参加と共生の住まいづくり


まえがき


 本書は、〈参加〉と〈共生〉をキーワードとする新しい住まいづくりについて、先駆的な取り組みの検討を中心に、その方向性と可能性を論考したものである。
 今、住まいづくりは、二一世紀の入り口にあって大きく転換しようとしている。
 周知のごとく、わが国では、高度経済成長がはじまる一九五五年頃からバブル経済がはじける一九九〇年代前半にかけ、大規模な住宅需要が恒常的に顕在化し、住宅の確保が長期にわたって国民的課題となった。それへのもっとも一般的な対応策は、公共・民間挙げて宅地の新規開発と住宅の見込み建設をセットとした、いわゆるマスハウジング方式の供給に取り組んだことであった。住宅市場は供給者主導、つまり売り手市場に終始し、住宅ユーザーといえば、分譲住宅を見て回る、公共住宅公募の籤を引く、周旋屋を覗くなどのごく限られた選択肢のなかから受身的に住宅を選び取ることだけが住まいづくりに参加することであった。
 ところが、一九九〇年代に入り、住宅事情、住宅市場は一変した。住宅は大量に供給された結果、住宅戸数は日本全体で世帯数を一割強上回ったが、中身をみると、持ち家の規模水準は欧州を凌ぐにも拘らず、借家は旧態依然として貧しく、住宅の資源配分は著しくアンバランスになっている。住まい手は、常に不満足な選択行動しか取れなかったため、住宅と居住者のミスマッチも、これまた大きい。住宅市場では、新築住宅の需要は大きく後退し、借家の住み替え、中古住宅の買い替え、様々な住宅リフォームなど、住宅ストックを取り巻く需要が、多様な形で現出するようになってきた。
 住宅ユーザーの住宅観も、庭付き戸建持ち家を住宅双六の上がりとする、「資産形成」的な見方から、身の丈にあった住宅に合理的に暮らすことをモットーとする「利用本位」の見方に変わり始めている。その背景には、「物の豊かさ」より「心の豊かさ」を求める意識の国民的転回があり、価値観やライフスタイルの多様化が顕著になってきていることも見逃せない。
 住宅は、「与えられるもの」から「求めるもの」に大きく変化した状況が、二一世紀に入って、俄然鮮明になってきている。
 では、住宅をどう求めていくか。これは、住まいづくりへの参加、突き詰めると、住宅の生産供給過程への直接参加を意味する。本書は、ここに的を絞り、実践論的見地から論じている。住まいづくりへの参加は、ユーザー一人ひとりでは心許ないが、〈協働〉することによって、かなりリアリティのあるものとなる。本書は、この集団的参加について、いくつかの道を提示するものである。
 本書の構成を簡単に示すと、七部からなる。第一部は総論で、参加と共生の住まいづくりに取り組むことの意義を明らかにしている。第二部から第七部までは、住まいづくりへの参加について六つのテーマ、すなわち、@コーポラティブ住宅、Aコレクティブ住宅、B「農」と「住」の調和したまちづくり、C都市の町並みデザイン、D山村と都市を結ぶ木造住宅づくり、E住まい・まちづくりセンター活動、が取り上げられている。これら六つのテーマは、日本建築士会連合会のまちづくり委員会のなかに設けられた「参加と共生の住まいづくり部会」のメンバーが、ここ数年の間に全国各地で開いた塾やフォーラムでの討議を再編集したものからなっている。上記の部会に所属する全委員が編者となってまとめたものである。
 ほとんどの住宅ユーザーにとって、住まいづくりの参加は未体験のことであり、きちんとしたノウハウやマニュアルが蓄積されているわけではない。生産者と住まい手が手を結んでいくためには、その間にあって、建築士やプランナーをはじめとする、住まいづくりの専門家の支援が重要である。そのような主旨から、本書は、住まいづくりに関わる専門家やそれを志す大学生たちを、まず念頭において書かれている。とりわけ、本書成立のきっかけとなった塾やフォーラムが、日本建築士会連合会の活動の一環として取り組まれ、これには開催地の建築士会メンバーの参加を得た経緯もあることから、何よりも全国各所で地域貢献を進めている建築士諸士のご一読とご批判が得られれば幸いである。


2002年1月
編者を代表して 住田 昌二  









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