中心市街地活性化のツボ
今、私たちができること

はじめに

2010年5月、兵庫県伊丹市で第2回の「伊丹まちなかバル」が開催された。5枚綴りのチケットを購入し、まちなかにある飲食店80店のうち5店を飲み歩くツアーだ。「バル」とはスペイン語だ。英語なら「バー」、イタリア語なら「バール」となる。この「バル」は、日本では2004年に函館市で始まった「函館バル街」が最初と言われている。まちの回遊性を高め、店と来訪者をつなげるイベントだ。この日の「バル」では約2300冊ものチケットが売れ、老若男女、市長も市民も、そして県外からも多くの人が集まり、マップを片手に「次はどこに店にしようか」とみんな楽しそうに歩いている。

「バル」当日、午後4時の伊丹商工会議所の会議室。正午から始まったバルの裏側で、その取り組みについて語る伊丹市役所の綾野昌幸さんや市民ボランティアの村上有紀子さんの話に熱心に耳を傾ける30人ほどの集団がいた。地元での「バル」の開催を決めて、先輩伊丹の取り組みを勉強しに来た、滋賀県守山市と和歌山県田辺市で中心市街地活性化に取り組む市民のグループだ。地元でのバルの成功に向けてその顔つきは真剣そのものだ。

一方、中国地方のとある都市の駅前。数年前にまちの顔として市街地再開発事業や各種の補助金を導入して素晴らしい施設を整備したが、その中にあるショッピングセンターの専門店ゾーンには空き店舗が目立つ。また、東北地方のある都市の駅前商店街は人の気配が感じられず、空き店舗対策のチャレンジショップは薄暗く、店内に入るのにも勇気が要る。このように、せっかく補助金や交付金を使ってハコモノを作っても、予定していた集客や売上が達成できなかったり、ランニングコスト(運営経費)が捻出できないなどの理由で事業として成り立たないケースが各地で起こっている。また空き店舗対策で補助金を投入しても、補助期間が終わるとすぐにまた空き店舗になってしまうようなケースが実に多い。このようなことを続けていては、せっかくの税金をいくら投入してもまちは一向に元気にならないし、無駄遣いのツケは全て私たちの子供や孫たちが将来負担することになる。

今、まちづくりの進め方が変わりはじめているように感じる。「まち」が「まち」でしかできないことを模索し始めているように思う。ハコモノ重視ではなく、かつ単なる商店街対策でもない、これまでとは違ったアプローチでまちを元気にする取り組みが全国各地で起こっている。本書では、衰退したまちを活性化させた全国各地の取り組みのなかで、新しい取り組みから時代が変わっても色あせないものまで、是非みなさんに知って欲しい取り組みを紹介しながら、これからの中心市街地活性化において本当に大切なことは何か、そして、今、私たちにできることは何かを、皆さんと一緒に考えていきたい。

本書は専門書ではない。自分たちのまちの中心市街地や商店街の活性化に興味がある、地方の衰退を何とか食い止めたいと思う方々に是非とも読んでいただきたいと思って書いた。本書が、皆さんの地域が元気になるよりよい方向を見い出すきっかけになり、まちなか、中心市街地、あるいは地域を少しでも元気にしたいと心から願っている皆さんに少しでも役に立ち、そして、私たちの子供や孫たちが住みたいと思えるまちづくりにつながれば、これ以上の喜びはない。