建築と不動産のあいだ
そこにある価値を見つける不動産思考術



 注意深く建物づくりの世界を観察すると、建築デザインと不動産のあいだには、壁があります。その壁に無関心であると損をするのは、私たち業界人ではなく、お客さんです。ですからその壁にいち早く気づき、業務フローをバージョンアップさせることをお勧めします。あなたが建築の専門家なら、その専門性を磨きながらも、「不動産」や「お金」等の広い技術を学ばれる機会を持たれることも良いでしょう。

 その時大切なことは、価値観の違いを知ることです。建築と不動産のあいだのギャップに限らず、社会ではそういうシーンによく出会うと思います。異なる文化は、どちらが正しいわけでもありません。私たちも常に、先入観や今まで得てきた知識に囚われず、多様性を認め、お互いを尊敬することを忘れないように努めています。時にそれらの枠組みは矛盾し、相反することもあります。しかし両方の知識、技術、価値観、文化のあいだの葛藤から、お客さんの価値が生まれることに気づくと思います。その時、壁は自分の中で消えてなくなり、大きな可能性が広がっていく感覚があるはずです。

 明確なビジョンが見えた方は、すぐにでも行動されることをお勧めします。またそのきっかけをつかみたい方は、弊社が不定期で開講している「創造系不動産スクール・建築不動産コンサルタントコース」に参加されるのも良いでしょう。少人数制で開催されている対話型レクチャーです(www.souzou-kei.com/school/)。本書でも扱われる「壁」や「横断的感覚」は、知識ではなく気づきで得られるものですから、興味がある方はぜひスクールでつかんでください。

 最後に、本書の執筆に際し多くの方のご協力をいただきました。ここで御礼に代えさせていただきます。

 エイトブランディングデザインの西澤明洋さんとスタッフの松田景子さんはじめみなさんには、創造系不動産のブランディングから、本書の表紙デザインや、1〜3章の図版の作成に至るまで、たくさんご協力いただきました。創造系不動産が注目され、コンセプトが広く知られるようになったのは、西澤さんのブランディングの成果に他ならないと思います。

 また創造系不動産の顧問を引き受けてくださっている高垣和明さんからは、私が不動産のことを全く知らない頃から、「正しい不動産取引の考え方」を学ばせていただいています。学芸出版社の井口夏実さんには、当初まったく無名の創造系不動産を発見していただき、本書の書き方を一から教えていただきました。

 インターンの九州大学大学院芸術工学府、江口昇汰さんには、インターン後も3章を中心にたくさんの図版の作成を手伝っていただきました。またケーススタディとして建物づくりを紹介した6組の建て主と建築家のみなさんには、本書の趣旨をご理解いただき、掲載を快くご了解いただきました。

 そして創造系不動産の取り組みに賛成し、一緒に仕事をしてくれている、すべての建築家・クリエイターたちに、心から御礼を申し上げます。


高橋寿太郎