これでわかる!着地型観光


はじめに
 

 「着地型観光」という用語を、比較的早くに使い始めたのは、地方自治体であった。2003〜04年頃からであろうか、地域づくりの最前線に立つ自治体の地域振興や産業振興部門が、着地型観光を地域づくりのキーワードとして、地域政策に盛り込み始めた。またその頃、各地での観光ボランティア活動は、団体設立のピークを迎えている。

 観光業界では、(社)全国旅行業協会が、2003年に開催した「第1回国内旅行活性化フォーラム」のテーマを〈着地型旅行への取り組み〉とし、以来、毎年そのテーマでの全国フォーラムを開催している。一方、旅行会社では、「着地型」という用語自体は以前から用いられていたが、現在の着地型観光とはやや意味合いが異なっていた。国土交通省では、2005年に「着地型旅行商品」という用語を、報告書で用いたのが最初であろう。

 こうしてみると、「着地型観光」という用語は中央や大企業ではなく、地方から発信され始め、定着した言葉といえる。着地型観光には地方の行動と主張が込められている。地域の文化を、そこに住む人々が、観光を通じ、付加価値の高い体験観光商品として発信を始めたのは、ここ数年のことである。

 本書は、着地型観光の全容を概論編と事例編に分け、できるだけわかりやすく、実践向けに解説したものである。筆者らが着地型観光の研究調査を始めた3年前と比較しても、現在、着地型観光は一層、拡大し広く取り組まれている。

 地域づくりという課題に対して、着地型観光がひとつの地域再生事業モデルとなることは間違いないだろう。地域資源は、観光交流によって、現代に活かすことができる。とはいえ、着地型観光の事業としての成功例はまだ少なく、観光事業の推進に必要な着地型のビジネスモデルが確立されているわけではない。その成功と定着のためには、地域側の事業者が旅行商品づくりや販売のノウハウを身につけることが必要であり、また、それに連動した流通システムと都市住民への需要喚起が必要である。

 本書は、その考え方と実践手法を、豊富な事例に基づいて述べたものである。地域の観光の現状が伝わり、その方向を議論する場となれば、本書の意図するところである。読者諸氏の忌憚のない論評をいただければ幸いである。

尾家建生