体験!まちづくり学習

まえがき

 建築士は、設計事務所や工務店、ゼネコンで建物にかかわる仕事をしています。建築のプロフェッショナルの私たち建築士が、街にでてまちづくり活動に参加すると、「建築士さんが何故まちづくりを?」と多くの皆さんから聞かれます。
 確かに建築士は、まちづくりを専門の仕事としているわけではありません。しかし住まいや店舗、事務所などのさまざまな建物が集まって街をつくっているのですから、私たちの日々の仕事がまちづくりに深く関わっていることは間違いありません。特に近年高まってきた社会的な要請に応え、消費者から評価される建築士はどのような建築士であるかを考えたとき、個々の仕事で一人ひとりのお施主さんに満足いただくことはもちろんですが、それがまち全体をよくすることにつながってほしいと強く感じるようになりました。
 そんななかで建築士のために組織されている建築士会も時代とともにその性格を変え、地域の人々と協働して行うまちづくり活動にも取り組むようになったのです。
 私たち社団法人京都府建築士会も平安建都1200年の頃まちづくり委員会を立ち上げ、まず最初に三条通でまちづくり実験事業を行うことになりました。かつてのメインストリート三条通も辻々で町会が分かれ、通り全体で意見を交換できる場がなかったのです。ここで、我々の提案した修景案と、1年間継続して行った懇談会が評価され、次年度には町の人々が協議会を設置し、自らまちのことを考えはじめられました。
 社団法人京都府建築士会全体の事業であった記念事業が終り、まちづくり委員会は歩車共存道路の整備事業と、またそれ以降も三条の町の人々と長くお付き合いすることになるのですが、引き続きこの本の骨子である「教員と建築士のコラボレーションによるまちづくり学習」を開始しました。
 言うまでもなく21世紀のまちを担うのは、今の子どもたちです。子どもたちがしっかりとまちを見、愛着をもって育むようになれば、20年後、50年後のまちはきっと素晴らしくなるでしょう。ただ、残念なことに、自然にそのようになるかというと家庭も地域もそういった知恵を伝えていく力が弱くなっているのではないでしょうか。だからこそ、総合学習や家庭科の授業のなかで、まちづくりを取り上げていただき、まちを体験し、まちのよいところ、困ったところ、そしてその改善のための方策を知っていただければと思います。

 最後に、力を合わせ本書を執筆いただいた京都市立日吉ヶ丘高等学校、京都市立高等学校家庭科研究会の先生方、そして授業に参加いただいた生徒の皆さんに感謝します。私たちもまた、授業の中で教えられ、大勢の方々と意思を疎通させコーディネートする力を貯えることができました。本書をまちづくり授業に関心をお持ちの先生方はもちろん、建築士の仲間にも是非お読みいただき、実践していただきたいと願います。
 そしてもし、本書を読まれ、取り組んでみたいと思われたとき、よき協力者が身近におられなかったら、巻末に各地の建築士会のリストを掲載しておりますので、ご連絡ください。

社団法人京都府建築士会
会長 衛藤 照夫