海域アジアの華人街


書 評
『民俗建築』(日本民俗建築学会)No.129
 かつては華僑という名称で知られた福建省・広東省の居住中国人も、長い年月を経て今日では華人と呼ばれている。
 広辞苑を紐解くと、「華僑とは、中国本土から海外に移住した中国人およびその子孫。東南アジアを中心に、全世界に散在する。……第二次大戦後は二重国籍を捨て、現地の国籍を取得する者が増加し、彼らを華人と呼び、中国籍を保持したままの者を華僑と呼んで両者を区別する場合がある。」と書かれている。1984年に第1回「アジア住居史研究会」が開かれているが、氏はこの研究会の創設メンバーである。海外青年協力隊員としてマレイシアに行き、現地の為に建築の教科書を編纂しても居る。わが国建築史研究の世界では手薄であった東南アジアの近代建築に早くから着目し、もくもくと研究を重ねた結果が、本書に紹介されている。とかく国ごとの断片的になりがちな建築を、マクロに捉え土着の文化や、西洋植民地行政の洗礼を受けながら独自の文化を形成した過程が読み取れて面白い。内容は、多くの共同研究者と共に行ったと言われるほどに、都市の成立、都市空間、栄枯盛衰、住空間、生活、等々多岐にわたって紹介されている。
 一章海外アジアにおける居住地の成立。二章華人街の空間構成。三章華人街の構成要素。四章華人街の都市住居。五章植民地支配とチャイナタウン。六章華人街の現在。に分かれ、四章では平面図・断面図外観写真により、空間の理解ができるようにしている。巻末に比較年表があるのも良い。惜しむらくは少し内容が堅く、単に観光目的だけで読むには重いが、海外に出かける際、訪問する都市の裏を見たいと思う人には、またとない教科書となろう。東南アジア建築研究の基本として、頭に入れておきたい内容である。
(宮崎勝弘)

『環境緑化新聞』2006.5.1
 副題は「移民と植民による都市形成」。華僑が南洋に拓いた華人街や、植民地都市における華人居住地の特徴を明らかにしつつ、華人街の形成原理を探る都市史である。大航海時代の地域貿易路の発展に伴い誕生した南シナ海沿岸の港市を鳥瞰する独特の視点で、華人たちが果たした役割や作り出した空間を説く。