市民版まちづくりプラン 実践ガイド

書評



『地域開発』((財)日本地域開発センター) 2003.1
 全国各地で「市民参加」が注目を集めているが、その中で市民グループが自らのマスタープランの作成を通じて自治体の政策決定に参加しようとする動きがある。このような「市民版まちづくりプラン」は行政版プランと比べて内容に偏りがあったり記述が単純化されたりする傾向があるが、本書によるとそれこそが市民版プランの最大の魅力である「生活者の視点」を表現しているのだという。
 本書の位置づけはこれから初めて「まちづくりプラン」の作成に取り組もうとする人たちへの指南書であるが、行政と意見交換や一般の市民へのアピールなどの体験談は既に腕に覚えがある人にも興味深いものであろう。前半の「実践編」では実際のプラン作成に携わった人たちによる活動の経緯や感想が取り上げられ、続く後半の「ガイド編」では組織運営の方法やフィールドワークの手順や言葉の選び方など、プランを作成していく際の注意点がまとめられている。

『Echo』(豊中市まちづくり支援課) No.88
 近年のまちづくりへの市民参加のあり方には、豊中のまちづくり支援制度のような、「市民主体、行政参加」で市民と行政が互いにパートナーシップを組みながら、地域のまちづくり像を編み上げていくもののほかにも、様々な手法が日本全国で行われています。
 そのひとつに、行政が「都市計画マスタープラン」をつくる際に、市民意見をとり入れるものがあります。そして、この本の第1編では、そうした行政のマスタープランのほか、各種の行政計画への市民意見の反映をめざして、「市民版まちづくりプラン」づくりに取り組んだ活動事例が紹介されています。
 第2編では、「市民版まちづくりプラン」づくりのガイド編になっています。この本の中でとりあげられている「まちづくりプラン」の発想は、豊中のまちづくり条例を踏まえた活動の発想とは異なりますが、特に活動の初動期で知っておきたいこと、気をつけておきたいことには、共通点が多いことがわかります。
 中でも興味深いのは、東京都杉並区と狛江市の事例に共通している課題です。全市域を対象にした論議では対立点が起こりにくくても、プランが具体化すればするほど、限定された地域での土地利用のあり方など、市民相互、市民と事業者間といった個別の利害や私権の制限に関わる話が多くなります。その限度を明らかにした上で、住民が「個別まちづくりの場で、自ら具体的なプランを提案するようになるべきだ」という杉並区の事例報告者の主張はうなずけます。
 しかし、そのための手立てとしては、自分たちでいきなり「プラン」をつくり結論を導くのではなく、プランをつくる過程を、地域のできるだけ多くの人たちと共有することが大事です。そのために、まずオープンかつ民主的に、プランづくりについて論議できる場を自分たちが主体となってつくり、その場で、地域の人たちがみんなで話し合い、勉強を重ねながら進めることが必要です。一部の人たちが勝手につくったプランでは、地域の人たちの共感は得られないでしょう。
 また、自分たちの活動に関わる仲間づくりを進めるため、まちの課題として地域の人たちに投げかけたいこと、まちのいい点として共有したいことなどを整理し、そうした成果などをまとめた「レポート」を、有志でつくることから始めていくことも考えられます。
 まちに関心を持ち始めた、さらに活動に取り組みたいがどうしたらいいかわからないといった「活動の初動期」には、実際の現場の空気を感じることは難しいものです。そのような時には、豊中にあるまちづくり協議会や研究会が開催している、まちづくり討論会や講座などに参加してみることをおすすめしますが、この本の第1編を読んでみるのも一つの方法でしょう。
 こうしたことを念頭に置きながら、この本を読めば、皆さんが地域で進める、まちの将来像の実現をめざした活動に参考となるのではないかと思います。
(津川)

まちづくり交流誌『エコー』(豊中市まちづくり支援課発行、年4回)

 各地域のまちづくり活動ほか、新しい制度や事例、住民主体のまちづくり活動の参考となる本などを紹介しています。「エコー(ECHO)」は Enjoy Communication and Have Our Vision の略で、「楽しく議論しよう。そして、自分たちのビジョン(将来目標)を持とう!」という姿勢を表しています。


『地方自治職員研修』(公職研) 2001.12
 「こんなまちに住みたい」という市民の思いを形にした市民版まちづくりプラン。これを立案、公定、実施していくことは、 勿論ひとり市民の力でなしえるものではなく、行政の意欲と力が必要となってくる。市民のプランづくりは単に要求の主張ではなく、自分たちの要求を他者のそれとすりあわせながら私益を公益へと高めていく作業となる。そのための、市民の能力向上と技術的支援、制度的整備をいかになすか。「事例編」と「ガイド編」からなる本書を参考に、自治を実践していきたい。



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