都市計画の挑戦

書評


『地域開発』 2001.7

 本書は、都市計画に携わる第一級の研究者や実務家10人による論文集である。
 現在の日本は少子高齢化や地球環境の時代、また市民参加と地方分権の時代に入りつつあり、もはや都市が膨張し経済が急速に成長する時代ではなくなった。
 本書ではそのような現状に対応しきれなくなった今までの都市計画の問題点を指摘し、規制や事業の公共性を正面から問い直す。そして都市計画の根拠となる行政の評価や、公共性の概念の再考、都市計画の根底に前提されている考え方にまで遡った考察を進めている。最後には新しい都市計画のフレームやコンテンツについての構想を踏まえた大胆な提案が出されている。
 10人の著者はそれぞれ違った組織に属しているが、「都市計画をめぐる公共性」とは何かが今問われているという問題意識は共通しており、それがこの論文集の共通のベースとなっている。

『都市問題』 2001.5

 近年、地方分権化の流れを受けつつ、都市計画分野では、自治事務化、権限委譲、住民参加手続の充実、条例委任の増大、マスタープランの充実、線引き・開発許可制度の見直し、容積率の移転、都市計画区域外の土地利用規制などの法改正が行われた。これらの改正については、マスタープランが地域における総合行政を展開する計画足り得ていないこと、自治体で独自の規制を行ってもその最終的な担保手段にはやはり欠けることなどの理由で、消極的な評価を与える論考が少なくない。
 本書は、自治体および中央政府の実務家と研究者が地方分権化の時代にあるべき都市計画の姿を検討する研究会の議論の中で生まれたものである。研究会は、編著者らの前著『サンフランシスコ都市計画局長の闘い』(学芸出版社、1998年)の共訳作業から引き続き、各自の専門的な関心事項を披瀝し合い互いに議論を深めたという。そこで、執筆陣とそれぞれの関心が伺える構成を見てみたい。
 第1部「現実からの変革―地方分権と市民参加」には「地方公共団体の文脈から見た都市計画」(小川富由)、「都市計画と市民参加―横浜を例として」(木下眞男)、「生活の質から見た都市計画」(蓑原健)の3章が用意される。現に行われている都市計画の評価、問題点の指摘が中央政府・自治体・海外事例の3様の視点からなされる。
 第2部「基盤の再構築―新たな公共性への挑戦」として、「都市計画、土地利用・建築規制はなぜ必要なのか」(大方潤一郎)、「都市計画の評価」(吉川富夫)、「自立支援による新たな公共性への方途」(若林祥文)、「都市計画と公共性」(中井検裕)が続く。土地利用計画の意味を問い直すとともに、近年の行政改革を貫く諸概念(NPM、評価、公共性の再構築)を都市計画はどう受けとめるべきかが論じられる。

 第3部「パラダイムの転換―新しい都市計画の構想」は、「21世紀の都市像へ向けて都市計画に求められるもの」(西村幸夫)、「21世紀の都市計画の枠組みと都市像の生成」(佐藤滋)、「21世紀都市計画の展望」(蓑原敬)から構成され、都市計画の新しいフレームについて総合的な提案がなされる。
 ところで論文集は、一般に、事例研究の寄せ集めに終始し一貫した主張を展開し得ない危険性を孕む傾向があるが、本書はその傾向を免れている。各論文の完成度も高い上に、著者らの問題関心および共同研究歴に照らし、日本での実例に照らし合わせ海外事例から何を学ぶことができるのか、都市計画の根本にあるべき概念は今後いかなるものであるか、そして前2点を踏まえパラダイム転換のための構想・展望の3つの切り口がバランスよく配置され、それぞれにおいて深い洞察と明確な主張がなされているからである。
 今次の都市計画法改正やそれを受けた自治体での取組について、著書らはいかなる評価を与え、またさらなる改革の指針を提示するのであろうか。さらにはその指針に沿って現行の都市計画法体系のいかなる点がどのように改正される必要があるのか、研究会の今後の活動成果に注目したくなる1冊である。
(T)





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