本書は私たちがこれまでに学芸出版社から刊行した『都市の風景計画─欧米の景観コントロール 手法と実際』(2000年)と『日本の風景計画─都市の景観コントロール 到達点と将来展望』(2003年)に続くものである。両書は幸いにしてある程度社会に受け入れられ、それなりに役割を果たしてきつつあるということができるが、景観整備に関する手法や事例などの実務的な情報は、景観法の施行と共に一挙に共有されるようになってきた。
次なる課題は「よりよい景観に関して合意を形成することは可能か」という問いであろう。今日では、合意形成の手法に関しては多少とも先進的な事例が見られるようになってきたが、「よりよい景観」とは何かについては、これまでほとんど経験が蓄積されてこなかった。むしろ日本では、特に戦後、こうした問題を個人的感性にかかわる問題と見なして、正面から扱うのを忌避してきたといえる。
そこで、欧米及び日本の歴史の中から、いわゆる「都市美」の源流にあたる思潮を拾い上げ、こまかくその論理展開の歴史を検討することの中から、今日的な課題を解決する糸口を見つけたいと考えるに至った。これが本書の意図である。
したがって本書は、前著のような組織的共同作業の成果というよりも、それぞれの得意分野の論集という体裁をとっている。時間的に限られた作業だったにもかかわらず、すべての執筆者が遅滞なく密度の濃い論文を仕上げてくれた。おそらくは、各専門家にとってもこうした原論的な思考作業が希求されていたのだろう。それは社会一般のニーズであるとも思える。
一見、小難しい理論書に見える本書の根底には、現実的で切実な関心が存在しているということを理解していただければ嬉しい。筆者らが日々格闘している都市計画の分野において、さらにひろく日本の社会一般において、こうした地道な学問的作業が自らの存在意義を確認するものとして認められるものとなりつつあることを信じたい。
作業全般を通して学芸出版社編集部の前田裕資氏にお世話になった。いつもながら細かい読み込みによって著者らの意識を新たな高みに引っ張り上げていただいた。さらに越智和子さんには細やかな気配りの効いたサポートをいただいた。お礼を申し上げたい。
2005年4月
西村幸夫 |