公共事業と市民参加


あとがき

 私達が定期的にガサガサを行なっている野川は、普段は水量が少なく流れが穏やかで、メダカが棲むにも、子ども達が入るにもちょうど良い川だ。しかし一旦雨が降ると、普段の様子からは想像できないほど増水し、まれに溢れてしまうことさえある。野川の周辺が市街化して雨水が一気に川に出てくることも原因だが、今までに経験したことのないような局所的な集中豪雨が発生するためでもある。06年夏のガサガサの時には、直前に続いていた不安定な気象のため、安全面から開催が危ぶまれたことがあった。異常気象の原因は地球温暖化だと言われ、影響は身近なところに迫ってきている。

 外環の計画は、私達が多くの疑問を投げかけたにもかかわらず、何事もなかったかのように事業化に向けた手続きが順調に進められている。この本の執筆をしながら、少々虚しさを覚えていたところ、ふと見た環境省のホームページで「地球温暖化とまちづくりに関する検討会」の報告書に私がPI協議会に提出した資料(第二章図19(49頁))が添えられているのを見つけた。地道な活動でもどこかで見ている人はいるのだ、少しは世の中の役に立ったのかと励まされる。
 この活動を通じて改めて東京の町を歩いてみると、環状8号線でも世田谷通りでも幹線道路沿いは騒音・振動が激しく、空気も悪い。国道246号と首都高速が通る三軒茶屋では道路が地上と高架で計3層になっており、少し先の大橋では中央環状線との巨大なジャンクションの建設が進められている。こうした環境は、外環ができたからといって、状況が改善される保証はない。

 道路を増やすことによって自動車交通量が増加するのであれば、道路を減らすことによって交通量を減少させることは考えられないだろうか。バスは時間が読めないし、歩道は歩行者と自転車が共用していて接触の危険があり、お互いに良くない。車線数が多い道路は車線を削り、バスと自転車が一緒に使う専用車線にできないものだろうか。国交省の国土技術政策総合研究所では、地下鉄や路面電車・路線バス等の既存交通施設を活用した物流システムが検討されている。これらを組み合わせ、できるだけ既存のインフラを工夫することで解決策を探ることはできないものだろうか。

 私達の会では多くの方々にお世話になった。ワークショップにご協力いただいた名古屋大学名誉教授・島津康男氏は80歳を超えられたと思うが、土地勘を大事にしたいとワークショップの合間に1日かけて喜多見の町を歩き、「勉強したいから」と本編・資料編合わせて約1千600頁もある環境影響評価準備書を読まれ、国内外の現場を飛び回り、ハイテク機器を使いこなして情報発信をされる。氏の姿勢に度々感銘を受けた。

 このほか、本書にお名前を書かせていただいた方だけでなく、ワークショップやポンポコ研究会の企画者、参加者、そして国交省や東京都の外環担当の方々も、暑い時も寒い時も度々足を運んで真摯に対応してくださった。また、本書の執筆にあたっては、環境自治体会議環境政策研究所・上岡直見氏、学芸出版社・前田裕資氏と中木保代氏にアドバイスをいただき、資金面ではセブン―イレブンみどりの基金から多大なご支援をいただき、私達のささやかな活動を出版物にすることができた。皆様に謹んで感謝の意を表したい。

喜多見ポンポコ会議 江崎美枝子