日本の街を美しくする

法制度・技術・職能を問いなおす

あとがき

 これまで数年にわたり都市・環境に関わる五職能団体(日本建築家協会、日本都市計画家協会、再開発コーディネーター協会、都市計画コンサルタント協会、ランドスケープコンサルタンツ協会)では、知的・文化的所為を金銭のみで評価する入札制度の不適切をどのようにしたら行政や社会にアピールできるか、意見交換をしてきた。社会的・文化的貢献へのアピールを行なう上で、「美しい国づくり政策大綱」の発表はまさに時宜を得たものとして受けとめられた。
 2004年五会連絡会に出席していた土田旭の提案で、より実務に近い中から景観問題を検討しようということになり、それまで入札問題を議論していた五会に都市環境デザイン会議を加え呼びかけを行なった。参加希望者はあっという間に60名を越え、その段階で、参加希望者を打ち切ることを余儀なくされた。同年3月4日有志約40名が日本建築家協会のホールに集まった。
 前年に閣議決定された「美しい国づくり政策大綱」を受けて同年制定された「景観緑三法」の施行で、建築や都市にかかわる学会や諸団体、そしてマスコミもにわかに「景観論」をとりあげていたが、そうしたなかで都市や建築のデザインを業務として行っている者として、個々の業務において努力してきたつもりではあるが、結果的に美しい街は達成されていない現実に、少なからず焦燥感をいだいていた。
 日々の実務が景観向上につながらない背景として、個々の力量の問題も素直に認めなければならないが、日頃から感じていた美しい街を実現できない社会システムへの疑問、とりわけ法制度に不備があるのではないかという視点から、美しいまちづくり実現への具体的処方箋を研究しようということになった。
 都市デザイン、ランドスケープ、建築、スーパーブロック開発、まちづくり、そして都市計画の6つの分科会に分かれ、街歩きウォッチングや勉強会を精力的に重ね、隔月の全体検討会で各分科会の研究会成果を発表し議論を深めていった。
 これまでこのことに関する図書の多くは美しい都市、空間事例の紹介が中心であり、これについては専門家である私たちもよく承知していた。しかし、あらためて街をみると美しくない、あるいは街を醜くしている要素が溢れかえっている。出発点は、問題風景の指摘から始まり、背景の分析、改善への提案とすすんだ。研究活動も一年が経過し概ね全体像が見えてきた本年、この研究成果を出版という形で公開し、様々な立場の読者に発信するとともに評価・批判してもらい、提案の実現という次なる目標に進もうではないかということになった。
 学芸出版社が快くこの出版を引き受けて下さったことはこの上ない幸運であった。こうして業務報告書スタイルの無粋な文章の束を、読みやすい一般書のスタイルに再編する作業がスタートしたのは暑い夏休みを前にした7月頃であった。
 最大の困難は30名余による分担執筆である本書に全体としての一本の筋を通すことであった。代表の土田旭を中心に編集委員会を何度も開催した。編集委員会メンバーは、各章のとりまとめ役を御願いした八木健一、高見公雄、井上忠佳、久間常生、杉山隆之、松縄隆、司波寛らの各氏と世話人の私が務めた。各章各節の執筆者については執筆者紹介を参照願いたい。
 多人数による共著であり、できるだけ一冊の著として読みやすくなるよう心掛けたつもりではあるが、なにぶん広範囲にわたる、かつ複数の要素が絡み合うテーマが多く、見解の重複や若干の齟齬もあろうかと思うが、美しさや景観というテーマの特殊性ということでお許し願いたい。
 多くの類似の出版が相次ぐ中で、本書は実務家自らの発言という部分に重きを置き、発言の重みと今後への責任についても意識して書き上げたつもりである。しかしながら、全ての発言は著作者個人の責任において書かれたものであり、所属団体の機関を代表するものではないことをお断りする。
 本書に盛り込まれた様々な提案を、各個人として、また各団体での活動を通して実現してゆくことが、今後の我々の課題である。その過程で本書が研究研修の場での議論の礎となり、また教育の場での教材のひとつとなれば幸いである。
 膨大かつ雑多であった最初の一年間の研究成果を、どうにか読める書物にまとめあげることが出来たのは、ひとえに学芸出版社の前田裕資氏と編集スタッフ諸氏のおかげである。
 ここに全執筆者を代表して謝意を表明する。 

2006年1月
  土田旭+都市景観研究会 世話人 南條 洋雄