バリアフリーが街を変える


書評


『地域開発』((財)日本地域開発センター) 2001.10
 バリアフリーには多くの無理解が存在する。ADA(障害のあるアメリカ人法)を持つバリアフリー先進国アメリカでさえも、すべての人がバリアフリーに賛同しているとは限らないという。
 「バリアフリーデザイン研究会」はそれに負けない強靭な意志と粘り強い活動により、社会に情報を提供し、貢献していこうという理念で様々な活動を継続し、また展開している。例えば、住宅バリアフリー改善相談をはじめ公共施設のバリアフリーアドバイス、交通問題を中心としたまちづくりにまで活動を広げ、市民向けのシンポジウム、バリアフリーテキストの作成、バリアフリーデザイン賞の創設、行政との意見の交換など多くの啓蒙活動を行なってきた。その結果、熊本に日本で初めての低床の路面電車を実現させるにまで至った。
 市民が自分の住む街に責任を持ち、積極的にまちづくりに関わる必要がでてきている現在、この本に描かれている研究会(NPO)の活動は、一つの理想的な市民運動の先進事例となるであろう。


『建築とまちづくり』(新建築家技術者集団発行) 2001.6
 最近公共交通、特に新型路面電車(LRT)が流行しているのをご存じだろうか。都市交通やバリアフリー環境、市街地活性化などの議論では、モータリゼーション=クルマ社会の進行で廃れてしまった路面電車の様々な側面について、これまで顧みられなかったその特性への新たな認識が深まっている。
 自動車総量の増加に道路延長・路線増で対応することは、結局はさらなる交通量増加しか生まず、渋滞の解消、排ガスの低減に一向につながらない上、財政的にも無理がある。この問題の解決には、交通需要管理・総量規制の実施とその担保としての公共交通の充実が必要だ。
 移動の自由が保証されず交通弱者でいるということは、方々へ出かけての社会参加が拒絶されていることと同義である。ハンディキャプトに優しいノンステップバス・LRT、利用者の呼び出しに応じるオンデマンドバスなどが注目される。
 クルマの普及で郊外型店舗にくわれてしまった中心市街地の再活性には、ビルを垂直に移動するエレベーターのような、商店街を水平に移動する交通機関があるとよい。そのまま住宅地まで走ってくれるものであればなおよい。市街地へのアクセスが容易になり、人々が戻ってくる。
 本書は熊本でのノンステップLRT導入までの詳細なドキュメント。編者のバリ研はバリアフリーな都市施設の表彰などをしながら市民の移動(モビリティ)の問題にも活動を展開。ヨーロッパへ低床バス・路面電車の視察に出かけてその利点をPR、市交通局の意向とも合致して、後の熊本市電ノンステップLRT導入(日本初)へ大きく貢献した。
 建設・輸送コストが安く、高速化・バリアフリー化が進み、環境面でも有利なLRTを柱にした公共交通の整備は、移動の自由という交通権や、都市機能再生などの観点からも注目される。最近はLRT関係の類書も多数出版されている。
(早)


熊本日日新聞 2001(平成13)年7月4日(水)の紹介

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