体験!まちづくり学習

あとがき

 この本は、京都府建築士会のまちづくり委員会と、京都市立高等学校家庭科研究会が、共同で家庭科住居分野の授業をつくりあげたきた過去7年ほどの経過をまとめたものです。
 1996年頃、まちづくり委員会では、これから「建築」と「子ども」をつなげる活動をしていきたいと話し合っていました。ちょうどそんな時に、たまたま私が、知り合いの家庭科教員から、学校で何か建築の話をしてくれないかという相談を受けました。
 「家庭科教材に関して、食物や被服の分野はセミナーの案内なども頻繁に届き、多くの情報が得られる。しかし、住居分野については、そういうセミナーもなく、教科書に書いてある内容を実感したり、自分たちで情報を手に入れる窓口がなくて悩んでいる。何とかいろんな経験をして、それを活かしながら、自分たち自身の言葉で授業を進めたい」という話でした。
 そこで、ロングホームルームの1時限を使い、「建物のいのち」というテーマのワークショップ形式の授業を行うことにしました。生徒達の前に突然現れた建築士への反応はさまざまでした。否応なしの全員参加のワークショップですから、意見シートをまとめる作業に入ってこない生徒も見受けられました。
 当日は、他教科の教員と共に校長先生も見学され、以後の取り組みを大きく後押ししてくださることにもなりました。
 その後、建築士が家庭科の住居授業をサポートすることを目的とした家庭科研究会とまちづくり委員会との合同会議が始まりました。
 本書で「実践」として紹介している「出前授業」も、当初はプログラムのすべてを建築士会がつくっていましたが、始まって3年目の「福祉のまち点検」の授業の頃には、駅や商店街、地域の方との折衝などを含め、準備の多くの部分を教員が行うようになりました。それに伴って、建築士は専門的な知識やネットワークなどの情報を提供し、その授業をより深められるようにサポートしています。実施のかたちも単一校1クラスから学年単位へ、複数校で複数回などとさまざまなバリエーションで展開しています。
 この取り組みでは、町家、バリアフリー、観光、地域福祉などのテーマを取り上げています。京都らしく見えるテーマでも、どこのまちでもその素材を見つけることはできるでしょう。むしろ、あたりまえのものとして見過ごしてしまったり、知らずにいることの方が多いのではないでしょうか。

 私たち建築士は、次代を担う子どもたちが、できるだけ小さいときから住まいやまちに目を向けてほしいと願っています。そして,この本が、総合学習や家庭科などでまちづくり学習をすすめる教員の方々のお役に立てれば幸いです。

 ここで、私たちと一緒に歩んで来られ、びっくりするような出前授業まで準備されるようになった、京都市立日吉ヶ丘高校家庭科と京都市立高等学校家庭科研究会のみなさんにお礼申し上げます。
 また、この本に登場して頂いたたくさんの地域の方々にも重ねてお礼申し上げます。

 最後になりましたが、この取り組みにご理解を頂き、出版の機会を与えてくださった学芸出版社の前田裕資さんと、本づくりなど初めての私たちの編集を担当してくださった中木保代さんに深く感謝いたします。

社団法人京都府建築士会 まちづくり委員会
委員長 山本 晶三