都市計画の挑戦
新たな公共性を求めて
まえがき
この本は、アラン・ジェイコブスの『サンフランシスコ都市計画局長の闘い』(学芸出版社、98年、原著名"Making City Planning Work, AIP)を共訳する作業の中から生まれた。日本の都市計画の行く末に強い関心を持つがゆえに、地方の都市計画の関係者たち、あるいは街づくりに関心を寄せ、その実践に励んでいる人たちにとって、地方分権化の時代に現場で役に立つ本が無いかと考えた挙句、少し古く、アメリカの現場ではあるが、この本を皆で訳してみようという集い、ジェイコブス研究会が成立し、その共訳作業が始まった。95年末のことである。その研究会のメンバーがこの本の著者達である。
月に一度ぐらいのペースで研究会を開きながら、訳出を進めたが、その研究会での時に白熱した議論を、このままにしておくのは惜しいという思いから、この研究会での議論に触発されて、自らの問題意識をこの際定位して置こうということになった。
97年5月頃、まだ、翻訳の出版も出来ていない段階から、本格的な勉強会が始まり、各自のテーマを披露し合い、議論をしながら纏めてきた。その結果がこの本である。だから、基本的には著者各自の専門的な関心事項に沿って各章のテーマも構成も決められている。
その意味では、これは独立したモノグラフの集まりと考えるべきである。編集上の都合で一応3部構成にして論文を並べているが、どの論文から読んでも一向に差し支えない。しかし、流れとしては、1部では、現実に機能している都市計画から出発して、その問題点を指摘し、建設省や水戸市での経験、横浜やサンフランシスコの実例に照らしてその評価を行っている。2部では、地方分権に向けた早い動きの中で、都市計画の中核にある土地利用計画の意味を問い直し、都市計画の根拠となる行政の評価とか、公共性の概念の再考とか、都市計画の根底に前提されている考え方に遡った考察を進めている。3部では、新しい都市計画のフレームとかコンテンツについての構想を踏まえた大胆な提案が出されている。
同時に、共訳の作業に従事している段階から、筆者間では多くの問題意識が共有されていることが分かり、その共通点を炙り出す形で議論が進行していった。だから、通して読んでいただければ、各論文に通底するトーンを感じていただけるかも知れない。そこで、このトーンをより明瞭に理解し、また、各論文の趣旨をより深く理解するために、この本の全体を流れる議論の枠組みと特徴が見えるように、研究会の経過を簡単に纏め、「あとがき」で報告しておいた。
残念ながら、研究会メンバー倉田直道君の文章は、最後の段階で間に合わず収録出来なかった。
例によって、この本が纏まるに当たっては、学芸出版社の前田裕資氏の励ましと粘り強い編集作業が不可欠であった。一同に成り代わり謝意を表して置きたい。
2000年10月1日
研究会世話役 蓑原 敬
学芸出版社
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