたのではないかと思っている。そんななか、愛Bリーグ加盟団体の皆さんの絆は、震災以降、より強固なものになってきたと感じる。震災直後は地元自治体からの要請により、各団体がそれぞれさまざまな支援活動を行ってきたが、4月の末から、愛Bリーグとして先々を見据えた長い目の復興支援に取り組んでいる。安全に衛生的に短時間に大量の食を提供できるノウハウは、愛Bリーグ加盟団体はもはやどこにも負けないであろう。炊き出しを中心とした復興支援活動は、震災直後しばらくは日常的な温かい食の提供が主だったが、徐々にB-1グランプリで供される「ハレ」の料理の提供も始めた。避難生活の長期化で不便な生活が日常化しつつあるなか、日常ではない楽しみの一つになれば、と被災地の方々と相談しながら決めてきた。

 私たちはまちおこしに取り組む仲間のネットワークだが、結果的に地域の復興を目指す仲間を支援することのできるネットワークに成長してきたのではないかと思う。今、直接被害を受けた地域はもちろん、直接被害を受けていなくとも、地方は大変厳しい状況に置かれている。震災以前からB級ご当地グルメが注目されてきたが、今こそ、愛BリーグとB-1グランプリが地域と、そして日本を元気にしていくエンジンの一つになるのではないかという思いを強くしている。

 ここで改めて私たちのこれまでの活動を整理させていただこう。

 B級ご当地グルメの定義は「安くてうまくて地元で愛されている地域独特の食べ物」。ここ数年注目を集めてきたが、2010年9月に開催された第5回厚木大会で大ブレイク。初の首都圏開催ということもあり、2日間で43万5000人の来場者を集めるモンスターイベントとなった。

 このイベントのルーツは2006年2月に青森県八戸市で開催された「第1回B級ご当地グルメの祭典!B-1グランプリin八戸」である。屋内イベントではあったが、真冬に全国各地の10のユニークなメニューを集め、一部で熱狂的な盛り上がりを見せた。翌年の「第2回B-1グランプリin富士宮」は、B級ご当地グルメの雄であり、すでに高い知名度を持つ「富士宮やきそば」のお膝元、静岡県富士宮市で開催され、なんと2日間で25万人の来場者を集めるお化けイベントとなる。その後第3回久留米大会、第4回横手大会と20万人を超える集客を果たし、地方発のB級ご当地グルメの一大ブームを巻き起こすこととなった。

 こうして急速にマスコミが注目し始めた「B級ご当地グルメ」は、「ゼリーフライ」や「たまごふわふわ」といった名前を聞いただけではどのようなものか想像できないものから、焼きそばやおでんなど、同じ名前でありながら、まったく別のものが出てくるといった面白さが満載である。地元では当たり前に食べられているが、全国にはまだまだ知られていないユニークなメニューが眠っている。こうしたメニューは地域の宝物として、新たに地域を元気にする起爆剤となる可能性があるのだ。

 B級ご当地グルメは不況の中にあって、地方を元気にする切り札である地域資源となる可能性を秘めている。震災の被害を受けた現在でもその可能性はけっして変わってはいない。B級ご当地グルメブームとともに、食のまちおこしも注目を集めている。富士宮やきそばの経済効果が9年間で439億円(樺n域デザイン研究所調べ)という試算が出て、世間の度肝を抜いた。

 たかだか数百円の食べ物のためになぜわざわざ観光客が訪れるのか。そしてたかだか数百円の食べ物がなぜ数百億もの経済効果を生み出すことができるのか。

 本書では、B級ご当地グルメを活用したまちおこしの本質を解説するとともに、成功のための条件や進め方のマニュアル、そして成功事例を紹介していきたい。

 大変な震災を経験した日本だが、食で故郷を元気にできる可能性が全国各地に眠っているはず。まずは考えてみてほしい。そして問いたい。

 「あなたの故郷を元気にするかもしれない、あなたのまちで愛されている日常的な食べ物は何ですか。」