プロが教える住宅の植栽


はじめに


 大きくなりすぎたゴールドクレスト、無残に切り詰められたケヤキ、隣地側に大きくはみ出しているミモザ、門廻りの表札やカメラホーンまで隠してしまっているオリーブ……。

 仕事がら各地の住宅地等を見てまわりますが、こんな光景を見かけることが増えています。そして、新しい住宅地ではシマトネリコが10軒に7〜8軒は植えられていますし、マツ、マキなどの仕立物中心の植栽は極端に少なくなってきました。以前とは大きく様変わりした住宅植栽が目につきます。

 そういう筆者も、ここ15年位はマツなどを図面に折込む機会はほとんどありませんでしたし、逆にシマトネリコなどは、実際かなりの現場で使っています。この要因は、敷地スペース、建物デザインの多様化、ユーザーの樹木に対するイメージ・嗜好、メンテナンスの問題、他多々ありますが、樹木の耐性(抵抗力)を含めた特性を理解したうえで、敷地内の門廻り、カースペース、隣地側などの各部分の植栽樹種選定や適切なメンテナンスさえきちんとできていれば、最初に述べたような光景は少ないのではと思います。

 緑(植栽)の持つ機能は、大きくは地球環境という視点から、小さくは住宅での目隠しとしての生垣まで実にさまざまありますが、少なくとも、快適な住空間づくりには欠かせない存在といえます。庭に対する意識が「鑑賞本位の見る庭」から個々のライフスタイルに応じた「介在できる、使う庭」に変化した部分があるように、住宅における植栽の視点もさまざまな要因から変化しており、植物の、エクステリア部分を含めた壁と土間のデザインのマテリアルとしての見方や使いこなしが必要になってきたと言えます。

 樹木、草花、造園(ガーデン)に関する書籍、雑誌等は今までに多数ありましたが、住宅という限られたスペースでの植栽計画に特化した書籍は非常に少なく、あっても照準が絞れていなかったり、現場とかけ離れたものになっていたりもします。

 本書では、植物の基礎的知識の理解から始まり、住宅の各部位(門廻り、アプローチ、階段、塀、土留、カースペース、坪庭、他)から壁面、屋上に至る部分をできるだけ掘り下げた形で構成し、さまざまなテイスト別の計画や植栽代替案等を図面、パース、現場写真等を用いて基本的な考え方から応用までをわかりやすい形で展開しています。また、住宅内部の観葉植物もテイスト別に、リビング、洗面・トイレ、浴室と分けており、植物の基礎的知識からメンテナンスまで、戸建住宅の建物内および敷地全体を含めた植栽(緑)の考え方のポイント等を体系的に説明しています。

 本書は住宅建築に携わるデザイナー、設計事務所の方々からエクステリア、造園に関わる多くの人、また、これから住宅を計画されておられる一般の皆様まで広く読んでいただくことにより、緑を活かす舞台としてのエクステリアデザインを考えるうえで、必ず何らかのお役に立てると思います。先に刊行しました『住宅エクステリアの100ポイント』と併せてご愛読いただければ幸いです。