多自然型川づくりを越えて


書 評
『PORTAL』((財)河川情報センター)No.064
 多自然型川づくりが始まった背景と経過から、従来の「治水優先」の河川整備との違い、その問題点と課題、今後の展望を整理し、これからの川づくりを提案する。編著者の吉川・日本大学教授は、これからは「多自然型川づくりが当初めざしたように、治水も環境・生態系も共に満たす川づくりといった視点から、自然の生態系への対応を深めるとともに、さらに幅広く、都市や地域の『空間としての川』や川の利用、さらには自然と共生する流域圏・都市再生などの視点も加えて、その川の位置するところの社会的背景、文化、歴史なども考慮して進められることが望ましい」という。

『環境緑化新聞』 2007.6.1
 治水も環境もともに満たす川づくりとして、多自然型工法は90年代に急速に普及した。15年の歳月を経て生態系への理解、現場の技術者の育成、河川用地の確保等、課題は山積している。
 近年の逼迫する公共工事予算は、定着しはじめた多自然型河川整備にブレーキを掛けかねない状況を生みだしている。各事業所がもつ河川予算は災害の復旧・改良費のみという例も少なくないと聞く。広い視野を持っていれば、こうした機会を捉え、多自然型河川づくりへ踏み出していくことができるはずである。
 本書は実践を踏まえた多自然型川づくりの基本をまとめ、さらに自然と共生し、都市・地域の軸となる「空間としての川づくり」を提案している。
 第1章で、多自然型川づくりをめぐる経緯と展望を分析し、第2章では生態系や川の動態を考察し、自然河川工学から、第3章では空間デザインの視点から、第4章では視点をさらに都市・地域や流域圏まで押し広げて、川づくりが論じられている。川づくりに携わる人に新しい視点を与える一冊である。