公共事業と市民参加


書 評
『地方自治職員研修』(公職研) 2007.9
 ある日突然、眠っていた道路計画が凍結解除に向けて動きだし、生活を激震させる─。東京外郭環状道路の検討再開にあたって実施された大規模なPIに関わってきた市民グループ「喜多見ポンポコ会議」。彼らがいかにして賛成・反対を超えた議論をしてきたか、その議論を支えるデータを蓄積してきたかという記録から、PIが抱える問題点を浮き彫りにする。行政・市民の視点のギャップをどうするか? 合意形成を進める方法と課題は? これからPIに関わる人にももちろん役立つ一冊。

『環境技術』(環境技術学会) 2007.7
東京都は、東京都環境白書2000で「自動車と都市環境の危機」を特集し「ディーゼルNO作戦」に取り組む姿勢を打ち出しつつ、一方、「東京都構想2000」では外環をはじめとする交通網の整備によって東京圏の発展をめざす「環状メガロポリス構造」を実現すると発表した。2001年に当時の扇国土交通大臣と連れ立って予定地を視察していた石原都知事の姿は何度もテレビに流れて私たちの記憶に残っている。
 その頃、計画地付近に住む著者は東京都で都市計画図を閲覧した。東京外郭環状道路とは、東京都心から15km付近をぐるりと取り囲む高速道路計画であり、長年凍結されていた計画が再び動き出したのだった。
 東京には珍しく自然が残る地域に暮らす著者は、外環が地域環境におよぼす影響を明らかにしたいと、子供が通う小学校のPTA仲間を中心に語らい「喜多見ポンポコ会議」を発足する。
 この活動の重要な点は、外環に焦点を当てた住民反対運動にならなかったところだ。地域を知る活動(聞き歩き)、地域を楽しむ活動(野川ガサガサ)、それを地域に知らせる活動(ポンポコ新聞)、そして外環を考える活動の4つを地道につづけて2007年にいたる。
 4つ目の「外環を考える」活動は、本書の中心をなすところであり読むに値する。資金確保のために区のまちづくりファンドの助成に応募し、現状を知るために関連の勉強会に参加し、都内各地の活動グループを訪ね測定データをもらう。
 テーマを交通に絞って、国の省庁の図書館や、東京都や行政区の情報コーナーで道路地図や関連資料を探す。外環のシミュレーション資料を環境省へ開示請求する。開通前と開通後の交通量予測を調べるために国交省や道路計画コンサルタントに問い合わせるがわからず、ようやく都庁で「交通量調査報告書(道路交通センサス)をみつける。それを元に中央環状線と関係しそうな周辺の交通量の経年変化を見る方法が外環前後のシミュレーションに役立つだろうと、作業を始めるが、道路には、路線名と通称名、途中から名称が変わるものがあり、報告書添付の地図では道路同士がどうつながっているかわからず、また観測地点がわかりづらくどの地点を抽出してシミュレーションを行えばいいか特定できない。首都高速道路公団(当時)から高速道路の接続図「MEXWAYマップ」を手に入れ、市販の道路地図をコピーして貼り合わせ、観測地点の住所と照らし合わせ、相当する資料の数字を抽出する。この作業をほかの環状線についてもおこない、数字をエクセルに落としこみ、既設区間の交通量がどう変化したかをグラフにする。同様の作業をすべての環状線についておこない、外環は既設道路の交通量の増大を誘発する恐れが大きいことを指摘する。
 こうした作業は、著者が国と東京都主催のPI外環沿線協議会に協議員として参加するまでにおこなったうちのほんの一部にすぎない。だれが道路を使っているかの調査に基づいて経済効果への疑問を提出する。これらの現場も歩き、交通や物流、アセスの専門家を招いて勉強し、ワークショップを開き、研究会で代替案を模索する。重要なのは、事業者、市民運動、地域の影響の中で、著者が常に、思い込みをしていないか自身に問いかけ、事実のみを洗い出そうとしている点だ。
 自身学童期の子を持つ会社員であり、家族が何ヶ月か入院もしたというこの7年間で、著者は、地域住民から市民、そして現在では地域計画のプロとなった。月並みな表現だが並大抵のことではない。
 しかし、読んでいてさらに疑問が募るのは、なぜここまで個人が努力を払わねば外環を論じるための検討資料ができないのだろうかということだ。国も都も、何を基礎資料として外環の計画を進めるにいたったのだろうか。
 企画段階からの市民参加をうたう国交省のPI方式が結果としてガス抜きに終わっている現在、これからの公共事業が今後この本を素通りしていくことはできないと信じている。
(金子英子)

『環境緑化新聞』 2007.8.15
 パブリック・インボルブメント(PI)という言葉をよく耳にするようになった。行政サイドが政策の構想段階で市民の意見を取り入れるために意思表明の場を設けようという試みだ。普通「市民参画」と訳されることが多い。
 50年代に米国で始まり、現在では交通計画の合意形成手法として定着している。日本では東京外郭環状道路や横浜環状南線の整備事業の事例がある。
 本書では著者の東京外郭環状道路整備事業への関わりからPI参加の方法やその過程の分析、参加の意義や課題が述べられている。今後増えていくことが予想されるPIの取り組みに役立つだろう。
 どんな新しいシステムもすぐ形式的になるのが日本のお役所の特徴。本当に住民の意見を取り入れるということであれば、米国で行われているように住民が望んでいない事業は計画自体の中止も視野に入れた姿勢でなければ、せっかくのPIの導入も住民の理解を得られないし定着もむずかしいだろう。また首長が変われば何年も前の状況に逆戻りというのでは堪ったものではない。

『建築技術』(褐囃z技術) 2007.9
 長年凍結されていた東京外郭環状道路の検討再開にあたって、日本で最初の大規模なパブリック・インボルブメント(PI)が行われた。市民と行政が同じ土俵で建設の是非を含めて協議するという目的は果たしえたのか。賛成・反対を超えて必要性の議論にこだわった市民の記録から、PIが抱える問題点を浮き彫りにする。PIは「市民参画」や「住民参画」と訳されることが多いが、本書では広い意味で使われている「市民参加」という表現を用いている。
 本書では、前半に著者たちが彼らなりに考え取り組んだPIへの参加方法を、後半はこれを発展させた過程や彼らなりの分析方法をまとめた。最後に、彼らを含む市民たちが構想段階の道路計画に参加する意義と課題をまとめている。