成熟のための都市再生


はじめに

 本書は、これからの川づくりについて述べたものである。
 昨今の川づくりは、治水単独の目標で進められてきた人工的な川づくりから、河川整備についての反省と環境意識が高揚した時代の要請に対応した見直しが行われるようになり、20世紀後半からはいわゆる多自然型川づくり(近自然河川工法)が進められるようになった。その多自然型川づくりは、現場での実践において多くの問題や課題があり、その質を向上させるために、全国の担当者会議での議論や研修、学術的な研究等もなされ、多くの努力が払われてきている。そのような課題や問題も内包しつつ、多自然型川づくり(あるいは多自然川づくり)は、それが川づくりの常識とされるべき時代となっている。
 そして、少子高齢社会を迎えたわが国では、今後の川づくり・河川整備の機会は、財政的な制約等があり、さらに限られてくることが予測されている。
 これからの時代の川づくりは、多自然型川づくりが当初めざしたように、治水も環境・生態系も共に満たす川づくりといった視点から、自然の生態系への対応を深めるとともに、さらに幅広く、都市や地域の「空間としての川」や川の利用、さらには自然と共生する流域圏・都市再生などの視点も加えて、その川の位置するところの社会的背景、文化、歴史なども考慮して進められることが望ましい。計画的に、あるいは実際に被った災害後の復旧・改良復旧事業などの限られた機会をとらえ、川づくりは広い視野から思いを込めて進められるべきものであると考えられる。
 そこで、本書は、これまでの経過をふりかえりつつこれからの時代を展望し、川づくり、河川整備について、これまで多自然型川づくりが多数行われてきた地方部の川のみでなく、国民の多くが暮らす都市部の中小河川も対象に加えて、長い実務の経験も踏まえて述べたものである。

 第1章では、「多自然型川づくりをめぐる経過と展望」として、川づくりの経過や河川整備の基本事項、多自然型川づくりの問題点について述べるとともに、第2〜4章で述べる従来の多自然型川づくりを越えた今後の川づくりの展望について述べた。
 第2章では、生態系、そして川の動態を現場での豊富な調査等から掘り下げて深く考察し、「多自然型川づくりを越えて:自然河川工学からの展開」としての川づくりの方向を述べた。
 第3章では、川を軸とした空間構造全体をとらえ、河道と周辺の地形との係わり、空間全体のデザインの視点から、「多自然型川づくりを越えて:空間デザインからの展開」としての川づくりの方向を述べた。
 第4章では、川づくりの視点を河川空間内のみから、さらに都市・地域、そして、川が形成する流域圏にまで広げ、水や物質の循環、生態系、広域生態複合(広い意味でのランドスケープ)、さらには、都市や流域圏の土地利用や社会活動にまで視野を広げて、「多自然型川づくりを越えて:都市・地域、流域圏からの展開」としての川づくりの方向について述べた。

 本書が、これからの川づくりに取り組むコンサルティング・エンジニア、学識者、市民団体・市民、そして川について学ぶ学生や研究者などに活用されると幸いである。

                                      平成18年5月6日
吉川勝秀