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ポスト・モータリゼーション


書 評

『地域開発』((財)日本地域開発センター) 2002.10
 モータリゼーションが、日本の国土・地域開発や都市構造、生活スタイルに与えた影響は大きい。しかし近年、公害や交通事故など自動車の負の側面が多く指摘される。そこでは、クリーン・エネルギーを利用した自動車の開発・普及だけでなく、もっと根本的な、これまでの自動車依存社会の検証と、来るべき情報化や人口減少時代を踏まえた今後のあり方が問われている。
 本書では、まずモータリゼーションの歴史とその問題点を整理した上で、交通行動の変化、中心市街地問題にも関わるロードサイド・ビジネスの展開、物流、観光という観点から、データも交えつつモータリゼーションの功罪を論じている。そして今後、環境問題、高齢化社会、情報化の中で起こりうる状況と将来展望を明示している。
 今、高速道路建設の是非に関する議論が沸騰している。公団民営化論と政治的利権、地域利害ばかりが注目されるが、本書はより広角的かつ多角的にこの問題を捉える視点も提供してくれるだろう。


『都市問題』((財)東京市政調査会) 2002.6
 従来、都市交通政策においては、道路混雑を解消するための道路整備に重点がおかれていた。
 しかし、大都市圏における道路整備は、財政面からも、住民の合意形成の面からも困難になってきた。また、道路整備によって道路容量が拡大すると自動車交通需要がいっそう増加してしまい、道路整備が交通混雑の解消に直結しないことが明らかになった。さらに、公共交通機関のサービス低下、中心市街地の衰退、自動車排ガスによる地球温暖化や健康被害などの弊害が深刻になってきた。
 こうした反省から、世界の多くの都市において、交通政策の基本理念は、道路整備による道路容量の拡大から公共交通機関の整備等による自動車交通需要の抑制へと、1990年代に大きく転換した。
 本書は、都市交通政策に多大な影響を与えたモータリゼーションに焦点を当て、その意味とそれがもたらした諸問題を的確に捉え、21世紀の都市交通への展望を切り開こうとするものである。
 本書は、第T部「モータリゼーションと都市生活の変貌」と第U部「ポスト・モータリゼーションに向けて」の2部構成となっている。
 第T部では、まず第1章でモータリゼーションの歴史を概観し、自動車交通の問題点と都市交通が志向すべき方向を論じている。そして、第2章から第5章で、モータリゼーションが都市住民の生活に与えた影響を、交通行動、小売業、物流、観光の各視点からより具体的に検討している。
 これに続く第U部では、第6章から第8章で、今後の重要課題である環境、高齢化、情報化の視点から、モータリゼーションの未来像を予測し、あるべき方向性を検討している。そして、第9章で、これらの議論を踏まえて、モータリゼーションが成熟する中で都市をよりよき生活の場とするためには何が必要か、「公共領域」という概念を導入しつつ検討している。
 本書は、モータリゼーションに関する基本的な事項―たとえば、自動車が都市における高密度輸送に適さない理由やモータリゼーションがその弊害にもかかわらず今なお進展している理由―についてもていねいに説明しており、研究者のみならず都市交通に関心を持つ一般の人にもお勧めできる。また、環境、高齢化、ITといった時代の変化を正面から取り上げ、都市交通の将来を大胆に予測しつつ論じている点で興味深い。
 今後の都市交通政策のあり方を考える上で、お勧めしたい一冊である。
(N)


『高速道路と自動車』((財)高速道路調査会) 2002.6
 本書は単なる海外の目新しい自動車対策の事例紹介や自動車が中心となってきた交通の現状解説、あるいはそうしたことを通しての表層的な交通対策の提案を行っているものではない。モータリゼーションを正面から受け止め、質の高い都市をつくっていくために、どうしていくことが必要であるかを、公共領域という著者らの提案の概念を用いて考察したものであり、意欲的な1冊である。
 モータリゼーションとは、一般に次のような一連の変化を含む自動車の急激な普及であると言えよう。経済発展により豊かになった人々が自動車を持ち移動の仕方を変える。また郊外に住宅を持つ。道路の整備に比べ公共交通のサービスが悪い郊外に住んだ人々は自動車が必需品となる。商店や事務所は住宅の郊外化に影響されて、都心から周辺地域へと移転する。駐車スペースの不足する都心の商業地には人々がこなくなる。政府は増え続ける自動車交通量に対応するため道路の整備を急ぐが追いつかない。住宅や商店、事務所の分散により成立しにくくなった公共交通に対しても、政府は補助金等支援を行うが、自動車に転換した利用者を呼び戻すまでにはならない。こうして都市は、分散化した都市構造を形成していく。一方増え続ける自動車需要は、経済発展をさらに加速する。
 著者らが本書の中でモータリゼーションという言葉で表していることもほぼ同じである。さらに著者らは、ある国や地域で実際に見られるモータリゼーションは、経済発展に伴う世帯や企業の行動、その結果生じる問題に対する政府の行動の相互作用の結果出現しているとの認識を示している。そして、これまでのモータリゼーションが結果として環境問題を初めとするさまざまな社会的問題を発生させたのは、政府の行動が都市や地域に対応したものではなく、さらに世帯や企業の行動に影響を与える自動車交通の抱える社会的ジレンマ等の交通に対する共通の理解が不足していたことが原因であるとしている。著者らは、続けてこの状況を打破していくために公共領域の拡大を提案する。
 公共領域とは、著者らが新たに考え出した概念であり、人々が共有しているとの意識を持ち、人々が日常的に交わり(地理的空間を超えたものを含む)あえる場と定義される。例えばカフェ、公民館、公園、都市景観、インターネットを通じた共有物等である。都市が都市としての魅力を保つためには、公共領域の存在が必要不可欠であり、公共領域の拡大こそ都市の質を高めることになると主張する。これまでのモータリゼーションへの対応は、この点を明確に認識していなかったために不十分であったので、21世紀の交通施設の整備は、交通施設そのものが公共領域となるように、さらに他の公共領域の成立を支えるように行われなくてはならないとしている。さらに世帯や企業に対しては、交通への共通の理解というこれも公共領域の拡大が必要だとしている。
 本書は9章で構成されているが、第1章と第9章だけ読んでも著者らの主張は十分伝わってくる。もちろん、モータリゼーションの影響を都市構造、流通、商業、観光という4つの観点から述べた第2章から第5章、21世紀にも社会的制約条件であり続けると考えられる地球環境、高齢化・少子化、情報化という3つの制約条件が、モータリゼーションへ与える影響を述べた第6章から第8章もそれぞれ興味深い内容であるが。交通に係わる人々だけではなく、広く交通に関心のある人々にも読んで欲しい1冊である。
(中央大学理工学部教授/鹿島 茂)