成熟のための都市再生


おわりに

 本書は川の整備や河川管理、あるいは河川の調査・計画に長い年月にわたり関わってきた実務者により執筆したものである。したがって、ある特定の狭い範囲の深い学識の範囲で書いた本ではない。社会の背景や河川整備をめぐる経過や現実を認識するとともに、川の現場を念頭におきつつ、実践を意識してこれからの川づくりについて、多自然型川づくり(多自然川づくり)を越えてという視点から述べた。
 そして、この本は、いわゆる環境面に重きをおいた多自然型川づくりではなく、治水面はもとより、川の利用、都市や地域の「空間としての川」、さらには自然と共生する流域圏・都市再生といった、より幅広い視点からの川づくりを述べたものである。しかし、視野を広めただけではなく、より深く生態系あるいは川の自然を考慮した川づくりや、幅広い河川用地を確保しての川の空間デザイン、さらには自然と共生する流域圏・都市再生といった視点から、川づくりに深みを持たすことを具体的な実践事例も踏まえつつ述べたものである。
 第1章と第4章は吉川勝秀が執筆した。第2章は妹尾優二が、第3章は吉村伸一が執筆した。それぞれが対象とした川は、全国の川、既成市街地の川、北海道の川、横浜市郊外部の川など、そのスケールや地域性は異なっているが、全体を通じてこれからの川づくり、河川整備への視点を実践事例とともに示すことができたと思う。
 この本が、行政やコンサルタント・エンジニアなどの実務者のみならず、この面での研究に取り組む研究者や学生、市民団体・市民等に活用されることを期待したい。

 この本の位置づけにも関係することを一つ付け加えておきたい。本文中でも述べたように、少子高齢化、人口減少のこれからの時代は、川の整備についての状況が大きく変化する。すなわち、財政面での制約などから、戦後、特に1960年代以降20世紀後半から続いてきた治水面を中心として川を整備し、国土基盤を形成する時代から、川を維持管理していく時代となることが予測される。川の整備は、これまで以上に、計画的・定常的な整備から、洪水災害を受けた後の災害復旧・改良復旧事業としての整備にシフトしていくと考えられる。世界的にはこれが普通のことである。日本でも20世紀後半がむしろ普通ではない時代であったといえる。これからの時代はこれまでのように“川づくり”ではなく、積極的な川の管理が必要とされる時代となる。
 また、地方部の河川や大河川での取り組みに比較して、多くの国民が暮らす都市の川については、土地の制約等からその再生についての取り組みが十分ではないと思われる。今後は「空間としての川」という視点からの都市河川の再生、さらにはそれを核とした都市の再生が、国内的にも国際的にも重要なテーマとなる。
 このような時代背景から、治水とともに、河川敷への樹木の侵入と繁茂の管理なども含む幅の広い視点で生態系の保全と再生、日常的な川の利用、都市や地域の空間としての「川」の再生や形成を含めた広い意味での「川の管理」についての本も出版したいと考えている。

 最後に、本書を出版するにあたり、学芸出版社の前田裕資さんをはじめ、越智和子さん、小丸和恵さんに大変お世話になった。ここに記して感謝申し上げたい。

平成19年3月6日   
吉川勝秀