参加と共生の住まいづくり
本書は、社団法人日本建築士会連合会(以下連合会という)の「参加と共生の住まいづくり部会」の部会活動の成果を、部会メンバー全員が編者となってまとめたものである。
部会の活動母体である連合会は、都道府県ごとに設立されている建築士会が単位組織となり、建築士の品位の保持と業務の改善を図り、もって社会の福祉の増進に寄与することを目的として一九五二年に設立された社団法人である。各都道府県の建築士会に登録された建築士を正会員としているが、入会している建築士の数は、二〇〇一年九月現在、約一二万七〇〇〇人に及んでいる。
連合会は、建築士会会員に対して様々な教育事業を行っている。なかでも、自らの職能を生かして地域のまちづくりに関わっていくことを重視し、その主旨のもと一九九二年に「まちづくり委員会」を設置、様々な形の活動を展開してきている。
この委員会のなかに「参加と共生の住まいづくり部会」という、一風変わった呼び名の部会が、一九九三年に設けられた。その役割は、一つには、全国各地で建築士会の会員を対象に塾やフォーラムを開き、ユーザーの〈参加〉と〈共生〉がキーコンセプトになる住まい・まちづくりの様々な事例についての取り組みの意義、方法論などを学習すること、二つに、それらの行事を通じ、建築士が地域づくりに参画するきっかけを掴んでいくこと、の二点に置かれた。本書では、住まいづくりについて、六つのテーマが紹介されているが、本づくりの原点となった、部会主催の塾やフォーラムをここに記すと、次のとおりである。
まちづくり塾「藤本昌也のコープ住まい塾」
開催日時・場所:1995年3月16日(木)〜18日(土)/多摩市、八王子市
テーマ:ユーザー参加の住まいづくりを通して新しい建築士像を拓く
地域住宅フォーラムin名古屋’95
開催日時・場所:1995年10月14日(土)/名古屋市
テーマ:農住型コープの住まいづくり・まちづくり
まちづくり塾「住田昌二のコープ住宅・なにわ塾」
開催日時・場所:1996年3月14日(木)〜16(土)/京都市、豊中市、大阪市
テーマ:あなたもなれるコープ住宅コーディネーター
地域住宅フォーラムin広島’97
開催日時・場所:1997年2月7日(金)/広島市
テーマ:農住共生の参加型まちづくり・住まいづくり
まちづくり塾「藤本昌也の造景塾」
開催日時・場所:1997年9月4日(木)〜6日(土)/広島市
テーマ:風景と応答する集住デザインの作法を身につける
地域住宅フォーラムin神戸’97
開催日時・場所:1997年12月5日(金)〜6日(土)/神戸市
テーマ:集まって住む―日本型コレクティブハウジングを探る
まちづくり塾「三澤文子の木造塾」
開催日時・場所:1999年3月11日(木)〜13日(土)/奈良県吉野郡川上村
テーマ:山村と都市を結ぶ住まいづくりの作法を学ぶ
地域住宅フォーラムin山口’99
開催日時・場所:1999年12月3日(金)〜4日(土)/山口市
テーマ:山口住まい・まちづくりセンターの誕生に学ぶ
地域住宅フォーラムin富山’01
開催日時・場所:2001年11月9日(金)〜10日(土)/富山市
テーマ:いま、木造住宅に何が問われているか―富山で考える
「参加と共生の住まいづくり部会」のメンバーのうち、住田昌二(部会長)、藤本昌也(副部会長)、大川陸、大久保隆行、長田孝三、寺本晰子、藤田忍、秦正之(事務局)が編者となって、右の八つの塾やフォーラムの成果を検討し、目次のような構成にまとめ直して出来たのが本書である。
部会のメンバーは、今後も都道府県の建築士会との交流を中心に、引き続き塾やフォーラム、ワークショップを通じて各地で展開している事例を学習し、その成果を全国に広める活動を続けていく計画である。職能団体の殻に閉じこもらず、広く建築関係諸団体や福祉やまちづくりのNPO組織などとも交流しながら、参加と共生の住まいづくりの理念を問い直し、その方法論の一般化に努めていきたい。
参加と共生の住まいづくりのキーパーソンはコーディネーターである。主役はあくまでもユーザー(住民)だが、一般に住まい・まちづくりは、ユーザーのニーズを調整しつつ、空間を集約していく複雑な技術的プロセスを辿るので、そのプロセス全体のプロモーションをユーザー自身に期待するのは難しい。コーディネーターが必要とされる所以であるが、残念ながら、いま日本の教育体系のなかで、その職能教育は正統に位置付けられておらず、組織的に養成されてもいない。コーディネーターの養成が急務の状況下で、もっとも近い職能と言えるのが、建築士ないしは都市計画プランナーである。本書がコーディネーター養成の一助となれば幸いである。
最後に、本書成立の切っ掛けをつくってくださった、塾やフォーラムでの多くの報告者、発言者に厚くお礼を申し上げます。また章立ての複雑な本書の編集を根気よくすすめていただいた学芸出版社の前田裕資、中木保代の両氏に深く感謝します。
(社)日本建築士会連合会 秦 正之
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