いちばん大切なのは「自助努力」
「小規模マンション」が、特に都市部においてはかなり大きな割合を占め、マンション全体の中でも無視しえないものであることは、ご理解いただけたでしょう。
ここで起きる問題を上手に解決しなければ、やがては大きな社会問題になっていく恐れもあることから、国を初めとする行政が様々な施策に取り組んできた過程も見てきました。
しかし、何といってもマンション管理の主役は、所有者であり居住者でもある区分所有者自身です。
「自助―共助―公助」という言葉があるように、区分所有者個々人と管理組合の自助努力が最も大切なことで、それなしには近隣相互の共助も、行政を初めとする社会の公助も砂地に水を撒くようなものになってしまいます。
「正解」は1つとは限らない
自助努力にもいろいろな形があることを、すでに本書でご覧になったことでしょう。
通常、私たちは、管理規約を最高の自治規範として判断の基準に置きますが、多くの規定は抽象的です。一方、私たち自身(つまり「人」)を含むマンションの現実は、「マンションは社会の縮図」といわれるとおり、複雑そのものです。
人によっては、複雑な現実をむりやり抽象的な規定に合わせようとしますし、逆に規定を無視して現実を優先する人もいます。その考え方の多様さが、しばしばトラブルを生んでしまいます。
言い換えれば、白と黒の両端の間には実に幅広いグレーゾーンが拡がっていて、その中から自分たちに一番ふさわしいものを、合意形成という手間暇のかかる作業を通して見つけ出さなくてはならないのです。
多くの管理組合がその困難な作業に取り組み、そこで流された汗と涙の数ほどの答えを見つけ出してきました。結果的にポピュラーなマニュアルの模範解答と似たものもあれば、それとかけ離れたものもあります。
たとえ個々の答えが模範解答と違ったものであっても、法律や規約に反しない限り、それは、そのマンションにとっていちばん自然な答えだというのが私たちの考えですので、本書では「事例」という形でそのいくつかを紹介してきました。おそらく、皆様のマンションにとってもヒントになるようなものがあったのではないかと思います。
少子高齢社会に不可欠な新たなコミュニティの創出
国の予測よりも早く人口減少が始まっています。また、2005年の合計特殊出生率は1.25で少子化のスピードは収まりそうもありません。一方、高齢化も急速に進行しており、どこのマンションにも高齢単身世帯(一人住まい)が多くある時代となりました。
このような社会構造の変化と産業構造の変化を受けて、かつての村落共同体的なコミュニティは絶滅寸前ですが、それに代わる新しいコミュニティは、まだ生み出されていません。
読売新聞社が2006年5月に実施した世論調査では「人とのつながりの喪失感」が、大都市だけでなく全国的に広がっているという結果が出ていました。その理由に挙げられたのが、「人と接するのをわずらわしいと思う人が増えた(49%)」で、次いで「人の立場を理解できない人が増えた(48%)」です。
ますます人間関係が希薄化していく中で、近い将来、都市を襲う大地震が発生するであろうと推測されていますし、治安の悪化はさらに進行中です。
「社会の縮図であるマンション」も、このような社会全体の趨勢から逃れることはできません。だとすれば、どのようにその被害を減らす対策を講じるのかが大切な課題になってきます。
本書では、耐震性の向上などハード面での問題や、新たなコミュニティの創出などソフト面での対策についても見てきました。
マンションが登場した初期の頃は、「近隣との没交渉」に魅力を感じた人が多かったのですが、阪神淡路大震災やマンションでの凶悪犯罪の多発を経験したいま、昔あった「向こう三軒両隣」の風習にあったように、「ご近所の底力」が見直され始めています。地域ぐるみで子育て支援や老人介護がなされれば、益々進む少子高齢問題の解決の一助となりましょう。その意味で、共同住宅という形態は、その気にさえなれば、人々の「協同」「協働」に好都合だということの再発見です。
約半世紀の歴史を経たマンションは、まさにいま新たな時代を迎えようとしています。
本書がそのささやかな一助になれば幸せです。
2006年11月
三井一征
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